生徒に必要な力を見極める 発音改善の「フォニックス」授業と、自律的学習者を育成する「スタディホール」の効果とは?

最終更新日:2024年2月8日

三田国際学園中学高等学校の尹龍貴先生は、自律的学習者の育成を教育の命題とし、現在、中学1年生の英語授業を担当しています。とくにコロナ禍における学習形態の変化をきっかけにスタディホールの導入や、発音矯正のために英語の歌を活用したフォニックス授業など、独自の視点にたった教育を行っています。生徒たちが成長を実感できる学びとはーー? フォニックス授業の具体的な方法や、スタディホールの内容についてお聞きしました。

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2月10日(土)16:30~
尹龍貴先生のウェビナーが開催されます!本記事にて触れているスタディホールをはじめ、生徒の自律学習を支えるアプローチをお話いただきます。

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英語の歌を使ったフォニックス授業で、和製英語の発音を克服

――授業にフォニックスを取り入れようと思った理由を教えてください。

(尹)昨年まで6年間指導してきた生徒たちが、基本的な英語力は向上して英検やTOEFLなどの点数も伸ばしていたものの、プレゼンテーションや発話という部分を伸ばしきれなかったというのが理由です。

私自身、中学・高校の頃に発音矯正という問題を抱えていて、同じ問題を彼らにも抱かせたまま卒業させてしまったという反省もありました。また、本校は帰国生も多いため、中学校から英語を始めた生徒の中には、英語の成績がよくても発音に関して恥ずかしさを感じてしまう生徒も多くいました。

そういう生徒たちに対し、英語の発音を指導することで自信を持たせたいと思ったのも理由です。私は大学院で音声学を学んでいたため、その知識を授業に生かそうと思い始めました。

――フォニックスの指導に英語の歌を活用しているのは、どのような理由からでしょうか。

(尹)発音記号から学んだり教科書に沿って学習したりと、フォニックスを一から始めるのは、生徒にとっても負担となり、身に付く前に飽きてしまう可能性もあると思ったからです。それより、英語の歌を何度も繰り返し歌いながら、自然に体に身に付けさせる方が効果的だと思います。

今ほど本格的に取り組んでいたわけではありませんが、前任校でも授業で英語の歌を歌ったことがありました。大学生や社会人になった当時の教え子たちからは、「10年以上たった今でもあれだけは歌えます」とよく言われます。

英語がよく分からなかったとしても、繰り返し聞いたり歌ったりすることで、歌詞や発音は覚えているものです。そういう意味で、授業に音楽を取り入れるというのは非常に効果のある方法だと思っています。

「聞き取れない」を認識することから始める! 発音ルールを学び自信を持ってスピーチできるまでに

――具体的な指導方法を教えてください。

(尹)最初の1、2時間目で、生徒に歌詞カードを配り、歌を聞きながら歌詞の穴埋めをさせていきます。穴埋めをさせるのは、「is」や「don’t」のように、生徒が分かりやすい簡単な単語だけにしています。

しかし、実際は8割くらいの生徒が聞き取れていません。そこで、答え合わせをしながら、知っている単語でも聞き取れないことを、まず認識させるところから始めます

次に、聞き取れない理由を分析します。多くの場合、リンキングやリダクションなど、英語の発音に関するルールを知らないことが原因です。そこで、発音のルールを教え、あらためて歌詞の中でルールに該当する箇所について解説していきます。

教えるのは基本的に1番の歌詞だけですが、解説する箇所が多い歌では、この過程を終わらせるまでに10~15分の授業を15~20回ほど行うこともあります。

――効果は実感されていますか?

(尹)数値的なデータはありませんが、かなり効果があると感じています。これまで中学1年生の英語授業を4回ほど担当してきた中で、発音に関しては今までで一番伸びていると思います。

クラスの前で英語をスピーチする際の恥ずかしさも解消できて、かなり堂々と話せるようになっているように見えました。

自分の時間をデザインできる力を。コロナ禍のオンライン授業をきっかけに導入したスタディホール

――スタディホールも、三田国際学園高校で始められた取り組みだとお聞きしました。

(尹)はい。2020年の3月にコロナ禍で、ほとんどの授業がオンラインになり、各教科の授業数が減ったことがきっかけです。当時の高校1年生を対象に、2020年の2学期からオンラインで始めました。

その後対面に変えて、高校2年生の1年間を通して実施し、高校3年生のときは長期休暇に実施していました。現在、通常授業の再開とともにスタティホールに割く時間は減り、私も担当から外れていますが、活動自体は続いています。

