「問う力」を養う授業!~英語ディベートの段階的導入~

最終更新日:2022年8月26日

1.課題意識

私が、初めてディベートに取り組んだ1996年頃は、まだディベートという言葉自体、教育界でもそれほど認知されていなかったように思います。岐阜県の私立高山西高校で英語教員11年目だった私は、同僚にすすめられるまま、さして意味も分からずクラス活動の一環として日本語でのディベートを始めました。普段はとても大人しく喋ることの少ないある生徒が突如活発に話し出したのを見て、ディベートの可能性を強く感じたのを覚えています。チームへの貢献や反論の衝動が彼女の内面に生まれたのではと思います。クラス全体が活発に議論するようになりました。

その後、長野県で英語によるディベート大会の噂を聞き、すぐに見学に行きました。2日間約200人の高校生が熱気を帯びて英語で議論している光景に圧倒されました。この経験を積んだ若者の未来は、ずいぶん違うものだろうと感じ、すぐに岐阜県大会の開催を思い立ちました。その後、長野の先生方も含め全国から集まった同じ思いを持つ同志とともに2005年、全国組織「HEnDA」を立ち上げました(HEnDAについては文末にてご紹介します)。

英語ディベート活動を始める上で最も大きな課題は、「ディベートは英語がすごく得意な生徒がやるものでしょ?」という固定観念が教員や生徒の間に根深くあることです。確かに全国大会や世界大会という「競技ディベート」は、高いレベルの英語力や訓練が求められます。一方「ディベート」は、全ての生徒が日常的に何らかの形やレベルで身につけるスキルの一つであるべきです。その認識は徐々に広まっていると思います。「英語が上達したらディベートを」ではなく、むしろ様々なレベルに応じて、いろいろな形のディベートがあり、それを通じて英語力を高めるという発想に変わっていく途中なのだろうと私は考えています。

 

2.授業設計方法とポイント:学期における構成、他教員・他機関との連携等

「ディベート」の活動には、様々な段階と手法があると思いますが、その根本はおそらく「問う・問いを立てる」ということではないかと思います。普段の授業の中で、常に生徒に問いかけ、生徒自身が疑問を持つ姿勢を育むことが、ディベートに直結します。

例えば、ロボットテクノロジーがテーマのユニットでは、「ロボットやAIが何をしてくれるのか?」「なぜアンドロイドに違和感を覚えるのか?」と教科書にツッコミを入れるイメージで、論理のつながりや言及されていない部分にまで注目する読み方をしていきます。WhatとWhyを中心に問う、いわゆるCritical Readingです。こうしてディベート活動の種まきをしておきます。その過程で、扱っているテーマの社会での価値や重要性、自分との関わり、是非の線引きについての認識が生まれ自分の意見が構築されていきます。Debatableな内容こそ思考が深まり、論理的に考える必要性が実感できます。

単元の最後に、実際に「A vs B」や「Should Do vs Should Not Do」のような議論を、英語力に応じて意見交換のレベルから始めるのがオススメです。「ディベート」の形に囚われるのではなく、意見を述べる多様な場を設定することが大事だろうと思います。

 

3.ディベート授業準備とポイント:準備するテキスト、ITツール等

論理的思考や批判眼、問う力を養うために次のような取り組みが効果的です。

クラスの状況や段階によって臨機応変に選ぶことができます。

教科書の内容を使ってディベートをする(意見=ツッコミを入れる)

・定型を使ってディベートをする

(※4.の項目にて上記資料はダウンロード可)

また、生徒が話すための大枠のフォーマット(定型)を使って、テーマや意見の箇所を変えるだけで話し出せるようになっています。

(※7.の項目にて上記資料はダウンロード可)

 

4.授業実施とポイント:授業の具体的な進め方、授業中の説明や求めたアウトプット

【授業の進め方】

「ディベートの種まき」、つまり論理的思考や批判眼、問う力を養う手法として、次のようなものが考えられます。必ず項目通りに進めなければならないということは決してありません。単発のみで実施したり、2つ3つ組み合わせたり順番を前後させたりと、授業の状況に応じて自由に取り入れ方を変えることができます。

①Critical Reading1

②Critical Reading2

③質問/反論の練習(各活動の時間を区切って)

