SNSで「英語を話す喜び」を発信|副業TikTokerとしての活動から得た気付きとは
最終更新日:2023年4月20日
今回は、麹町学園女子中学校・高等学校の教員である傍ら、人気TikToker・インスタグラマーとして活動する野田優輝先生にお話をうかがいました。
「本業と副業はそこまで区別しておらず、一貫して英語でコミュニケーションを取る楽しさを伝えている」と語る野田先生。
先生がSNSでの発信方法を研究するなかで発見した、中高生世代の考え方の特徴や、生徒が積極的に参加する英会話のアクティビティについて詳しく教えていただきました。(聞き手・小泉)
スロバキアに留学後、中高の英語教員として勤務
———今回は「先生の副業」というテーマで、麹町学園女子中学校・高等学校教員である野田優輝先生の話をおうかがいします。まずは、野田先生のご年齢と経歴についておうかがいできますか。
(野田)1996年生まれの26歳です。教員歴は小学校で半年、高校で1年ほどです。
大学在学中に休学し、スロバキアに半年間交換留学をしました。
帰国後、大学を卒業してからは小学校で教師として勤務しましたが半年後に退職し、大学院に2年間通いました。
大学院に在籍中は、高校教師として働きつつ、英語にまつわるさまざまな活動に携わりました。
例えば、インターナショナルスクールのような幼稚園の立ち上げに参加したり、東京オリンピックの時にはスペインの放送会社で働きながら日本企業とのコーディネーションをしたりといったものです。
———最初の小学校では、英語の先生として働かれていたんですか。
(野田)いいえ、小学2年生の担任をしていました。小学生の頃からずっと、小学校の先生になりたかったんです。夢を叶えたのはいいんですが、自分の力不足を感じてしまって。
いろいろ挑戦してみようということで、院進学を決めました。大学院自体はその後中退したのですが、在籍中に「英語を使って誰かの可能性を広げるお手伝いをしたい」と思ったんです。
今は、本業で中高の英語教員、副業としてTikTokerや、英語のコーチとして活動しています。
———大学を休学して留学したり、最初の職場を辞めて学び直したりと、早いうちから自分の選択肢を広げる挑戦をなさっているんですね。挑戦の結果、自分の理想に近づいたとは思われますか。
(野田)そうですね。英語を教えることはやっぱり一番楽しいし、やりがいもありますから。
TikTokなどのSNSを活用し、英語学習動画を発信
———副業の内容について教えてください。
(野田)SNSを利用し、英語でコミュニケーションを取りたいと思っている幅広い層に向けた情報発信をしています。それから、他の方のTikTokアカウント運営をお手伝いすることもあります。
自分の情報発信については、発信内容を媒体によって分けています。
TikTokでは、英語の日常会話で使う具体的な言い回しや、英語の学習方法を発信しています。Instagramでは、SNS以外に社会人向けに英語のコーチングをしているため、そのマーケティング用の投稿をすることもあります。
———TikTokの運用はご自身でなさっているんですよね。動画の制作は、平日の夜や土日にされているんですか。
(野田)そうですね。アシスタントの方に、動画撮影やデザインについてはお任せしていますが。
英語が苦手だったからこそ分かる、「伝える」楽しさ
———副業を始めたきっかけについて教えてください。
(野田)私自身が学生の頃、英語が苦手だったんです。中学校や高校の頃の英語の成績は5段階評価で2か3でしたし、センター試験でもひどい点数を取りました。
スロバキアに留学した際も、最初は一言も喋れない状態からのスタートでした。
ただ、私は外国の方と遊んだり、友達になることが好きなんです。それで、なんとかして英語を使ってコミュニケーションが取れるようになりたいと思いました。
それで、どうすれば話せるようになるのかを考えたんです。
その結果、英語で会話をするときは、文法のトレーニングも重要だけれども、話すためのトレーニングもまた別に必要だと気付きました。
この体験がきっかけで、スピーキングに必要な知識を発信したいと思うようになりました。
———それがSNSの発信につながったんですね。
ブロークンイングリッシュでも構わない。発信することの重要性
———野田先生以外にも、YouTubeやTikTokで英語学習に関する動画を発信されている方は多いですよね。
であれば、おもしろいクリエイターさんの動画をピックアップして、授業で紹介するだけでもいいと思うんです。野田先生は、なぜご自身で動画を発信されているのでしょうか。
(野田)英語学習系のYouTuberさんやTikTokerさんの動画を拝見していると、英語がとても得意な方が多いんです。例えば、TOEIC満点や英検1級を取得されていたり、もともとネイティブの方であったり。
一方、私の場合は英語に関する資格はまったく持っていませんし、お話しした通り、もともと英語は苦手でした。
SNSを発信するうえでは、僕と似たような英語力でも外国の方と楽しく遊ぶことはできるし、言いたいことも十分に伝えられるよ、と伝えたいんです。