――授業数が減った分の活動として、スタディホールを選ばれたのはなぜでしょうか。

(尹)もともと、私がそういう時間を取りたいと思っていたのが理由です。1日7時間の授業を4時間に減らしてできたスキマ時間を使い、生徒たちが自主的に活動できるようにしたいという気持ちがありました。

オンライン授業だと、誰からも勉強しているところをチェックされないので、どうしてもだらけてしまいがちです。しかし、そういう状況を作りたくないという思いがありました。

勉強する場所が家でも学校でも、また卒業して大学生や社会人になったときにも、しっかり自分の時間を自分でデザインし、自ら成長できる人間を育てたいと思ったのです。そこで、学年全体で話し合い、スタディホールを導入しました。

「どこで何をやってもOK」 究極の自由時間の中で、生徒が自主的に活動

――尹先生が担当していた当時の、スタディホールの具体的な活動内容を教えてください。

(尹)1回の活動は、5~7時間目までの3時間を通して行いました。スタディホールの時間中は、帰宅しなければ何をやってもよいというルールです。図書館やカフェテリアなど、学校内のどこで何をやってもよいのです。食事も好きな時間に取ってかまいません。

<スタディホールの時間は校内を自由に使って何をやってもOK!>

勉強する生徒や、グループ活動をする生徒などさまざまです。グループ活動で外部のプレゼン大会に出場し、優勝したという生徒たちもいます。基本的に生徒の自主性にまかせていましたが、ダラダラ過ごしてしまわないようなアプローチはしました。

また、各自が何をやっているのかを確認するために、全員の予定を学年全体で共有していました。教員も含め、各自が書いた予定を全員が見えるようにしたのです。そうすると、他の生徒がやっている活動を見て自分も刺激を受けたり、先生の予定も分かるので相談しやすくなったりという効果もありました。

<StudyHallで使用していたMy時間割。生徒や教員の予定が一覧で書き込まれています。>

――高校3年生もスタディホールを実施していたのですか。

(尹)高校3年生は、スタディホールの延長版として、夏季休暇中に4日間の通い合宿のようなものをやりました。キャンプ中は、朝8時半から夜7時まですべて自由時間にして、いろいろな先生の授業を受けられるようにしたのです。希望者を募ったところ、かなりの人数が参加しました。

高校3年生の場合も、最終的には自律的な学習者の育成が目標です。高校3年生になると、大学受験もあり、自分で勉強しなければならない時間も増えてきます。しかし、例えば時間が空いたときに、誰かから指示されなければ行動できないという人間を育てたくありませんでした。

スタディホールをやることで、大学入試においても自分で考えて行動できるようになってほしいと考えていました。塾や学校は、あくまで自分が必要としたときに助けてもらえる存在として頼りにすればよいと思います。

自律的な学習者を育成するためのマインドセットが重要

――生徒たちの自主的な取り組みを促すために、どのような工夫をしていましたか。

(尹)最初のマインドセットを大事にしていました。当時1学年5クラスありましたが、スタディホールを実施する前に必ず全クラスに20分くらいZoomをつないで、教員がスタディホールの目的などを説明してから始めます。自主的な時間といっても、決して放り投げの時間にならないようにしていました。

――先生方が活動に介入していくようなことはあったのでしょうか。

(尹)生徒たちがやっていることに興味を持ってあげるようにしていました。「何やっているの?」と聞くと、生徒も喜びますし、相談を受けることもありました。教員にとっては、生徒たちの状況を把握するためでもあります。

――スタディホールを実施された効果はどのように感じていますか。

(尹)非常に効果を実感しています。自分で学習できる生徒に育ったのではないかと思います。例えば、昨年1年間で、大学入試の英語で文法やリーディングに関する質問を受けたのは4~5回しかありませんでした。ほとんど質問に来ないのです。

分からないところがあれば、自分で調べて、自分で学習を組み立てていけるような生徒が非常に増えました。スタディホールや夏のキャンプの時間でも、教員に聞く前にまず生徒同士で聞き合ったり、アプリやツールを使って調べたりと、自分たちで何かをできるようになったと思います。

フォニックスやスタディホールはあくまでもツール。ゴールをしっかり見極めよう

――歌を使ったフォニックスやスタディホールに取り組むに当たり、どのような点に留意すべきか教えてください。

(尹)歌に関しては、音声を正しく発音しながら歌えることがゴールです。しかし、英語学習という意味では、歌で習った「音」を教科書の発音練習に生かすなど、次へつなげていくことが必要です。自然に発音がよくなるような循環を作ることが大切だと思っています。

また、スタディホールの目的は、生徒の自律的な学習を育てることです。スタディホールはあくまでもツールであり、やること自体をゴールにしないことが肝心です。

 

取材・構成:小林慧子/記事作成:白根理恵

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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