教育トーク : 教師自ら学び続ける意義

最終更新日:2022年5月19日

プロフィール

  • こども教育宝仙大学・青山学院大学 五十嵐美加

    2007年~和歌山信愛中学校・高等学校、2012年~慶應義塾大学社会学研究科修士課程、2014年~東京大学大学院教育学研究科博士課程、2020年~東洋英和女学院大学教職・実習センターを経て、現在、こども教育宝仙大学(実践英語担当)、青山学院大学(心理学応用演習担当)兼任。 修士課程在学中、英国オックスフォード大学への留学経験有り。

  • ESN英語教育総合研究会 関東代表・山脇学園中学高等学校 高瀬聡伸

    群馬県出身。中高アメリカ現地校で過ごす。青山学院大学文学部教育学科卒。十文字学園に17年勤務した後、現職。国際教育、帰国生教育、アクティブラーニング、学力向上等に注力中。 2013年よりESN英語教育総合研究会を立ち上げ副代表と事務局長を兼務。 Z会中高一貫校用検定外教科書New Treasure編集委員。教育開発出版思考力問題集Discoverの監修。 趣味はロードバイクでサイクリング、ギター、ダラブッカ。 https://esntakase.wordpress.com/

 

いよいよ2022年度から全国の高校で本格的に探究型学習科目が導入されました。

しかし、総合学習との違いや、探究型学習についてどこまで取り組むべきなのか、真剣に悩んでいらっしゃる先生方も多いのではないでしょうか。

文部科学省の問題意識にも理がある一方、探究活動を本格的に授業現場に盛り込むための課題は山積みで、学内だけではなかなか解決が難しいことも…。

そこで今回は、学外の研究会を活用して探究学習指導に取り組む高瀬聡伸先生(山脇学園中学校高等学校)に、学外に学びの場を作る重要性についてお話をお伺いしました。

 

学校外との繋がりを求めた結果ESNというコミュニティが誕生

(五十嵐)私自身、今大学で英語と社会の教員免許取得を目指す子たちに関わっていますが、教員採用試験や節目節目の授業で、理想の教師像やどんな教員になりたいか考えさせる機会が結構あります。

その中で、私も学生たちも思っていることとしてよく出てくるのが、教える生徒が学習するとき、教師自身が学習をどのようにしていくのかモデルにならなければいけない。つまり、自主的、主体的に学ぶことを、教師自らその姿勢や背中を見せる必要があるということです。

高瀬先生は、学校外でも様々な活動をなさってると思いますが、学内の研修などではなく学校外で、教師自ら学び続ける意義ということについて先生のお考えをお聞かせいただけますでしょうか。

(高瀬)学校外で学ぶことについて、私が意識するようになったのは30代に入ってぐらいのことです。

私自身が大学卒業をしてからすぐの1校目は都内の私立女子校に勤務を始めまして、そこでいわゆる担任、教科指導、部活、校務分掌という、オーソドックスな教員生活を7年間ぐらい務めました。

当時、自分の指導力を伸ばしたいという気持ちがあったのですが、職場の内側だけの学びに限界を感じて、外側に気持ちを向けて繋がっていきたい想いがありました。

それでも、年に数回、例えばどこかが主催するセミナーや勉強会に参加する程度でした。

セミナーでは、実力のある先生がお話をされたり、少し隣席の方と話し合う時間を持ったりするのですが、単発で終始することが多く、参加者と継続的なつながりがないと感じました。

もう少し少人数で、ワークショップや一つのテーマを継続的に話し合っていく学び合いの場がないものか漠然と思っていました。

その時に偶然にも当時勤めていた私立で、Z会のニュートレジャーという検定外教科書を採用して、私はその導入の先頭学年というポジションを任されました。

当時、Z会が年に1度主催する大きな会があり、他校がどのようにその教科書を扱っているか学ぶ機会がありました。

その時、名刺交換した他校の先生とメールでやりとりするようになりました。そして、年に1回実施する勉強会では物足りない話になり、教員が有志でつくる勉強会をやってみましょうと話が進みました。

