英語教員が副業で活躍するには?「発想の転換」と「環境の整え方」

最終更新日:2023年3月28日

近年、本業である英語教師以外にも副業を持ち、多フィールドで活躍する先生方を目にする機会も増えてきました。しかし、「うちの学校では副業は禁止されている」「忙しくてそんな時間はないはず」と疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、東京女子学園中学校高等学校先端学習部の副部長・探求科の主任でありながら、日本アクティブラーニング学会理事など多くのお顔を持たれている唐澤博先生に、副業活動を成功させるコツや考え方について教えていただきました。(聞き手:早坂)

英語教員だけでなく、多フィールドで活躍される唐澤先生

「東京女子学園中学校高等学校」から「芝国際中学校・高等学校」へ

(唐澤)私は今、東京女子学園中学校高等学校で先端学習部の副部長と、探求科の主任をしています。30年以上、英語の教員や国際関係業務などをしていましたが、3年前に学校改革のため東京女子学園にやってきました。来年から東京女子学園は、同じ学校法人の芝国際中学校・高等学校に変わります。

 

(早坂)新しく変わる学校について、詳しくお伺いできますか。

(唐澤)学校法人は東京女子学園のまま名前が芝国際中学校・高等学校になります。男女共学で中学1年生と高校1年生を募集しており、カリキュラムも新しくなります。

ただし、現在東京女子学園に在籍している生徒は、現行のカリキュラムのまま卒業まで進みます。

芝国際中学校・高等学校のなかで、新旧2つのカリキュラムが混ざることなく同時並行で進む感じです。

現在在籍中の中学生が高校進学時には、共学の新しいカリキュラムへの移動も可能としました。しかし、生徒や保護者のなかには女子校としての価値観を持ち、男子の入学に抵抗感を示す方もいらっしゃいます。学校としては、ダイバーシティやインクルーシブというような価値観を強制しないことを伝えて、東京女子学園の現行カリキュラムのまま続けたい意向の生徒には卒業まで保証します。

今後は、「東京女子学園」としての募集はしません。今いる子たちが卒業するときは、「旧東京女子学園中学校高等学校卒業」が併記された卒業証書を出すことになります。

 

 理事として立ち上げのときから参加「日本アクティブラーニング学会」

(早坂)ここからは、唐澤先生の「英語教員以外のお顔」についてお伺いいたします。

(唐澤)まず、日本アクティブラーニング学会というものがあります。

(早坂)どのようなご活動をされているのでしょうか。

(唐澤)理事として立ち上げのときから参加しています。実はこの学会、2030年に解散が決まってるんです。というのもアクティブラーニングは1980年にアメリカで流行ったが故に「古い」と言われたり、批判的な方もまだまだいらっしゃいます。でも、ここで提唱しなくなると日本の教育システムが昭和のスタイルに戻ってしまう可能性もあるんですよね。なので、2030年には「アクティブラーニングって当たり前だよね」という時代になっていることをひとつの目標に活動しています。

もちろん学会なので研究もしていますが、私はそこの「遠隔ICT部会」の座長をしているんです。

4つ部会があって、私の属する部会では、教科を超えてリモートを含めた授業やICT活用をどう進めるかということを話します。年1回研究大会と、3月に全国大会をやっていて、論文集もデジタルで出しているんです。

なかなか発表の機会のない学生など、誰でも入れるように敷居は低く、会費を3,000円ほどにしています。今はほとんどオンライン開催ですが、1時間半ほどの定期部会では、教科・科目に関係なく発表や情報交換もしています。

(早坂)ほかにも、なにか活動されていることはございますか?

(唐澤)国際エデュテイメント協会というものがあります。できて3〜4年目くらいです。

EdTechをどうやって英語教育に結びつけるかを考えた英語教育・達人セミナー(代表:谷口幸夫)が手を組んでできた新しい社団法人です。

ここでの私は、名ばかりの理事。森さんという方が理事長として活動されていて、教育コンテンツを提供したり、セミナーを企画したりしています。

(早坂)アドバイザリーとしても活動されているとお伺いしております。

(唐澤)教科書や参考書の流通ではナンバーワンの日教販さんでは、アドバイザリーとして正式に契約をしています。月に1回以上、最近はオンラインで活動しています。

なぜ私がここのアドバイザリーをやっているかというと、元々日教販は紙ベースでアナログの会社でした。ですが、今の時代の教科書はデジタル教科書になるといわれているので、約3年前に日教販の中にICTの部署ができました。現在、NECと組んでOPEというeポータルの作成・運営に関わっています。

しかし、SEや販売のプロはいますが、実際の現場がどんなものを欲しがっていて、何が必要かがわからない。そこで「ぜひコンテンツ開発関係の仕事をして欲しい」と私に話が来て引き受けたんです。

他に、ELPAにも現場の教員という立場でアドバイザリーとして入っています。ここはNPOの団体です。三省堂さんと英語の出版に関わっている人たちで作られたもので、先生向けのセミナーなどを企画しているところです。

