横断授業を生む仕組み - 鷗友学園女子の教員間コミュニケーション -
最終更新日:2023年7月19日
今回は、鷗友学園女子中学高等学校の社会科・国際部部長の村田裕子先生にお話しをうかがいました。
ユニークな取り組みで常に注目を集める同校。6月末に取材にうかがうと、「地理」と創設直後からの伝統科目である「園芸」によるコラボレーション授業が実施されていました。2023年7月13日には、さまざまな教科の横断型の授業を行う「教科横断DAY」というイベントが開かれます。さらに、夏休み中には市川学園と合同で、リベラルアーツの視点からプログラムを作成した世界の一流講師が集まるDouble Helix: Ichikawa x Ohyuも開催。教科にとらわれず、生徒の学ぶ意欲を刺激し続ける鷗友学園女子の秘密とは———。(聞き手:小泉)
満を持して?! 「強化横断DAY」開催!
———「教科横断DAY」はどのようなイベントなんですか?
(村田)高校1年生が全員、高校2年生は任意で参加するイベントです。1学期の期末試験終了後に、比較的、自由に動ける1日を利用して、授業とは別に機会を設けました。内容はまだ暫定ですが、英語と社会をかけ合わせたり、美術と地理をつなげたり、さまざま教科横断が行われる予定です。テーマも、SDGsや原発、バイオマスエネルギー、原発といった、国際社会のホットトピックを扱うことを検討しています。
(例)
創設時からの伝統 教科横断授業
———おもしろそうですね! 知的好奇心がくすぐられます。横断授業の取り組みは、組織や関わる一人ひとりがしっかり意識していないと、なかなか文化として根付かないと聞きます。その意味で、今回のイベントは意義深いと思います。
(村田)そうですね。ただ、本校では横断型の授業を平常授業中にいつも実施しているので、今回が「特別!」といった感じではありません。
———そうなのですね! すると、御校の場合は先生方が業務の一環として横断授業を企画しているのでしょうか。
(村田)「業務の一環」ではまったくありません。なんと言いますか、本校では横断型授業を行うのが「普通のこと」になっています。
例えば、中学3年生は11月に修学旅行で沖縄に行きます。複数の教科が「沖縄修学旅行」を軸にカリキュラムを作成しています。現代社会では「日本の戦争」をテーマに、戦争と平和について学習しています。その他の科目でも、国語科の現代文では、沖縄戦の手記を読み、一人ひとりがエッセイを書きます。また、生徒が記者となり、自分で決めたテーマについて修学旅行で現地取材を行い、最後はレポートを卒業論文のようにまとめる取り組みもあります。理科では「沖縄の自然環境」や「沖縄の植物」について学ぶ機会を設けています。
その他、授業連携の例ですと、漢文と世界史をコラボレーションさせて諸子百家を掘り下げています。多様な切り口から学ぶことで、諸子百家が哲学や倫理にも関係していることがわかります。また、高校3年生の世界史では経済を軸に、人口論やイギリスとドイツの経済論の対立など、考え方や背景、実際の経済への反映など、教科の垣根を越えて深く掘り下げていきます。必要であれば、例えば理科の先生にリサーチしてから授業を組み立てることもあり、授業内で「理科の実験でやったことだよ」と生徒に伝えることで、理解度や納得度がかなり上がっているように感じます。
(鷗友学園女子中学高等学校の伝統授業 園芸)
———なるほど。歴史を学ぶ場合、時系列で「〇年に誰が何をした」などを一問一答で暗記するような学習になりがちで、あまり記憶にも残らないことが多いですよね。中高生の学習で、「これって結局、何の役に立つの?」という疑問の蓄積が、勉強へのモチベーションを下げる要因かと思います。逆に「今、学んでいることはここにつながるのか!」とわかったり、実体験を通して理解できると、自然と学習意欲が高まりますよね。
(村田)そうですね。小泉さん、突然ですが、ヒンメリをご存じですか?
———ヒンメリ? 何でしょうか?
(村田)幾何学的な多面体をつなぎ合わせた、北欧フィンランドの伝統工芸品です。これを数学の立体を学習する前段階に作成しています。生徒は色や形にこだわってワイワイととても楽しんでいますが、多面体を作成した後に授業で立体を学習すると、教科書などの二次元ではイメージしづらかったことがストンと理解できたりします。
———実体験を学習に結び付けるんですね。
(村田)さまざまな教科で同様の学習方法を行っているので、生徒にも学習内容と実体験を結び付けて考える習慣が身についているように感じます。先日も、「立体が苦手」だと言っていた生徒に、他の生徒が「お豆腐を切ってみたらわかるよ」と教えている場面に遭遇しました。その生徒がお豆腐を切っている姿を想像すると微笑ましくもあり、また、実体験を学習と結び付けられていることが嬉しくもあり、思わず笑ってしまいました。生徒それぞれが異なる興味・関心を探究し、実体験で得られた知見を友達同士で共有している姿は、鷗友の日常風景かもしれません。
横断授業が生まれるカルチャーとコミュニケーション
———普段の授業ではどのような流れで横断型授業を実施しているのですか? 企画会議のようなものがあるのでしょうか?