そこで当時、かえつ有明にいらした久保先生、京都女子にいらした吉川先生と、私の3名で、ニュートレジャーの自主的な勉強会を立ち上げました。

吉川先生は地元でもともとニュートレジャーの勉強会を立ち上げておられました。そのノウハウを教えていただきながら、東京でも実施してみることにしました。最初は数名の参加者でしたが、年を追うごとに規模が大きくなっていきました。

会の規模が大きくなるにつれ、先生方の中で、「ニュートレジャーを採用してる学校の先生だけのつながりにしておくにはもったいない」「全国の英語の先生にも参加してもらえる研究会にしていきたい」と話すようになりました。

そこで、ESN英語教育総合研究会と新たに名称を変更し、その中に、ニュートレジャー研究会、国際バカロレア研究会、クリティカルシンキング研究会、ICT研究会など設置。各分野の先端で活躍されている先生方を中心に、全国区でセミナー、ワークショップ、勉強会などを実施してもらい、研究会が告知や運営の支援をするようにしました。

研究会発足から早10年。おかげさまで、今では全国約700名の会員を持つ大きなコミュニティになりました。お互い高め合える仲間を作り、有益な情報交換の場としての役割を今後も担い続けたいと思っています。

(五十嵐)外と繋がるということが、教員として大事ということですね。私立は流動性がなく、いろんな先生方と関わる人数とかも限られていて刺激を受けづらい。時代と共に生徒の特性も変わっていく中で、自身のスキルアップや、教員自身が変わっていく必要性を考えた時に、外と繋がることは大事だと思います。

 

探究学習の実現の鍵は社会とのリアルなつながり

(高瀬)このように30代前半の私のやりがいの一つは、先生同士でつながり、お互いに磨き合い、良いものをシェアし合うということでした。そして30代後半、「探究」というキーワードが出てきて、英語科という枠に収まらない新たな学びの形に出会うことになります。

実際に探究の授業を任されて改めて感じたことは、学校の中だけでは完結できない、リアルな人やモノに触れる学びの必要性です。

世の中のリアルな課題解決と向き合うためには、教員だけでなく、社会で働く人や社会に貢献している人とつながりを持つことが重要であるということに気付いたのです。

(五十嵐)まず初めにそれぞれの教科の先生が探究学習をやることになれば、自分の教科に関連する探究学習がやりやすいと思うのですが、それだけではなく、企業や大学とのつながりを通した探究学習も大事ということでしょうか。

(高瀬)そう考えています。探究の定義というのは非常に曖昧ですが、課題解決という点に限れば、生徒の興味関心とリアルな社会課題をリンクさせ、世の中の誰かの困ったを解決するアイデアを出したり、実践したりすることではないかと思っています。

しかし、生徒が持つ興味関心は必ずしも自分が指導できるような専門領域ではないことの方が圧倒的に多いのです。そして、この発想自体が、教員は知識、敬虔共に生徒よりも勝っていなければいけないという上下関係に縛られてることにあるとき気付かされました。

探究学習のポイントはティーチャーであることよりも、ファシリテーター、コーチであることの方が重要で、「それおもしろいね、データとるためにこんな実験できないかな」とか「ここに連絡取ると専門の人の話を聞けるんじゃないかな」とか、生徒が自走するための手伝いをすることが大切と感じるようになりました。

そうすると、今回のテーマにもつながるんですが、外とつながって自分を高め合う関係というのは、実は教員同士だけでなく、社会で働く人たちとのつながりも非常に大切になってくるということです。

(五十嵐)私自身は今高瀬先生のお話を伺って視野が広がった気がします。

今回インタビューさせていただくことになったときに、ESN、English Study Networkなので、英語の先生方の英語についての勉強会、研究会というのが念頭にありました。ですが、企業の方とのつながりまで話が広がっていくんだということを知って感銘を受けました。