ここでも私は、現場の教員としてアドバイザリーに入っています。

 

本職以外で力を入れていたことを突き詰めた結果としての「副業」

先見の明が光る「ICTの活用」

(早坂)今回は、「副業」といいますか、先生の授業活動以外のお話を軸にお伺いしています。唐澤先生の場合は、元々先進的なお考えがあって、(ICTなど)それを突き詰めていった結果、学校以外のところからもお声がかかって今この4団体を兼ねられているんですね。

(唐澤)ICT活用についてお話をすると、私はこの業界に入って5年目ぐらいのとき、教室に紙の辞書を持って行くのを一切辞めました。電子辞書を買った瞬間からです。日本で初めて電子辞書が販売されたタイミングでした。

ちょうどその頃、前任の浦和実業にLL教室というものがありました。昔、LL教室ではカセットを使っていたんですよね。それを全て入れ替えて、今で言うパソコン室のような教室を作ったんです。全てのメディア、MD、CD、DVDなどを使うことができて、初めてインターネットも使えるような仕組みの教室を作りました。ちょうど2000年ぐらいです。

(早坂)2000年頃に、そこまでの設備を!

(唐澤)そうやってICTを推進してきました。パソコンを使ったり、当時はiPod使ったりしていたんですよ。今ではAppleも教育部門ができましたけど、当時は無くて。

ただ、iPod5世代では画像も映像もRGBの接続によってカラーテレビで再生することができ、アダプターを付けてスピーカーを持っていけば、カセットを持って行かなくてもデータを全部入れることができました。その流れでカシオの電子辞書、音声教材はiPodを使ってICTを推進をしてました。

「6割ぐらいがちょうどいい。」新しいシステムや技術にのめり込まない

(唐澤)20年前はパソコンのアップデートするにはお金がかかりました。またソフト1つの値段が高く、サブスクというシステムもなかったため、一回入れたらそれっきり。良いものを導入しても毎年お金がかかるので何年もそのままということも。

そんな中、私はWindowsを勉強していました。ほぼ全て体験しましたね。当時は「Perl」というプログラミングソフトを使って生徒に配信すると、データが取れるという仕組みがあったので、それを知ろうと思っていたんです。

すると、当時前任校にいたSEの人に「そんなことはプロに任せて。先生は仕組みじゃなくてコンテンツを作る人なのだから。どっちつかずになりますよ。」と言われました。

(早坂)どっちつかず……というのは?

(唐澤)当時は、一台数十万円もするようなPCや、デジタルデータをカセットテープに残すというような、テクノロジーが好きな先生がたくさんいました。開かれたインターネット環境ではなく、スタンドアローンのPCの世界ですね。そういう人たちがそれにのめり込んで抜け切れなくなり、次のステップのときに使い物にならなくなったところをたくさん見ていたんです。私は当時から「ネットに繋がらないPCはただの箱」と言っていました。

(早坂)プロではない人がのめり込んでも使い物にならない、と。

(唐澤)だから、私はあるシステムや技術が入っても、6割ぐらいしかやらないです。そのくらいにしておかないと、ITの世界は変わっていきますから、次のステップに移行できなくなってしまうんです。

(早坂)どんどん陳腐化していきますからね。

(唐澤)そうです。だから100%使いこなす必要はなくて、6割ぐらいの程度で新しいシステムや技術の活用ができればいいと思っています。

急な休校はなくなる?!オンライン学習の現状とこれから

(唐澤)先日、私がコロナの濃厚接触者になってしまって、5日間は出勤できない状況になりました。中間テストの直前で、学校に行けなかったんです。多くの学校が代替えの先生が授業をするか自習にする中、私は自宅からオンラインで授業をやりました。

(早坂)先生のお顔を直接見られないのは残念ですけど、授業が止まらないのは生徒さんにとってはとても助かりますね。

(唐澤)そうなんです。「台風だから学校がなくなってラッキー」とか、そういったドキドキ感がないのが残念ですが。

(早坂)オンラインならではの悩みかもしれませんね。

(唐澤)でも、おかげで引き出しが増えました。違う勉強スタイルやITの活用方法はないかと考えていて、2020年にオンライン授業を始めましたが、コロナになってから7割くらい家から授業をしていましたので。オンラインでできないことはないです。オンラインでジグソーなど、いろいろな工夫をしました。

(早坂)オンラインでジグソーもできるんですね。オンラインでの学習って、それなりに形を変えて続いていくと思っています。

(唐澤)自習や英検の面談など、もちろん何でもできますよ。緊急の事態が起きても大丈夫。本校では「休校」があっても「休講」はありません。

発想の転換で、副業環境を切り開く

副業活動のコツは「学校の理解」と「働く環境」

(早坂)先生のように、こだわっていたりテーマ感を持っていたりするもので副業活動をしたいと思ったとき、何かコツみたいなものってございますか?