④肯定的意見/否定的意見を書く Critical Writing1

⑤判定する力を養う Critical Writing2

⑥Critical Writing3

ここで、6つの進め方を資料にまとめました。いずれのパターンにおいても、質問や反論(ツッコミ)を活発に行えるように導いていくことがポイントとなります。

こちら(授業内でのディベートを活用した展開例.pdf)をダウンロードいただき、詳細をご参照ください。

また、うまくディベート活動が進まないときは、以下の練習から開始することをオススメしています。

【練習の仕方】「とにかく英語でスピーチ練習!」

1)「好き嫌い」スピーチ:好きか嫌いかをシンプルに表現。「なぜ?」の理由を入れよう。

2) どちらが好きですか?どちらを選びますか?:2つを比較した上で自分の意見を述べよう。

(例)麦茶とソーダ。一戸建てとマンション。暑い日のカレーと冷やし中華。都会と田舎。海外旅行と国内旅行など。

3) 「いつ? どこ? 誰? 何? どうして? どのように?」:全部入っているかもう一度最初から自分の意見を言い直してみよう。

4) 交渉する:「〇〇が欲しい」「〇〇が必要だ」と相手に交渉してみよう。

(例)新しいPC。1週間外泊。留学。授業参観に来ないで。宿題ロボット。

5) 意見を言う:「賛成か反対か」を伝えよう。

(テーマ例)布団の中で本を読むこと。夜更かし。毎日外食。1日が40時間になる。中学生から車の運転免許取得。明日から急に20歳になる。夏休みがなくなる。宿題がなくなる。全てのTVゲームが無料。犬を室内で飼うこと(犬の立場で)。親子が1ヶ月入れ替わる事。好きなら相手に告白する。

 

5.評価とポイント:授業内外での評価方法、フィードバック方法

プレゼンテーションを評価する際と同じような観点でディベートを評価することもできますが、私の授業では「積極性」を最も重要視しています。英語の得意不得意は全く関係ありません。ディベート内で積極的に自らの意見を相手に伝えようとしたか?相手の意見を真剣に聞き、考えたか?生徒たちの様子や態度でプラスの評価をつけるようにしています。

ディベートは3人体制で実施するもの(賛成1人、反対1人、ジャッジ役1人)や、4名のグループ同士で対抗するものなどがあります。4名1グループで実施する際は、以下の役割に分かれて行います(HEnDAではこの4名体制を導入)。

・立論:自分の意見を論理的に伝える

・反ばく:相手の意見に優れたツッコミを入れる

・防御:相手の意見に論理的に反論し、自らの意見を守る

・総括:意見をまとめ、改めて自分の意見を伝える

このようにそれぞれ役割も違うため、評価を付けるのは容易ではありません。生徒一人ひとりが自らの意見、役割、そして相手に対して真剣に向き合っているかどうかが最も重要ではないでしょうか。授業内で実施したディベートの評価に関しては、状況に応じて自由に決めてよいと感じます。

 

6.授業を実施した上での成果と課題:想定通りに進んだか。また、得られた成果や判明した課題

ディベート活動をすることで、生徒たちの発話量は確実に増えています。ディベートに勝っても負けても、やる前よりも積極的な姿勢に変化していることが感じられます。普段は大人しい生徒がディベートを通じて大きく変化した姿を、これまで何度も見てきました。

また、今年度の大学推薦入試を終えた生徒からは「面接では面接官が3人もいて少し緊張したけれど、授業内でのディベートで鍛えていたおかげで、最後まで自信を持って話せました。最後は面接官を笑わせられたほど!」「ディベートが自分の中で大きなキッカケになりました!」などの嬉しい声が生徒たちから挙がりました。

普段から自分の意見を常に考え、相手に伝える訓練をしていた成果を生徒にも実感してもらえたと思います。定期的な実施が重要なため、教科書の1単元が終了した後、もしくは少なくとも学期に1度はしっかりと時間をとって授業内でディベートを実施していきたいと考えています。

 

