「持続可能な仕事ではない」新任教員が見た教育の現場 〜Z世代は教員という職業をどう見ているか〜

最終更新日:2022年2月4日

 

先日公開した教職課程で学ぶ大学生へのインタビューでは、「こんな先生になりたい」「こんな授業がしたい」と、希望に満ちたさまざまな声を伺うことができました。しかし一方では、ワークライフバランスをはじめとする現場で実際に働くことへの不安もあります。

 

理想と現実は違うのでしょうか。実際に教員として働くことで、一体どのようなことが見えてくるのでしょうか。今年から埼玉県内の公立中学校に着任した英語科の教員にお話を伺いました。

 

「夢は叶ったけれど……」教員という仕事への期待と現実

 

—— 教員になろうと思ったきっかけや、強く印象に残っている実体験があれば教えてください。

 

子供の頃からサッカーが好きで、海外サッカーもよく見ていたので英語に興味がありました。でも中学校で受けた英語の授業が、ひたすら教科書の英文を訳して終わりというような退屈な内容で、「もっと面白く楽しい授業を作りたい」と思い、英語教員を目指すようになりました。自分だけではなく、周囲の人にも英語を好きになってほしいという気持ちが強かったのと、所属していたサッカー部の顧問に憧れていたことも動機になり、中学の頃から教員になろうと決めていました。

 

—— 憧れだったというサッカー部の顧問の先生は、どのような方ですか。

 

英語科の教員で、僕が中学生の時に26~27歳ぐらいだったので、今は30代の方です。話しやすく、良くないことはしっかり怒ってくれるので、生徒と真剣に向き合ってくれていると感じていました。

 

最近はよく連絡を取っていて、英語の授業の話やサッカーの話をします。ちょうど昨日もその先生が顧問をしているサッカー部の練習試合があったので観に行きました。今でも尊敬しています。

 

—— 教職に就く前、教員というお仕事に持っていたイメージはどのようなものだったのでしょうか。

 

中学、高校の時はやりがいのある仕事だなと思っていました。今でも思ってはいるんですが、大学に入ってからは、いろいろな情報に触れるようになり、仕事としての教員というものを知れば知るほど「これはブラックだな」と思うようになりました。でもその頃には既に教育系の大学に進学していたので、「もう後には引けない」とも思っていました。

 

大学の授業ではそういった側面に触れることは全くなかったのですが、SNSなどで教員の方をフォローしていると「給料が出ないのに部活で忙しい」みたいな投稿ばかり目にするんですよね。「いや、これはやばいな」と思いました。

 

—— 今、教員になってみて、そのイメージは当たっていましたか。

 

部活に関しては実際そうでしたね。本当はサッカー部がやりたかったんですが、土日は潰れるし、給料は出ないし、そうなると授業の質も下がっちゃうかもしれないし……そんなわけで、今は文化系の部活を担当しています。

 

でも、周りの先生には恵まれていて、楽しく働いています。放課後に体育館で他の男性教員とサッカーをすることもあるぐらい仲は良いです。

 

授業以外の業務が山積み、サービス残業前提のタイムライン

 

—— 現在学校で行っている業務には、授業と部活の他にどのようなものがありますか。

 

1年目なのでそこまで多くはないですが、授業、部活の他に生徒会の会計と美化主任があります。部活動や行事の予算は生徒会が取りまとめてお金を出すんですが、お金の管理は生徒にはできないので、一連の会計業務は教員のほうに回ってきます。美化主任というのは、美化委員の担当教員です。月々の目標を決めたり、年度初めに校内の清掃分担を考えたりします。清掃場所の割り振りはかなり大変でした。ちなみにどちらも手当は出ません。

 

—— 英語以外の部分がかなり多いですね。

 

英語の授業とそれ以外の業務は半々ぐらいですね。正直、「なんでこんなことをやっているんだろう」と思うこともあります。

 

定時は16時35分までですが、会計などの業務が入ってくると授業の準備の時間は定時外で設けることになります。教員は給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)で残業代が出ないので、サービス残業確定です。

 

—— 今、「サービス残業」という話もありましたが、1日のタイムラインをお聞きしてもいいですか?