(唐澤)1つは学校の理解です。どうしても制限がありますので、学校の理解がなければ無理です。

教科書も多くの現場の先生が書くんですけれど、最近は全部、県や教育委員会などにも申告しなければいけません。

けれども、英語教育達人セミナーの主幹、谷口先生はずっと都立の教員をやりながらセミナーを開催していました。やれないことはないんです。環境によりますね。

(早坂)先生方は多忙なイメージがあります。スケジュール調整も難しいのではないでしょうか。

(唐澤)特に公立中学では、部活動などで拘束されると、自分のアップグレードどころじゃありませんね。

かと言って、教員って地方へ行けば行くほど、地元の名士ということもあり、他の仕事に行きにくいんです。

(早坂)自分でオンラインの授業を立ち上げてはいけませんか?

(唐澤)公務員規正法に抵触して駄目なんです。私学の場合は、完全に経営者か理事長か校長か、管理職の裁量で活動が認められていたりしますね。

(早坂)なるほど、環境の影響は大きいですね。

(唐澤)ちなみに、新戸部文化中学・高等学校のホームページには、教員がプラスアルファで何をやっているか、全部載ってます。そういう先生を集めてますというのがPRなんです。

(早坂)そうなんですか、今までそういった形はあまり聞きませんでしたよね?

(唐澤)おそらく、日本でそんなことを公開するのは初めてではないでしょうか。例えば、教科書の執筆をしています、予備校で教えてます、といったことです。

(早坂)でも、親御さんからしても、先生方がいろいろなところで活躍していると安心できそうですよね。

 

ピアソン本社から学ぶ|職種・業種を超えた協力関係

(唐澤)私はよく外部の先生や他業界の方に会いに行くようにしてました。

(早坂)英語教員は同僚の方と交流を深めているイメージがありましたが、意外ですね。

(唐澤)それが功をなして、英語業界と塾の仲が悪かった時期に、とある予備校の先生に授業を見せて欲しいと、直接頼んだんです。予備校の生徒たちがなぜこんなに英語に興味を持っていくのか見せてほしくて。

結果的にそれが定着して、今でも学校の先生に公開してくださっています。

それまでは「あいつら(予備校の先生)は現場の人間と違うんだ!」と平然と言っていた時代がありましたけど、いざ授業を見てみたら学ぶことがいっぱいあって。逆に予備校の先生たちは学校の授業のことを知らないので、双方に学ぶことがありました。

(早坂)なるほど、素敵な活動ですね。

(唐澤)私のネットワークには塾、学校、英会話、個人、企業、EdTechなど、いろんな英語業界の人がいますが、全員がお互いに協力しましょうよと考えています。それらを一つにしないと4技能は推進できないので。それを繋ぐ役割も私がずっとしてきています。

(早坂)そのように考えるようになったきっかけはございますか?

(唐澤)アメリカNYにあるピアソン本社に、研修でお伺いしたことです。英語関係の本を出版している会社です。

ピアソンには出版社としての編集者、コンテンツを作る有識者や現場の先生たち、このコンテンツをネットに載せる仕組みを作るSE、が一つの会社にいます。日本だと一つの会社にはいないでしょ?だから機会を作ってリサーチしないと各立場のニーズをなかなか把握できないじゃないですか。

ピアソンではいつもミーティングに各立場の人がいるんです。常に一緒にコンテンツを作っているんです。それを見れたのが、2001年の話です。

(早坂)先取りですね、面白いです。

(唐澤)またアメリカでは、国土が広いから遠くからアクセスできない人もたくさんいるので、学校に行けない人たち向けのサイトも当時はいっぱいあったんです。オンラインの文化が当たり前にありました。20年前ですが、私がネットワークを使ってやりたいことが、NYに行くことで裏打ちできたんです。

 

「発想の転換」で働く環境は選べる

(唐澤)私立の学校って、申請すると助成金が出るんです。おかげで、私は教員になってから短期ですがスコットランドに留学にも行きました。

(早坂)なるほど。キャリアを構築していくときの出発点も、体験できることの質と量も、私立と公立では異なると。先生方がご自身のキャリアを考えるとき、多様化したい場合はやはり「どこで働くのか」が重要ですね。

(唐澤)あとは、今はもう発想を転換しなければいけないです。

私は生徒に宿題を出していません。そういった発想の転換をしないと、仕事がどんどん増えるばかりで自分の時間がなくなります。

教員って教えるのが好きでなってると思うんですけど、教える力を伸ばすために努力はしたいが、生徒指導があって部活動があると、新しいメソッドを取り入れる時間がなくなってしまいます。

新しい本を読む時間もないし、例えば、「紙辞書と電子辞書の語彙習得的な損得に差はない」という研究結果が最近出ていますが、その論文にもたどり着けないんです。だから未だにその論争をしていたりもします。300ページの論文なんか読む暇はないですから。

研究者たちがまとめてくれるものに触れて日々アップデートし「今」を掴めるかが大事かと。そうすると必然的にやるべきことがわかり「こっちの学校で動こうかな」という選択肢ができるのかなと思います。

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