7.これからディベートを授業に取り入れたい先生へのメッセージ:上記を参考にして自分で実施をする先生へのアドバイスや期待すること

「ディベート」を英語が得意な生徒だけのものにしてしまってはいけません。全てのレベルの、あらゆる目的を持つ生徒に提供される学びの場として認識される必要があります。むしろ、「英語は苦手だったが、ディベート(的な活動)が面白くて、英語をだんだん使うようになり、いつの間にか英語が好きになった」という生徒がこれからはもっと現れるべきです。それくらい、疑問を持ったり、自分の意見を言ったり、人と議論したりすることは、本能と言えるほど人を熱くさせるものだからです。

さらにディベートとは、「相手を論破する」スキルではなく、両方の立ち位置に立つことで、自分の意見に固執せず、相手を理解し、尊重し、物事を俯瞰(ふかん)できるようになるスキルです。公正な目を持ち、議論を尽くして問題を解決する姿勢を持った社会人を世に送り出したいものです。

教員である私たちが「なに?」「なぜ?」と問いかける姿勢を日々持つことで、生徒たちが「問う力」を磨く。そしてディベートを通じ議論をたくさん楽しく体験する。そんな環境で、高校生らしい思考(「論理」)を深め、「表現」を豊かにしてほしいと思います。

※ディベートに関する詳しいまとめ資料を作成しました。ダウンロード可能ですので、よろしければ「こちら(英語ディベートの仕方)」からご覧ください。少しでもご参考になれば幸いです。

【HEnDAのご紹介】

全国から集まった同じ想いを持つ同志とともに、2005年に「HEnDA」が立ち上がりました。英語ディベートにご興味をお持ちいただけましたら、ぜひHEnDAを活用いただければと思っております。

※HEnDAとは、High school/ English/ Debate/ Associationの略。ディベートのはじまりはそもそも「変じゃない?」と考えることがスタート、という想いも込められています。

【活動内容】

HEnDAでは、中学生から高校生を対象に(中学生は中学生大会支援を行っています)

①全国大会に向けての指導、大会の企画・運営

②世界大会に向けての指導、参加

③全国への普及活動(教員向けセミナー、YouTube動画制作)

主に上記3点を活動内容としています。

①の全国大会には毎年多くの参加者が日本全国から集まります(2021年は都道府県大会を勝ち抜いた64校370人が参加)。2020年、2021年はオンラインでの開催となりましたが例年通りたいへん盛り上がりました。英語ディベートは大きく「即興型」と「準備型」に分けられます。「即興型」は、大会当日に各試合の20〜60分前に議論するべき論題と賛成・反対のどちらの側に立つかが発表されます。一方「準備型」は、大会の数ヶ月前に論題が発表されます。時間をかけて調べた資料を論拠に客観性を持って議論します。HEnDAの全国大会は「準備型」を採用しており、毎年3月に論題が発表され、11月頃に各県大会、12月に全国大会が開催されます。生徒たちはおよそ9ヶ月もの準備期間の間、自らの主張を裏付ける事実や事例を徹底的に調べ上げて考えを深めていきます。

 World Schools Debating Championships(略:WSDC)と呼ばれる世界大会は、世界各国から英語ディベートの強者たちが集まり年に1回開催される非常に大きな大会です。HEnDAでは、全国に公募をかけ、スピーチ力など審査を経て選ばれたメンバーでチームジャパンを編成し、世界大会に挑んでいます。2021年のWSDCマカオ大会(オンライン開催)では、決勝トーナメントに進み、初めてベスト8に入ることができました。日本代表派遣事業15年の歴史の中で初の快挙です。日本代表が世界に認められた瞬間でした。2022年WSDCオランダ大会でも決勝トーナメントに進み、日本が実力のある国として着実に認知されています。

※本事業は、(公財)ベネッセこども基金(一社)全国高校英語ディベート連盟の、WSDC日本代表共同派遣事業として行われています。

 ③競技としてのディベートではなく、「英語指導」の一貫として、授業内で英語ディベートを取り入れていくことができます。より多くの方にディベートの魅力を伝えるべく、文部科学省と協力し、授業で行う英語ディベートダイジェストPV英語ディベートのすすめなどの動画を制作しました。YouTubeで動画が公開されています。また、実際にディベートを授業で取り入れている学校の事例も観ることができます。

 

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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