自律して学習できる生徒を育てる学習法とは?アクティビティの実践方法やICTの活用方法を紹介
最終更新日:2023年11月21日
新しい高等学校指導要領に基づき、「コミュニケーション」を重視した英語教育がスタートしてから1年。「4技能5領域」をバランス良く伸ばすために、さまざまな活動を授業に取り入れている先生も多いと思います。今回お話を伺った、神戸市立須磨翔風高等学校の浅野雄大先生は、ご著書の「4技能5領域の英語言語活動アイデア」の中で、授業のヒントとなるさまざまな活動アイデアを紹介しています。浅野先生に、英語コミュニケーションの授業に生かせるアクティビティの実践方法や、「自律した学習」などについてお聞きしました。
SNSのネットワークを活用して作成した教育書籍を出版
———まず、ご著書の「4技能5領域の英語言語活動アイデア」(明治図書)の作成に至った経緯などについて教えてください。
(浅野)もともと、本書の巻頭を書いていただいた立命館小学校の正頭英和先生と共著の芹澤和彦先生と3人で、何か本を作れたらと話したのが始まりです。とはいえ、私たち英語教員にも得意な領域や苦手な領域があり、なおかつ私と芹澤先生だけでは本を書くためのアイデア出しにも限界がありました。そこで、全国の10人ほどの先生にも協力していただいたところ、さまざまなアイデアが集まったのです。これはかなり良い実践本が作れそうだと思い、さらに多くの先生方のつてを頼りにしながら、作成していきました。
とはいえ、ご協力いただいた先生方とは直接お会いしていないのです。SNSで知り合いの先生を紹介してもらい、打ち合わせもZoomで行いました。各自で執筆した原稿の校正や修正なども、すべてメールやメッセンジャーを通じてやり取りしました。このように、多くの先生方と協力して作るというやり方は、教育分野の書籍としては、かなり新しい方法だと思います。
———この方法で作成した理由は何かあったのでしょうか。
(浅野)ビジネス系の本を見ると、こういう作り方をしているものが多いんですよね。オンラインサロンなどでも流行っています。みんなで集まって何かを作るのは楽しい作業ですし、1人では考えつかないようなアイデアがたくさん集まるので、良い作品ができるのではないかと考えていました。それで、この方法を教育書でやりたいなと思ったんです。結果としてこの形をとって正解だったと思います。
学び方を教えて自律して学習できる生徒を育てたい
———浅野先生の教育方針や授業の目標を教えてください。
(浅野)ひと言で言うと、生徒の「自律」です。自分自身で考え、計画を立て、学習を進めていけるように指導していきたいと考えています。例えば、分からないことがあったときも、教員や生徒に聞いたり、自分で辞書を引いたり、過去のノートを見返したりと、さまざまなツールやリソースを活用しながら自分で学んでいける「自律した生徒」に育てたいと考えています。
———そのようなお考えを持つようになったのは、どのようなきっかけからだったのでしょうか。
(浅野)私自身の経験が、理由のひとつにもなっています。私が生徒だったときの英語の先生は、とてもしっかり教えてくれる先生で、授業も分かりやすくて面白いし、自分でも勉強ができた気持ちになっていました。ところが、いざ卒業して授業もテキストもない状態になったら、どのように学んで良いか分からなくなってしまうことがあったのです。やはり、小学校から高校までの間にさまざまな学び方に触れて、その中から自分に合った学習方法を見つけて学んでいくことが大切だと思います。そこで、生徒たちに自律して学習できるように教えていきたいと考えるようになりました。
「インプット」「インテイク」「アウトプット」を織り交ぜた英語コミュニケーションの授業
———現在、浅野先生が担当されているクラスについて教えてください。
(浅野)現在担当しているのは、高校1年生の英語コミュニケーションのクラスです。1クラス40人で学年全体では7クラスあります。英語コミュニケーションの授業では少人数授業を採用しているため、クラスを分割して人数を調整しています。そのため、実際に教えているのは1クラス当たり26~28人です。英語コミュニケーションでは、新学習指導要領の「4技能5領域」を総合的に指導するため、少人数にした方がアクティビティを取り入れやすいというのがあります。
———授業はどのように組み立てているのでしょうか。
(浅野)授業は、リーディングとリスニングによる「インプット」、音読による「インテイク」、そしてスピーキングとライティングによる「アウトプット」の3つを織り交ぜながら進めています。1コマ50分の授業を2コマ使い、教科書の1ユニットを終わらせるイメージです。具体的には、最初の1時間でインプットとインテイクを行い、次の1時間でインテイクとアウトプットをしています。
時間的に余裕があれば、インプット・インテイク・アウトプットに1コマずつ使い、3時間で1ユニットを終わらせることもあります。インテイクの部分を手厚くすると、アウトプットの質が上がるので、時間的に余裕があるときはなるべくインテイクに時間を割くようにしています。アウトプットの授業の最後には10分ほど使ってライティングもしています。
———「インプット」では教科書を重点的に学習されているのでしょうか。
(浅野)そうですね。まず、教科書を初見で読ませた後、書かれている内容についてヒントを与えたり発問したりしながら何度か読ませていきます。ある程度の理解が取れたと感じたところで、「カフート」というクイズ作成アプリで作成した問題を使い、クイズ形式でさらに内容理解を図ります。クイズが1問終わるごとに、簡単なフィードバックも入れるという流れです。