 

8時5分が始業時間なので、だいたい7時40〜50分ぐらいに出勤して、8時5分から全体の打ち合わせが10分ぐらいあります。朝の会と朝読書があって8時40分から授業開始です。午前中は4時間やって、12時40分から給食です。10分ぐらいで準備して、12時50分〜13時10分が給食の時間ですね。昼休みを挟んで、13時50分から5時間目、6時間目をやって、帰りの会まで終わるのが15時40分ぐらいだと思います。

 

運動部は18時まで活動しますが、文化部は活動も緩やかなので17時までです。とはいえ勤務時間は16時35分で終わりなので、この時点で25分オーバーしています。運動部なら1時間25分オーバー。それから授業準備に1時間半。18時30分ぐらいに終わったとして、学校に毎日10時間以上はいるという感じです。

生徒会の会計や美化主任の仕事がある日は、その分さらに延びます。学年の仕事もたまにありますね。

 

—— 学年の仕事、というのは?

 

例えばテスト作りとか、通知表の作成とか。めちゃめちゃ大変なんです。あとは外部テストを業者に発送する前にチェックします。回収した後、名前があるか、シールを貼り忘れていないか、番号は間違っていないかというのを教員がもう一度確認しなくちゃいけないんです。5科目もあると、だいぶ時間がかかります。そして確認が済んだら向きを揃えて回答用紙を袋に入れて、段ボールに詰めて発送です。3年生だけですが、年に5回ぐらいあるので地味に時間が奪われます。修学旅行があればしおり作りもあるし。もう意味がわからないですよね。

 

帰宅後や休日も仕事をしている?授業外の時間の使い方

 

—— 帰宅してからも学校のお仕事をされることはありますか。

 

いや、僕はやらないです。通常でも10〜11時間、通知表とか学年の仕事がある時は12時間、半日仕事に捧げていることになるので、それ以上はちょっと厳しいです。

 

これは何が悪いんですかね。仮に部活がなかったとしても業務に着手できるのは16時ぐらいからで、定時の16時35分までに授業の準備を終えたくても30〜40分では確実に足りないので、初めから破綻しているんです。健全な、良い働き方をするには単純に授業時間を減らすしかないですよね。毎日5時間とかにしないと、授業の質が担保できないと思います。

 

—— 授業の合間に空きの時間はあるのでしょうか。

 

僕は4クラス担当しているんですが、英語の授業は週に4時間と法律で決まっているので、1日3~4時間は英語の授業ですね。あとは副担任をしているクラスで総合が2時間、道徳が1時間。僕は1年目なので初任者研修も週に3回ぐらいあるので、わりと埋まっている感じです。

 

僕は、空きコマがある時に授業準備をして、早く帰れる時は早く帰るようにしています。

 

—— では、お休みの日は学校に関する業務はあまりしないで過ごされているのですね。

 

全くしないですね。本当は授業向上のためにやらなきゃいけないんですよね。時間をかければ良い授業にはなると思うんですけど、コスパがね。今、月給が20万円なんですが、すでに「20万円でこんなに頑張っていいのか?」と思っていますから。

 

教員は年功序列の社会なので、来年には1万上がり、再来年には1万上がるだけです。頑張ったからとか、生徒の成績が上がったからって評価に反映されるわけではありません。だからちょっとひねくれて、今は20万円相当の授業を提供しているつもりです。

—— この先ステップアップするとしたら、一般的にどのようなキャリアがあるのでしょうか。

 

一応、教頭・校長がキャリアアップになると思いますが、それ以外はみんな教諭です。学年主任はいますが、彼らも教諭という立場なのであまり変わりません。学年主任にはプラス1万ぐらいの手当が出るぐらいで、微々たるものですね。

 

—— それでは「上を目指すぞ」という意識にもなりにくいですね。

 

そうですね。頑張っても、頑張らなくても来年には1万上がりますし。

 

モチベーションは「限りなく”ない”に等しい」と語る、新任教員の本音

 

—— 先生方は、夏休みも出勤されるのですか?