それは進路指導とかに活かせたりしますよね。

(高瀬)もちろんです。

(五十嵐)若い頃、私自身も学部を卒業してすぐに教員になったので、他の業種・会社をまったく知らずに教員になりました。そのため教員以外の職種や仕事をイメージしにくい。

出身学部自体は経済系だったので、友人は色々な企業に就職しましたが、自分が指導するとなったときに、メジャーな職種は分かっているけれども、それをやりたいならどういう学びが必要かとか、どういうところに行けば有利なのかまでは分かっていませんでした。そのため、そこまで知識がない中で手探りの状態で進路指導してたなと、あの頃の指導してた生徒たちには申し訳ないことをしていたなと思うこともあります。

 

ESNが作る企業と教員のフラットな関係

(五十嵐)英語教育に関する研究会や勉強会などのコミュニティは他にもありますが、教員は教員だけで集まっている組織やコミュニティが多いと思うんです。

ESNさんは、教員で固まってるというよりもっと広く、いろんな人と繋がるようなネットワークっていう感じなんですかね。

(高瀬)そうですね。当初は教員中心の研究会でしたが、ここ数年では、企業会員も増えています。職場とは関係なく学びたい方や、学校という現場のニーズをしっかり掴んだ上で、サービスを構築したい、教材を提供したいと望む教育産業の方も増えてきました。

そういった方たちに学びの場を提供し、教員とのフラットな関係性の中で、現場のニーズ把握や、自社サービスの改善などに役立ててもらえればと思っています。

(五十嵐)探究学習のお話に戻りますが、探究学習は探究学習の時間として時間が当てられていますか?

教科の中で何かやるわけではなく、探究の時間があるのでしょうか?そうするとそれは担任がファシリテート役というか担当ということになるんでしょうか?

(高瀬)学校のやり方にもよりますが、総合探究という時間ができるという点においていえば、担任が大きく関わることになります。

(五十嵐)それで大きな英語研究の団体や会というと、全英連などがありますよね。あちらは結構かっちりしてるんだけども、ESNはもう少しカジュアルに集まり、ざっくばらんにいろいろ情報共有し合う、その中で企業さんが宣伝したいものは持ってきてもらっても構わないし、口コミも情報共有する。フランクというより敷居が低くてみんな参加しやすい会といった点が特徴でしょうか。

(高瀬)おっしゃるとおりです。ESNは日本の英語教育をより良くしたいと願う人なら誰でも参加できるゆるやかな研究会です。

(五十嵐)うまく連携して、良い関係性を作ってやっていくということですね。

 

外の世界を勉強する心の余裕を持っていたい

(五十嵐)ESNの活動は、そんなにきっちりかっちりというわけではないお話をしていただきましたが、ある程度の時間を割いて集まったり、勉強し合ったり、情報共有しあったり、イベントがあるならイベントに参加するための時間を確保しなきゃいけないと思うんです。

しかし、全国的に先生方はどこの学校も分刻みで毎日動くなど大変忙しいイメージがあります。

私自身も中学校・高校で勤めていた時は凄く忙しかった記憶があり、私立だと土曜日も授業があるじゃないですか。平日より土曜日が逆に凄い忙しい時もある。日曜しか使える時がない、その日曜も部活で潰れるケースも。

そんな中で、高瀬先生はアクティブに活動されていると思うのですが、どのように時間を工夫して確保されてるのかは先生方は知りたいと思います。時間を割くコツや工夫を教えていただきたいです。

(高瀬)本当に先生は忙しいですよね。忙しくなりすぎると組織の内側しか見えなくなり、自己研鑽も後回しになりがちです。

プラスアルファに時間を割くための私なりの工夫をあげるとするなら、自己研鑽のための小さな探究マインドを頭の片隅に常に置いておくことかと思っています。その年の自分の関心事は何か、どんな人と繋がってみたいか、その条件を満たすコミュニティはないか、なければ作ってみてはどうか、同じことを考えている他校の先生に声をかけてみようか、といった具合です。もちろん、本業優先なので、動きたくても動けない時期のほうが圧倒的に多いのですが。

