AR活用、アプリづくり、グリーンバック合成での動画作成… 生徒の主体性が急上昇! ICT先進校の授業法とは
最終更新日:2023年10月11日
コロナ渦で加速した「GIGAスクール構想」により教育現場にも急速にICTが普及し、活用方法や目指す姿に戸惑っている先生も多いと聞きます。そこで今回は、Appleのテクノロジーを活用して教育現場の変革に取り組む「Apple Distinguished Educator」として、コロナ渦前からICT教育に取り組まれている東京成徳大学中学校・高等学校の和田一将先生に、iPadを活用した授業の実践例や効果についてお話を伺いました。
学校改革後の授業や観点評価
———東京成徳大学中学校・高等学校は、コロナ渦前から「Apple Distinguished School」に認定されているのですね。学校全体ではICT教育にどのように取り組まれているのでしょうか?
(和田)2017年度から学校改革が行われ、iPadを導入して積極的に取り組み始めました。以前から基盤はありましたが、学校として伸ばしたいこと、どんな生徒を育てていきたいかが明確になってきたのもこの頃です。本校の建学の精神である「徳を成す人間の育成」、つまり「成徳」の精神を持つグローバル人材の育成を1番のテーマとして目指しています。ICT先進校と言われていますがテクノロジーメインではなく、授業に幅を持たせたいという意識が先にあります。
幅広い授業ができていることは、独自の観点評価にもつながっています。一般的には、1つの定期テストの問題を、知識・技能・思考・判断・主体性に分ける手法がよく使われていますよね。それが一概に悪いとは言えませんが、ペーパーテストだけでなく、ポスター発表のような実技試験も含めたいろいろな活動でのパフォーマンス評価も必要だと考え、評価に取り入れています。
———具体的にはどのような授業をされていますか?
(和田)どの教科も、座学だけではない授業が多いです。例えば、数学の空間図形をARを使って学ぶ、歴史の授業では武士になったつもりでインタビューする、という取り組みをしました。高校のゼミで、コードを書いてアプリを作る授業もあります。
英語だけに納まらない授業
———英語科の和田先生の授業ではいかがでしょうか?
※先生の授業の詳細はご著書『iPadでつくる!クリエイティブな英語授業』で紹介されています(記事末尾に関連リンクあり)
(和田)英語に納まらない、他教科とのコラボレーションのような授業もよくやります。「桜がきれいだから俳句を詠もうか」と英語と日本語で俳句を詠んだ時は、やってみて気付いた面白さもありました。日本語の「春の雪」のイメージと、当てはめた英語が合致しているのかどうかは、とても言語学的なアプローチなんですよね。言葉1つ1つを深掘りする良い機会にもなりました。
現在完了形を学んだ時には、歴史や思い入れのあるものの違いを1枚の写真で表現してみようという活動をしました。「“have” が入っているから、過去の出来事の中でも、自分が今も持っている大切な過去の出来事だよね」という文法的な解説も少しします。写真の情報量はとても多いうえに、指やペンで書き込めばさらに表現できることが増えます。このような活動が、ICTを使えば簡単にできます。
(生徒が作成した「ファーストフードの歴史」)
自分が食べたあんみつの写真の横にケーキを描いて「スイーツの歴史」を表現したり、初詣した神社の写真の後ろに教会やサグラダファミリアを描いてみたり、生徒は思い思いに表現していました。
助動詞の学習時には、グリーンバック合成で動画作成をしました。
(グリーンバックでの動画撮影風景)
助動詞は、“You can eat pasta in Italy.” や “You should go there.” のように、海外へ出かける際にとても使い勝手の良い表現です。そのため、海外の映像を背景に合成し、生徒たちが現地での様子を紹介する動画の中で助動詞表現を使うという活動にしました。
(背景を合成した動画)
4~5年前の当時でも、生徒たちは教えなくてもYouTubeで調べて自力で動画編集できていました。動画作成活動は、友達同士で見て評価できるので、自分の作品を客観的に見ることができるというメリットもあります。
生徒が能動的に動ける仕掛け
———生徒たちが自力で進めているのですね! 先生はどんなところをフォローされるのですか?