 

出勤日はあるんですが、夏季休暇が全部で8日間付与されるのでその日は休めます。加えて、有給休暇が年に20日あるので、それもここで使わないといけません。学期中の月~金曜日に使うと他の先生にしわ寄せが行ってしまうので、有給休暇と言っても普段は使えないんです。なので、有給休暇の20日と夏季休暇の8日、合計28日間を休みにします。

 

研修と職員会議で1週間~10日ぐらいしか出勤しませんでしたね。夏休みは学生時代と同じぐらいしっかり休めました。

 

—— 実際に働いてみて、「教員になって良かった」と思いますか。

 

それは微妙ですね。良かったところと良くなかったところ、両方あります。

 

授業を工夫すればするほど生徒も「楽しい」と言ってくれるので、それはうれしいですね。あとは子どもたちと一緒に過ごしたり話したりするのは楽しいです。それが教員のやりがいですよね。たぶん、それだけでこの職が成り立っているんじゃないかと思います。

 

逆にネガティブな部分としては、努力や成果が反映されない給与体系とか、あとは教科以外の時間が多いことがネックだなと思います。やりがいの方が大きいから、世の先生方は辞めていないだけなんじゃないかな。

 

持続可能な職業ではないですよね。埼玉県では小学校の採用倍率が1.9倍と言われていますが、その気持ちもわかります。今後もどんどん人気は下がらざるを得ないと思いますよ。

令和4年度実施(令和5年度採用)の埼玉県公立学校教員採用選考試験の志願者数について

 

—— 教員という職業は、おすすめ……できないですか。

 

おすすめはしないですね、全く。超ブラックですし、給特法、残業代が支払われないという法律がまず変わらないと、おすすめはできないですね。生徒から「先生になりたい」と言われても「やめた方がいいよ」って言っちゃいます。かわいい生徒たちにこんな辛い仕事をさせたくないです。

 

—— そんな中、先生が今モチベーションにされていることは何ですか。

 

今は授業ですね。授業改革、生徒のために頑張って授業を楽しくしようということぐらいです。あとはボーナスかな……限りなくモチベーションはないに等しいです。

 

今お話ししながらタイムスケジュールを見返しましたが、改善の余地が思い当たらないです。工夫するとしたら空きコマにどれだけ頑張れたか、ぐらいですから。

 

—— 今後もずっと教員を続けていくイメージはありますか。

 

ずっと続けるか、と問われると正直わからないです。ここから転職するとしてどういう職種に就けるのか、今のスキルを別の場でどう生かせるのかイメージが描けないのでとりあえずステイ、という感じです。私立教員になれば残業代は支払われると思うんですけど、基本的には同じ仕事じゃないですか。だからどうかな。

 

でも、公務員って「おいしい」じゃないですか。絶対に職を失わないし、確実に昇給することを考えると、すぐに捨てるのは惜しいとも思いますね。

 

[インタビューを振り返って]

 

飾らず率直に話していただいたことに感謝しつつ、想像以上に厳しいお話で、少し落ち込んでしまいました。期待通りだったこと、期待はずれだったことに一喜一憂する様子を「新任だから」と笑って見過ごすことは容易ですが、まだ何にも染まっていない客観的な視点からの指摘は貴重だと思います。的確な指摘も多いのではないかと感じました。

 

教員として働き続けている先輩方は、この現状とどのように向き合っているのでしょうか。また、教員の働き方改革のために私たちにできることはあるのでしょうか。国際教育ナビでは今後、教員の働き方改革について研究をされている専門家の方にお話を伺う予定です。どうぞご期待ください。

 

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