 

介護や育児に縛られずに誰もが参加しやすい会にする為に

(五十嵐)デリケートな話になるかもしれませんが、アクティブに集まって活動されてる先生方の男女比は半々ぐらいですか。

(高瀬)会員の内訳という意味では男性が7割、女性が3割です。

(五十嵐)教員、特に英語の先生は割と女性の先生も結構多いような気がしますが、それはどうしてでしょうか。一般的に、女性の方が人と接したり人とお喋りしたりするのが好きな傾向にあるイメージなので、女性と男性で半々でも良さそうですが、男性の方がやっぱり圧倒的に多いのでしょうか?

(高瀬)圧倒的に多いですね。ただウェビナーになってから女性の参加率も増えています。時間的な制約、空間的な制約を受けないためかもしれません。

(五十嵐)身も蓋もないことを言ってしまうと、私自身も子どもが小さいんですが、家を空けづらいですね。子どもがいる場合、パパとママと両方いたときに、パパの方が出かけてもいいというか出かけやすい、まだそんな世の中なんじゃないかなって思います。その男女比なんかにもジェンダーギャップが反映されてるんじゃないかと感じます。

私も勉強会やセミナーに積極的に参加したい方の人間で、学会についても、子どもが生まれる前は、年に3回ぐらいは海外の国際学会に行ったりしていました。国内の学会も合わせたらたくさん参加していたんですけど、子どもが生まれてからは物理的に参加できなくなってしまいました。行きたいのですが、肝心なところでやっぱり行けないとか、子どもが熱を出してしまっていけないなどもよくあります。

圧倒的に男性が多いという話を聞いて、子育てや介護のように何か家庭の事情があった時に、まだ女性が率先して担わなきゃいけないというようなことがあるのかなと、そのように思ってしまいました。

(高瀬)的を射ていると思います。

男女平等、女性の社会進出というスローガンは掲げられて久しいですが、実際、男性の育休取得率は未だに低いですし、年休消化率も主要各国と比べて低いという調査結果も出ています。結果として、女性には家庭での様々な仕事が軽減されることなく、社会進出を余儀なくされていているのではないかという仮説があります。

(五十嵐)参加されてる先生方にアンケートを取ってみたくなりました。お子さんがいるのかとか、介護が必要な方がお家にいるのかとか、配偶者の有無など。

恐らく組織的な運営を考えると男女比半々ぐらいの方がバランスはいいんですよね。

ESNとしては、もうちょっと女性の先生でアクティブなメンバーが結構増えると良いかなと考えてらっしゃいますか?

(高瀬)そう思います。

(小泉)逆にESNとしてはチャンスよね。そういった女性が参加しやすいイベントのやり方を模索して、例えば何かESNの中の分科会のようにやったら良いのではないでしょうか。例えば、出版社の勉強会も男性が多い、出版社は編集部は女性も多いですけど、本当に中高年男性が多くて(笑)ESNの先生方は女子校の先生がすごい多いじゃないすか。高瀬先生もそうですし。「ESNはそういった女性の味方です」。そんな見せ方ができたら凄く良いですよね。

(五十嵐)乳幼児の発達の学会や児童心理に関する学会、児童や乳幼児を研究対象にするような学会だと、託児施設を学会のときに作って、託児サービスを受けられる場合があります。比較的女性の研究者が多いということもありますが。

託児スペースを作って、自分が発表したい、自分が聞きたい、ディスカッションしたいところの時間帯は子どもを預ける。子連れで行っても全然構わないみたいな、そういうワークショップや学会も増えつつあるという気はします。

今コロナで対面でそういう機会はあんまりないかもしれませんけど、もし対面で今後何かイベントとかされるんだったら、検討してみることは良いことかと。

(小泉)当面オンラインだとどうすればいいんですかね。

文言で書く以外に何か具体的に、実効性のあるオンラインでのセミナーで、育児世帯が特に女性が参加しやすい工夫などは何か思いついたりしますか?