(村田)ええと、先生同士のおしゃべりです(笑)
———え! そうなんですね?! 素晴らしいですね!
(村田)会話の中で、「今、こういう内容を扱っているよ」とか「生徒からこんな情報を聞いたよ」といった話を聞いたときに、「私はこういうことをやりたいから、一緒にやってみない?」「良いですね! やりましょう!」となる風土があります。
———先生方がひとつの方向に向かれているのは本当に素晴らしいと思うのですが、どのように実現しているのでしょうか?
(村田)やはり教員全員が鷗友学園女子の教育理念を共有し、一番に大切にしているのが大きいかと思います。本校の校訓である「慈愛(あい)と誠実(まこと)と創造」をもとに作成しているのがカリキュラムポリシーです。これは、単に学習指導についてだけでなく、生徒の生活指導の指標にもしています。「キリスト教精神・自由教育」「全人教育・リベラルアーツ」「グローバル教育」の3本柱ですが、なかでも「全人教育・リベラルアーツ」、教科を越えた学びは、創設者の市川源三が当時から力を入れていました。その伝統を現代の教員も受け継いで授業を組み立てています。他教科とコラボレーションできるタイミングを積極的に探していて、「これはできそう!」「ここは難しいかな?」と常に考え、教員同士でコミュニケーションを取り合っています。
———英語科とのコラボレーションという視点ではいかがですか?
(村田)実は英語が世界史との教科横断で一番イメージしやすいと思います。今、企画しているのが「産業革命が社会に与えた影響」です。歴史の授業は、歴史上の出来事を順々に学習していくイメージがあるかもしれませんが、少しアプローチを変えています。
まず、授業は学習の意義から始めます。「『産業革命』はイギリスに端を発して1760年から1840年頃に起こった歴史上の出来事」で終わらせずに、生徒が具体的にイメージできるように伝えることを心がけています。例えば、「みんなの保護者の方が若い頃と今の時代は絶対に違いがあるよね。時代の変化とともに、コミュニケーション手段、雇用の形態、さらに大学や社会で求められる力も変わる。それを起こしているのが技術革新、つまり産業革命が断続的に発生しているから。だから歴史を学ぶことは大事だよ」と。
すると生徒にも歴史を学ぶ意義がストンと入っていきます。覚えるべき部分はしっかり伝えますが、学ぶ意義から学習を始めているので、あまり説明に時間はかかりません。その分、「産業革命が社会に与えた影響」として、現在の社会問題を分析することに時間を使います。
例えば、産業革命の時代でも現代でも、化学や科学の発展や新しい技術が生まれると、必ず反動的な動きがあります。しかしそれでも技術の進歩は止まりませんよね。すると、新しい技術によって発生したり、顕在化した問題を解決しようとする動きが起きます。レアメタルの鉱物を巡る紛争などもその一例ですが、英語のニュースなどの資料を使い、議論したいと考えています。
———英語科とコラボする上で、チェックしている媒体などはありますか?
(村田)英語科で扱っている教科書のテーマやトピックはいつも確認するようにしています。オックスフォード出版やノーススターは世界史にもリンクしやすいトピックが多いです。教科書以外だとBBCヒストリーを意識して見ています。現代につながるテーマもあれば、歴史上、常に疑問視されているテーマに挑んでいるものもあります。それぞれ深く掘り下げ、しっかりとした説明があるので、興味や視野が広がります。TED Talksなど、さまざまな専門家が情報発信しているプログラムも注目しています。古代に関しては、ナショナルジオグラフィックは良い記事が多いので参考にしています。
英語を学ぶための留学からの卒業
———今後、村田先生がチャレンジしたいことや課題意識などありますか?
(村田)英語科の教員ともよく話していますが、「英語を学びに海外に行きます」を卒業させたいと考えています。どんどん海外へは挑戦してほしいですが、「日本で学習した英語を使い、何かを学ぶための留学」をしてほしいと考えています。
英語自体は毎日の授業でも学ぶことができます。本校の場合は、スピーキングも多いですし、生徒はいろいろな表現を身につけていると思います。しかし、「海外に行かなければ英語を使えるようにならない、話せるようにならない」という意識は根強いように感じます。「英語を学びながら新しい興味の対象を見つける」というのも本当に素晴らしいことですが、日本の生活や学びの中から見つけた、生徒それぞれの「何か」を海外でより広げるような留学にしてほしいです。また、アメリカやイギリスの大学では、複数の科目を主専攻とするダブルメジャーが当たり前です。留学に行く前にひとつのメジャーを見つけ、留学後に新しく出会ったメジャーをどんどん増やしていくもの良いと思います。海外に行く前に自分の軸を見つけておくことは、困ったときや不安になったときのよりどころにもなりますし、生徒自身を助けてくれるものだとも思います。
取材・構成:小泉純/記事作成:小林慧子