(和田)先日、中1で学校紹介動画を作るグループ活動をした時の例でお話しますね。“can” など教科書の最初に出てくる文法表現を確認するために実施した活動です。その際「必要な役割」や「やること」は、教員が提示しました。ストーリーボードのサンプルも見せて、やることが分かる状態までフォローします。とくに低学年の間はこのようなフォローが必要だと思っています。
(ストーリーボード)
生徒が能動的に動けるように、評価軸をある程度同じ観点できちんと決めて生徒に伝えることも大事にしています。教員は以下のような評価軸を元に、生徒たちが作成したストーリーボードの英語や役割分担から、表現をチェックしたり主体性や思考を評価したりします。
(評価軸)
生徒たちも、お互いの動画を見合って評価する中で使うため、評価軸がなじんできます。
動画の内容(何をどんな風に表現するか)や必要な素材は自分たちで調べて決めさせて、段取りや方法は、ある程度、指定する形ですね。
グループは教員がランダムで決めて、生徒はその中で役割やストーリーを決めます。そうすると、習熟度や英語への積極性などに関わらず、全員がきちんと参加できる状態が作れます。これは一斉授業では難しいのですよね。ふざける生徒がいた場合になんとか制するような役割も含め、生徒たちがいろいろな役割をこなせるようになるメリットもあります。
学んだテーマを活動で深める
———制作期間はどれくらいかけるのですか?
(和田)学年が上がると早まりますが、この学校紹介動画作成の活動は最初だったので6コマ(2週間)くらいかけました。教科書が早く終わったときの時間を使っています。
———プロジェクトのテーマや活動内容はどのように決めておられますか?
(和田)教科書の単元ごとに決めています。その単元で学んだ内容を深めるためには何が適しているだろうという考え方です。プロジェクトありきではなく進度に合わせて考えます。
英語が得意ではない生徒も伸びる
———結果として、生徒にどんな成長がありましたか?
(和田)高校2年生の段階の英検準1級の取得率が急上昇し、2級の合格者も増えました。当時、生徒97~98人中、準1級の合格者は9人。最初に次々合格した3人のうち、1人は幼い頃から英語を学んでいた生徒でしたが、他の2人は中1から英語を始めた生徒でした。
チームでのプロジェクト活動によって授業の幅が広がった結果、英語が得意ではない生徒でも授業に参加できています。そのような数年を経て、英語がとても苦手だった生徒が、難関大学の一般受験で進学を決めるなどさまざまな成長が見られています。原稿など活動の中で生徒が作ったものを見ると、問題集をこなすだけよりもその単元の学びが深まっていると感じます。進行の妨げになることが起きても、教員主体でなく生徒がチーム内で自力で解決する経験は、高学年以降の伸び方にも好影響に働きます。
自分を発揮してほしい
———どんな生徒に成長してほしいと考えておられますか?
(和田)日本でも海外でも活躍できる生徒になってほしいですね。本校の温かい雰囲気の中で一緒に学んだことを使って与えられた場所でしっかり自分を発揮できることが、言語習得以上に教科の目標になっています。
———なぜICTを活用した授業をされているのですか?
(和田)テクノロジーが入ることでできることの幅が広がり、生徒も自分の得意を生かしやすくなります。そうすると英語嫌いが減るんですよね。英語に限らず教科の印象は、英語なら「英語が好きか」と「英語の教員が好きか」の2択で決まってしまいます。そしてどちらかがNoだと嫌いになってしまう。ICTを使えば、例えば簡単に色が塗れたりデザインにこだわれたりすることで、絵を描くことが好きな生徒が英語嫌いにならないケースもあります。前述のグリーンバック動画撮影には、英語が苦手な生徒も俳優として授業に参加できていました。チーム活動とも組み合わせて、幅広くいろいろな落とし込み方ができます。「授業に幅を持たせたい」が先にあって、それを実現しやすいので活用している感じですね。
『引き算する力』を鍛えよう
———ICTを活用した授業には他にはどんな効果があると思われますか?
(和田)インターネットの情報にきちんとつながって、取捨選択をする力も身につくと思います。今の大学受験や資格試験は、大量の文章を読んで要約するような内容が多いのです。文章を作る「足し算」より、大事なところを抜き出す「引き算」が求められます。例えば教科書で比較級を扱った時に、インフォグラフィック(さまざまな情報を1つにまとめて図形化したもの)という手法で原稿を作り、グループでプレゼンをさせました。
(生徒が作成した、日本(左)とレバノン(右)の比較資料)
この活動では、両者の違いのような必要情報を自分で探して、その中から正しくて大切だと思う項目を選び、伝わりやすいシンプルさで表現することが必要になります。デザインは基本的に引き算です。
前述の俳句や、私もやっていますがX(旧Twitter)も引き算ですよね。自分が考えていることを、言葉を絞って、言語化して伝えることは、とても難しいです。どこを大切なところだとチョイスするかという、英語学習でも求められる『引き算する力』を自然に鍛える効果もあると思います。
和田先生の『iPadでつくる!クリエイティブな英語授業』の詳細はこちら
取材・構成:小林慧子/記事作成:松本亜紀