(五十嵐)オンラインであれば、夕御飯から寝かしつけまでの育児家事ピークの時間帯じゃなければ参加しやすいと思うんですよね。横で子どもは泣いたりおしゃべりしたりするかもしれませんが。

(小泉)高瀬先生もオンラインで女性の参加比率が上がったと先ほどおっしゃってましたが、セミナー形式であれば、ミュートにしてれば、何かをしながら参加するなどできるところがありますよね。五十嵐さんの問題意識は重要な課題として認識できました。

(五十嵐)女性の先生が増えたらいいですよね。ワークショップやセミナーに参加してる間でさえ、他の家族が子どもを見ててくれないとかいう問題があると感じます。私も何か考えられたらお伝えします。

 

生徒に思考力と自主性を身に着けさせるポイント

(五十嵐)私自身、元々中高一貫校で私立で英語の教員をやっていて、そこを退職して大学院に進学しましたが、元々なぜアカデミアの門を叩いたかというと、目の前にいる子どもたち、生徒さんたちの中には、英語が苦手な子どもは絶対いるじゃないですか。

その子を見てると、まず勉強のやり方が間違っているような感覚がありました。一般的に物量主義的に量をやらせる先生がいたり、学年でどこからどこまでをやらせるとか、どういう形で小テストを進めるなど、既定路線で決まっているような学校もあります。

そのような時、たくさんの課題を与えられると力技で丸暗記してきてしまう子が多い。力がある子だと、たくさん量が与えられてもきちんと意味づけや関連づけなどしながら、丸暗記せずにやりこなせる。しかし、ちょっと苦手だったりしんどい子というのは、結局丸暗記になってしまい、とりあえず小テストは突破できるけれども、定期テスト模擬テストになると全然駄目みたいなことになるんです。

どうして丸暗記してしまうのだろうと見ていると、そもそもの日本語、ベースとなる国語の力不足だと分かりました。品詞なども意識して単語は覚えたり書いてほしいのですが、品詞の感覚がないというか。形容詞と副詞の区別がついていないことはありがちです。

日本語で考えてみようと、日本語の文を例にすると、日本語で考えてもなかなか難しいと感じるところがありました。言葉に関する意識が低いまま、中学生高校生になったんだなと感じました。

国語、つまり母語がしっかりしてないと駄目だなということを痛感しました。そのため何とかそこを突破して、英語の勉強方法を改善したり、英語の動機づけを上げたりすることはできないか、ひいては英語のパフォーマンスも上がるようなことができないかなと。そのため、国語教育と英語教育の連携に強く関心を持っています。

そして、それを軸に研究してきたんきたのですが、高瀬先生、ここ最近学習指導要領の中でも、教科等横断的な指導が掲げられて、特に英語という同じ言語を扱うので国語教育との親和性は結構高いと思うんです。それに伴う英語と国語の横断的指導として取り組まれてること、考えてることがあれば教えていただきたいんです。

(高瀬)英語は対話の道具・手段ですので、どの教科とも親和性が高いと思っています。一つのテーマを扱う場合、第二言語で出来ることには制限が限界があるので、母語の科目で背景知識の獲得や深掘りした議論やプレゼンを行うなどして、言語活動の場を整地しておいてもらうと英語を乗せやすくなります。

逆に言うと、第一言語での思考のロジック訓練がしっかりできていないと、そこに英語を乗せても滅茶苦茶な論理主張やエッセイライティングになってしまうと言えます。

小中学校のうちは、まだ基本的な英会話なので、繰り返しの訓練でなんとかなりますが、高校でプレゼン、ディスカッション、ディベート、エッセイライティングなどが本格化すると、様々なロジック破綻が起こりやすくなります。意見の根拠を意見でおぎなってしまったり、トピックの主張とは関係ないサポートセンテンスを書き進めてしまったり。そして、いざそれを日本語で書かせたり説明させてみたりすると、そもそも日本語でもロジック破綻を起こしていることがわかるのです。

