「生徒に学びの場の提供を!」—東北地方初のWWL認定校での取り組みとは
最終更新日:2024年11月28日
2019年度より文部科学省により開始されたWWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」。イノベーティブな未来のグローバル人材育成を目標に掲げ、高校と国内外の大学・企業・国際機関が協働し、先進的カリキュラムの研究開発・実践を通して高度な学びの機会を提供するネットワーク(アドバンスト・ラーニング・ネットワーク)構築を目的としています。拠点校では、幅広く生徒が学習できる教育課程を編成するなど、最先端の取り組みへの挑戦が行われています。
2023年、東北地方で初めてWWL拠点校に認定されたのが宮城県にある私立仙台城南高等学校。かねてより探究や教科横断型学習に力を入れてきた同校がWWLに名乗りを上げたのは、「これまでの取り組みを統合し直すため」とのこと。グローバル教育推進部長・鈴木理恵先生にお話を伺いました。
WWLで教員間の会話が増えた
———WWLにエントリーされた経緯、目的を教えてください
生徒たちに幅広い将来の選択肢を与えたいという思いから、本校は2013年度から学校改革を始めました。それまで築いてきたものは残しながらも、少しずつ大学進学を視野に入れた教育課程に変えていき、2020年度入学学年から国公立大学の合格者輩出を教育指標に加えています。ただし、いわゆる受験一辺倒ではなく、生徒の興味・関心を掘り起こすことを大切にしています。
そこで力を入れてきたのが、高大連携や探究活動です。高大連携は、本校が東北工業大学と同一法人下にあることもあり、一般的に注目を浴びる以前から積極的に行ってきました。テクノフォーラムという大学の先生をお招きした講義体験や、進路に視野を向け始める高2を対象としたアカデミックインターンシップで大学の研究活動に参加することも可能です。
探究活動では、高2の後期に選択制のゼミを設けています。科学系、建築系、デザイン系、国際理解など、さまざまなゼミを用意し、生徒は興味のあるゼミを自由に選べるようにしています。フィールドワークも取り入れながら社会課題を取り上げ、「自分たちができること、すべきこと」を考えます。学期末には大学の先生もお呼びして、ポスター発表を行うことで、本格的な研究活動を経験できるようにしています。
その他、SDGsの学びとして、主要教科に加え家庭や工業などさまざまな授業でSDGsに関連した授業を実施したり、台湾の姉妹校との交流を続けてきました。
そんな中で出会ったのがWWLでした。内容を見ると、これまでの本校の取り組みを大きく変えるのではなく、各行事完結型であったそれまでの活動をWWLという枠組みで改めて整理することで、次のステップに進む土台になるのではないか、と考えたのです。
認定校となった今、東北から世界へ、持続可能な社会へ向けた自分なりの考えを発信できる人材の育成を目的としています。また、学びを深めるための他校との連携・ネットワークづくりにも力を入れています。
———実際にどのような活動をされているのでしょうか
WWL認定校となると、認定から3年後に国際会議を行う必要があります。その前段階として、初年度である昨年はプレサミットを開催しました。テーマは「科学、環境、文化・教育、まちづくり、国際理解」の5つで、当日は下記の通り開催しました。
①午前中:日頃の探究活動の成果発表
②午後:それぞれの観点から東北の未来について話し合うワークショップ。各テーマごと3~4名のグループで実施。
③自分たちが考える未来に向けてできる事を発表
東北6県の学校から本校に生徒を招いて、100名近くも集まりました。
開催前は、「うちの生徒は初対面の他校の生徒と話せるのかな?」と少し不安も感じました。しかし、教員のそんな不安をよそに、生徒たちはしっかり話し合い、提言を作り上げてくれました。やはり若者の力はすごいですね(笑)。
本校が拠点校だと自覚してくれていたのか、本校から参加した30名の生徒が他校の生徒をリードする場面も見られ、嬉しくなりました。
———プレサミットを開催して、成果は感じられましたか
3つあります。
一つ目は、探究活動の発表を取り入れることで、生徒に学びが残ることです。サミットなどのイベントは、お祭りのようにその時だけ盛り上がって、一過性のものになってしまいがちですよね。日ごろの生徒の探究活動と紐づけることで、それが防げたと思います。