昔のように1文ずつ訳読しながら進めるのではなく、ヒントを小出しに与えながら生徒自身に気づかせるという方が、今の子どもたちには合っていると思います。教え込むのではなく、自分自身で気づかせて自律につなげたいというのも狙いです。今の入試では速読力も求められるので、初見で読む際は時間制限をして速読させ、クイズ形式になったところで精読させるというイメージでやっています。
———「インテイク」と「アウトプット」はどのように行っているのでしょうか。
本文の内容を理解したうえで音読するのが「インテイク」です。インテイクでは、文法事項を押さえながら、早読みにならないように音読させます。この後の「アウトプット」で行うリテリングのリハーサルという意味合いもあるので、作業化しないように意味を理解しながら音読することがポイントです。
「アウトプット」では、紙芝居形式の「4コマリテリング」という活動をしています。生徒に紙芝居形式で4コマ漫画を作ってもらい、それを使ってリテリングするという方法です。自分が描いた漫画と本文に関連するキーワードだけを見ながら、1~2分間ほどで本文の内容を英語で発表させていきます。
発話量を増やすという点ではリテリングだけでも十分ですが、発話の質や英文の正確性も向上させるために、自分のリテリング内容を文章に起こすライティングもさせています。リテリング内容を文章化すれば教員もフィードバックしやすくなるため、結果的にスピーキングの質の向上につながります。ライティングまでの作業が終わったら、4コマ漫画・キーワード・ライティングのすべての内容を写真に撮影し、Teamsに共有してユニットの学習が完了するという流れです。
ICTの活用で広がった学びの幅
———浅野先生は、MicrosoftのMIEEにも認定されていますが、授業ではICTも活用されているのでしょうか。
(浅野)本校がICTを導入したのはコロナがきっかけで、2020年頃です。Wi-Fiなどの環境が整い、教員1人に1台のノートPCが支給され、2022年からは生徒も1人1台iPadを持つようになりました。本格的に活用が始まったのは、2022年4月からです。ICTは主にアウトプットの場面で活用しています。生徒同士の意見の共有や、カフートで作成したクイズの振り返りなどにMicrosoft FormsやTeamsを活用しているといった形です。生徒たちは小中学校ですでにタブレットなどを触ってきているので、多少の得手不得手はあるものの、基本的にはスムーズに使えていると思います。
ICTが進んだことで、学びの幅も広がりました。さまざまな学び方を知ってほしいという観点から見ても、手元にタブレットがあるとアクセスできる場所も増えますし、生徒同士でアイデアを共有するスピードも速くなっています。ICTの活用によって、アイデアを膨らませたり、疑問を解消させたりするツールが増えたといえるのではないでしょうか。
———授業でアクティビティを行う際のポイントについて教えてください。
(浅野)どの生徒にも共通するのが、学びには遊びの要素が必須ということです。楽しいだけ・学ぶだけではなく、楽しさと学びの両方を追い求めることが大切だと思います。例えば、私の授業では、単語力をつけるために英単語カルタという遊びをやっています。英語で読んだら日本語のカードを取り、日本語で読んだら英語のカードを取るというゲームです。ほかにも、ババ抜きやいろいろなカードゲームを取り入れています。
実は、以前英語が苦手な生徒が多くいるクラスの授業を担当したときに、ちょっとゲーム形式を取り入れてみたことがあったのです。すると、少しずつ生徒が授業に向いてくれるようになりました。この経験が現在の活動の原点であり、「遊び×学び」を今でも変わらず大事にしています。デジタル・アナログどちらの学習でも共通することですし、どんなレベルの学校に行っても大切にしないといけないことだと考えています。
英語力だけでなく、「相手に伝える」ことにシフトチェンジした指導を目指したい
———アクティビティを取り入れた授業を行ったことで、生徒さんには何か変化はありましたか?
(浅野)「英語の勉強をしてみようかな」「英語ってちょっと面白い」と感じている生徒は増えていると思います。英語力を上げることはもちろん大事ですが、それより英語って楽しいと思えるようになることの方が重要なのではないかというのが私の考えです。英語って面白いと思えれば、選択肢が広がったり、これから先も自分で学んでいったりできるのではないかと思います。そこがまた自律にもつながるところです。
ICTの活用によって、 生徒の学力差や知識差を埋めやすくなったり、違いが見えやすくなったりしたという変化もあります。分からない単語や文法があっても、タブレットですぐに調べられたり、友達に聞けたりするなど、ICTが学力の差を埋める要素になっているのではないでしょうか。また、生徒の違いが分かることで、英語が苦手な子でも輝ける場面を作ってあげられるようになりました。例えばカードゲームにしても、英語が苦手な生徒が分かればラッキーカードなどの要素を入れて、勝てるチャンスをあげられます。
———今後の英語学習についてどのように考えているか教えてください。
(浅野)今後は、英語力があるというだけでなく、何を発話するかという内容面にシフトチェンジしていくことが必要ではないかと考えています。もちろん入試がある以上、英語力の高さは必要です。しかし、AIなどのテクノロジーが進化し、簡単に翻訳できてしまう現代では、テクニックより「相手に分かりやすく伝える」「人と違った意見を述べる」といったことが重要になるのではないかと思います。
伝える力というのは、英語に限らず社会に出てからも役立つスキルです。将来につながるスキルを身に付けることが、生徒にとって大切なのではないでしょうか。人とは違う自分だけの好きなものや、強みを見つけて卒業できるよう、生徒の違いを大事にした授業をしていきたいと思います。
取材・構成:小林慧子/記事作成:白根理恵