欧米は書き手が責任を負うローコンテクスト文化で、日本は読み手が責任を負うハイコンテクスト文化とよく言われます。欧米では「阿吽の呼吸」や「以心伝心」という文脈を持たないバックグラウンドを持つ国民が英語を使うわけですから、書き手は誰がどう読んでも同じ解釈になるよう説明したり書いたりする責任を負うよう、幼少期からロジカルシンキングを鍛えます。これがローコンテスト文化の特徴です。

一方で、日本では「書き手の心情の変化を読み取る」ことに重きがおかれており、書き手の意見や心情を理解する責任を読み手が負うという性質をもっていると言われています。だから、ロジック破綻を起こしている日本語を私たちが読んでも、なんとか言いたいことを私たちが理解できますし、違和感を持たないことすら生じることもあるのです。

(五十嵐)素朴な疑問というか、不勉強なので教えていただきたいんですけれども、アメリカはローコンテクストだという話で、書き手がちゃんと明確に書いていたり、発信する側はちゃんと明確に発信する必要があるという話があったと思います。では、いわゆるイギリス英語は文化的には書き方がちょっと違うんでしょうか?

イギリスも、ヨーロッパ大陸の国々から攻め込まれたり攻めたり、支配したりされたりという歴史があるので、アメリカと似たような文章表現の文化があるのか、あるいはアメリカの文章表現とイギリスの文章表現は、同じ「英語」ですが違いはあるのでしょうか?

(高瀬)私も専門家ではないので詳しくは分からないですが、イギリスもかなりエビデンスベースで物事を動かす国と聞いています。コロナによるロックダウンや規制緩和は、きちんとした統計データをベースに政府が判断しているというニュースを見ました。国民に説明責任を果たすという点で、エビデンスをしっかり提示することを重視しているのだとすれば、イギリスもまたローコンテスト文化(発信する側の責任が重い)という見方もできるでしょう。

話は戻りますが、過去に務めた学校で、同僚が大学院に通いながら勤務していたのですが、修士論文の中途チェックを受ける際、とにかく英語ネイティブの教授に指摘を受けたのは「この部分は事実ですか、それともあなたの意見ですか、意見だとしたらそれを証明するファクトはありますか」という事だったそうです。また、権威のある人の発言や、信用できる団体の調査結果を引用しても、それが本当に正しいのか、自分に都合がよいデータソースだけ集めていないか、などバイアスについてもかなり厳しい指摘があったそうです。

(五十嵐)私も大学院に進学してすぐに指導教授に教え込まれたのは「自分の頭で考える」ことの大切さです。どれだけ権威のある方の言ったことでも鵜呑みにせず、眉唾で受け止める。それでその人の考えを否定することはその人自身、つまり、その人の人格否定にはならないということです。そして、そのことを意識して情報を精査することが大切だということなんです。

少し恥ずかしいですが、私はそういった事を大学院に入って初めてきちんと考えたんですが、中学高校よりもっと小さいころからそうした考え方が出来る訓練が必要です。その意味で、情報リテラシーや批判的思考、論理的思考を育成する教育が大切ですよね。それをまずは国語で、母語でやって、基盤を整えて、英語でもできるように支援することが国語・英語教員にとって大事な仕事なんじゃないかと思います。さきほどお話の中に出てきた探究学習には情報リテラシーや批判的思考、論理的思考が欠かせませんから。

今回は、本当にありがとうございました。私自身は中高の現場から離れてしばらく経ちますので、今の現場の先生の生の声は大変勉強になりました。次の機会には国語教育と英語教育の連携をメインにディスカッションさせていただけたら嬉しいです。

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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