二つ目は、生徒の視野が広がったことです。他校の生徒と意見を出し合うことで、自分では思いつかない意見もあるのだという気づきがあったと思います。私も普段聞けない生徒の意見を知り、「えっ!そんなこと考えていたんだ!」と新たな気づきがありました。
三つ目は、教員間のコミュニケーションが増えたことです。今までは、国際的な人材を育てるための交流というと、英語科の教員だけが対応していました。しかし、今回は探究活動の発表を入れたことで、他の教科の先生もこちらの輪に入ってきてくれたのです。WWLは、英語科だけでなく、学校としての取り組みになっていると感じます。
とりあえずやってみようというチャレンジ精神
———WWLの活動では他にも、「全国高校生フォーラム」へ出場されたと伺いました。
はい、これは非常にチャレンジングな取り組みでした。内容は、午前中は探究活動の研究結果について英語で発表し、質疑応答をするポスターセッション、午後は生徒交流と題したディスカッションです。
フォーラムは、東京・代々木にある国立オリンピック記念青少年総合センターで開催されました。そのような大きな会場で、英語で発表し質疑応答をするなんて、本校の生徒にとっては本当に心臓バクバクだったと思います(笑)。実際、「先生、もう帰りたいよ」と言う生徒もいたんですよ。
それでもやり切った後には笑顔でピースサインの写真を撮っていて、生徒も自信がついたようでした。それを見て、「生徒も教員も準備が大変だったけど、やってよかった」と心底思い、やはり「場の提供」がいかに重要かを再認識しました。
———全国高校生フォーラムの出場を経て生徒さんに変化はありましたか
気質が変わりました。以前は、質問にうまく応えられなかったり、自分の意見を伝えられなかったりすると、落ち込む生徒が多かったように思います。しかし今回は、そのような課題を感じても落ち込まず、生徒それぞれに次の目標を見つけて前向きに取り組んでいきたいという姿勢が見られました。失敗を恐れてチャレンジしないのではなく、思い切ってやってみようというチャレンジ精神がついたと思います。
自分の考えを英語で伝える喜びを感じてほしい
———WWLでの活動や普段の授業を通して、生徒さんにはどのようなことを伝えたいと考えられていますか?
自分の考えを英語で話し伝える喜びを感じられるようになってほしいです。
私は小学校で教員を志すことを決め、中学生の時に英語の教員になりたいと思うきっかけがありました。中学3年生の修学旅行で東京に行った時、外国人の方に「写真を撮ってくれませんか」と拙い英語で話しかけたところ、伝わったのです。それが無性に嬉しくて、「自分の考えを英語で話す、伝える」ことを教えたいと思いました。授業での様子を見ていると、「英語嫌い」と言っている生徒も、心の底では「英語を話してみたい、伝えてみたい」と思っていると見受けられる場面があります。そう思っていない生徒にも、そう思ってもらえるような授業設計をしてきましたし、今後も続けたいです。
英語で自分の考えを伝えるためにも、自分の殻を打ち破る主体性や、そのために必要な知識を習得してほしいです。それを鍛えるのが探究活動だと思っていて、教科横断を行うなど試行錯誤してきました。
また、リーダー性も身に付けてほしいです。ただし、これは一朝一夕には難しい。「ここは自分が主導で動かなきゃいけないんだ」と思えるような場の提供の必要性を感じています。
———今後、先生ご自身がチャレンジしたいことはありますか
大きく3つあります。
一つ目は、プレサミットで、もう一歩踏み込んだワークショップなりディスカッションなりを行いたいです。世界の課題に対し自分たちは実際にどのような貢献ができるのかを考えさせたいです。
二つ目は、主体性・リーダーシップを育てるために、生徒の実行委員会を作ろうと思っています。これはプレサミット向けの実行委員会で、生徒自身でイベントを作り上げていってほしいのです。
三つ目は、海外の連携校探しです。WWLに沿った学習内容を共に行える海外の高校を探し、交流できればと思っています。そのつながりを、国内の連携校にも広げ、学びのネットワークづくりに貢献していきたいです。
取材・構成:小林 慧子/記事執筆:大久保さやか