子どもたちの「はてな」をくすぐる授業! ~持続可能な児童たちの学びのために~

最終更新日:2023年6月12日

1.授業概要: 授業の対象者、人数、目的

関西大学初等部には1クラス30人前後、1学年60人前後おり、初めて英語に触れるという児童から、帰国子女で英語に自信があるという児童まで、英語のレベルの幅が広い状態である。
1-2年生は、毎朝25分間の英語授業がある。それに加えて、3年生からは週3時間の英語の授業、5-6年生は週4時間英語の授業をしている。
「EXPLORE OUR WORLD」を用いたユニット学習をしているが、これを活かした独自のプロジェクトを毎回組み、1年生から6年生まで系統立てて英語教育を実施している。
小学3年生では、日本語を勉強し始めているオーストラリアの3年生と交流プロジェクトを展開しながら、互いの言語力・思考力・コミュニケーション力を高め合っている。
最終的には海外への修学旅行に向けて、英語で考えて行動できるようになるという「英語考動力」を目標に掲げて、英語で何ができるかということにフォーカスして教育活動をしている。
そのため、1-2年生は主に体を使って楽しく英語に慣れ親しむことを中心に、3年生以降は「話す」「聞く」をベースに、「書く」「読む」も導入しての教育活動を施している。

2.学習目標と課題意識:

全体的な目標は「英語考動力」を身につけることとしているが、本単元においては、「既習表現を使って、自分の言いたいことを言えるように、知っている言葉を場面や目的に応じて活用できるようになってほしい」という思いで、プロジェクトベースの単元を設定した。
そのためには「もしかしたら~かもしれない」と考える批判的思考力や「だとすれば~ではないだろうか」と考える論理的思考力が必要である。
ユニット学習で英語表現を学びながら、これらの思考力も訓練するような授業設計を心掛けている。

3.授業設計方法とポイント: 学期における構成、必要に応じて学生等からの取得情報や他教員・教科との連携

「英語考動力」を身につけるために、以下のような段階を踏んだ授業を単元ごとに児童たちと展開している。

ステップ1:単元の最終的な目標の設定と共有
Ex.海外の人に何かを伝える,映像作品を創る。目標は児童たちと共有する

ステップ2:目標達成のための方法の検討
このプロジェクトのために、具体的に「どういうことを言えるようになればよいか」検討し、クラス全体で共有する

ステップ3:学習の実践とグループ活動
・ドリル活動・コミュニケーション活動を通して、ターゲットセンテンス、フレーズなどを学習
・グループ活動から教え合いによる知識定着

教師側の授業計画においては、「英語考動力」を鍛える具体的な授業展開として、児童たちが展開するステップの達成にむけて、3つのテーマを持って授業を作るようにしている。

テーマ1:未知への好奇心をくすぐる
テーマ2:課題への探究心を育む
テーマ3:プロジェクトで達成感を得る

今回は小学3年生の授業を例に、これらのテーマをどのように実現しているかを紹介する。

テーマ1:未知への好奇心をくすぐる
このテーマでは日本語と英語を「比べる」ことで、子どもたちの「はてな」を連続させながら、学びを深める。
児童に「はてな」を持たせるためには、既成概念を捉え直す場面が必要である。今回の授業では、日本語という既成概念に加えて、過去に学習で使用していた算数の教科書を使って「はてな」を持たせた。
今回以下のように小学1年生で学んだ算数を使って、ヤギを数える問題を日本語で出し、算数で計算してもらった。もちろん、すぐ正解できた。

 

次に、日本語の問題を英語に直したらどうなるのかを考える場面を設定した。


するとHow manyは分かっても、英語で「7匹」をどう表現したらいいのか分からないことが明らかになる。
「やぎ=goats」「ひき=goats?」という「はてな」を持つ。そこで、英語版の教科書を提示すると、answerが7 goatsになっていることを知り、日本語と英語との表現の違いに興味を抱き始めた。
次は更に、「人」を数える問題を提示する。「There are 3 boys.There are 1 girl.」
さっきは「How many goats~?」で良かったが、この場合「How many boys」でも「How many girls」でも違うような気がするという「はてな」が発生する。


この「はてな」を英語の既習表現を用いて乗り越えないといけない場面を作ることで、学習につなげる。
子どもたちは「boys and girlsじゃない?」とか「studentsじゃない?」とか「peopleじゃない?」という声があがる。
ここで既習表現を用いて、なんとか自分の伝えたいことを表現するという「換言力」への意欲と必要性が高まる。

テーマ2:課題への探究心を育む
自分たちが疑問を持ったように、交流しているオーストラリアの子どもたちが、日本語で算数を学ぶときに疑問に思うだろうことは何か考え、それをオーストラリアの子たちに説明できるよう準備をする。
「10」と「3」で「13」と数える日本語に対して、「ten」と「three」で「ten three」でないことに気づかせる。相手の文化と自文化との差を感じ、日本の数の数え方をどのようにしたら、分かりやすく紹介できるか、という課題を持たせる。
いくつかの日本語と英語の算数の教科書内容を見比べることによって、クラス全体で以下の段階をクリアにする。

1.相手の文化における数字概念を知る
2.日本の文化との相違を比較する
3.相違を踏まえた上で浮上する疑問を想像する

次に、交流しているオーストラリアの子どもたちに、オンラインで日本語での数の数え方を分かりやすく紹介するという課題を与え、グループごとに準備をさせる。
4.疑問を解消する分かりやすい説明を考え、ICTを用いてスライド準備をする

テーマ3:プロジェクトで達成感を得る
実際に、オーストラリアの子どもたちに「英語の数の数え方を踏まえた上で、日本語での数の数え方を分かりやすくオンラインで伝える」という発表の機会を与え、発表して相手の反応を直に感じることによって、プロジェクトの達成を実感し、次のプロジェクトへの意欲へとつなげる。

4.授業を実施して得られた成果:

子どもたちは、自ら感じた「はてな」への探究心をもとに、意欲的に楽しく学習を進めることができた。また、その学習を進めることによって、英語だけでなく、算数での数の数え方について理解を深めたり、多文化理解への意識が高まったりしており、総合的な学習成果を感じた。
何より、自分たちが一生懸命に準備したプレゼンテーションを、最終的にオーストラリアの児童たちに紹介し、反応を直に感じることで達成感を得ることができた。このことが、次の学びへの意欲に繋がっている。

5.授業を参考にする先生へのメッセージ: 上記を参考にして自分で実施をする先生へのアドバイスや期待すること

子どもたちの「はてな」を生み出すしかけの一つに、日本語の既得感覚と英語表現との「比較」があります。
今回は、今までに算数科で学習してきた「当たり前」を批判的に捉え
ることで、子どもの知的好奇心をくすぐり、課題への探究心へと繋げました。文化的側面を知ることにとどまらず、そこから生まれた「はてな」をもとに、子どもたちは英語という言語そのものに興味を抱き、自ら探究する中で、自然と技能を身につけていきます。無論、ターゲットセンテンスなどについては、様々な言語活動やドリル的活動を通して身につけられるようにしていますが、それらに加え、上記探究心や、相手意識などから、子どもたちは既習表現などをフルに活用し、相手に伝わるように英語をアウトプットしていきます。単元を終える頃には、様々な表現を自然と定着できるようにする…そのような単元を構成するための一つのアイデアとして、お役立ていただけましたら幸いです。

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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