英語を使って誰かとコミュニケーションを取るファーストステップを後押ししたいと思っています。
———2020年度から始まった中学生向けの「新学習指導要領」でも、まさに自分の気持ちを英語で伝えるなどの発信活動が重視されていますよね。野田先生のおっしゃることは、新学習指導要領の求めるマインドそのものだと思います。
SNSを通じた視聴者とのコミュニケーション
———実際に動画をアップロードしてみて、視聴者の方からはどのような反応がありましたか。
(野田)例えばTikTokでは、私が動画内で皆さんに「こんな状況を、英語ではどんなふうに言うと思いますか?」と質問することがあるんですが、それに対してたくさんの方がコメントをくださっています。
SNS上で、視聴者が自分の考えを発信できる世界観がつくれていることがうれしいです。
———TikTokの動画は、授業でも使われるんですか。
(野田)残念ながら、自分の動画はまだ授業では使えていません。ただ、生徒がTikTokを見て「先生の動画観たよ」と伝えてくれることはあります。
「バズる動画」の研究が、本業の授業でも活かせた
———TikTokerとしての副業を通じて、本業である英語教師としての活動に変化はありましたか。
(野田)TikTokで「バズ」を狙う過程で、Z世代の考え方を研究できたのは大きかったです。
例えば、Z世代って失敗をすごく恐れるんです。だから「文法を間違えてもいいから、とにかくしゃべってみよう」とこちらが伝えても、あまり彼らの心には響かない。なので、間違えることを知らず知らずのうちに体験してもらったほうがいいな、と思いました。
例えば授業では、間違える前提でゲームをしてもらったり、間違いにフォーカスさせない、というような取り組みをしています。
それから、Z世代は共感性もすごく強いですね。これに対応するため、授業ではグループワークを通じて他の人の意見を聞いたり、みんなで一緒に取り組むワークを増やしたりしています。
ただ、教育とのバランスは難しいなと思っていて。Z世代が求めているものをすべて提供すると、教育が成りたたないこともあるんです。
先生として伝えたいものもしっかり持っていくなかで、Z世代に合わせていく方法を、今後も動画や授業で模索していきたいですね。
発信を通じて、自らの英語能力も高まった
———TikTokでの発信を研究するなかで、生徒の反応が変わったり、何か手応えがあったという体験はありますか?
(野田)授業では、他の動画配信者が発信されている内容で分かりやすいと思った考え方を積極的に紹介しています。
例えば、”I am playing football”などの現在進行形の文章について、TikTokでとても参考になる説明があったんです。これは私が”playing”という状態になっているのだから、構造的にはSVCと変わらない、というもので。この説明は生徒からも好評でした。
他にも、ある動画で「過去形は、過去を表しているわけではない」という考え方を見たことがあります。その動画によると、過去形は現実との距離だ、ということなんですよね。同じように仮定法も現実と距離があるから過去形にするんだ、と。
非常におもしろいし、興味深いなと思いました。
———たしかに、納得感がありますね。
(野田)そうなんです。これに限らずいろいろなクリエイターさんが、たくさんの情報を発信されているんですよ。納得できる説明は「バズ」りやすいですしね。
一番英語の勉強になっているのは僕だと思うこともあるほどです。
「伝わると、楽しい!」を実感してもらうために
———本業と副業のバランス感についてはどのように調整されているんですか。
(野田)気持ち的にはどちらも100パーセントのつもりでいるんですが、物理的な時間でいうと、8割が本業、2割ぐらいが副業ですね。
ただ、私の中では副業と本業ってあんまり分かれていないんです。一貫して「英語って伝わると楽しいんだよ」というところを伝えていきたいなと思っています。
ミニゲームを通じてコミュニケーションを楽しむ
———授業内で、生徒に英語を伝える楽しさを実感してもらった経験はありますか。
(野田)授業中、10分間ほどを使って間違い探しなどのミニゲームを実施しています。
ペアにそれぞれ違う絵を配布して、その絵について英語で説明させて2つの絵の間違えを探していくというものです。間違い自体は非常に簡単なものなんですが、どのような間違いなのかは英語で説明する必要があります。正解できた人から順に「クリア」になるというものです。
それから、とにかく話した方が得だよというコンセプトのミニゲームをしています。4枚の写真を用意し、そのうちの1枚について、ペアの一人が英語で説明をし、ペアのもう一人が、どの写真について話されていたのかを当てるというものです。
———難しそうですね。
(野田)最初は生徒も難しいと感じていたようです。でも、続けるうちに段々と正解するようになり、今では8割〜9割の生徒が正解するようになりました。
ミニゲームの際には、生徒たちに「間違えていい」「文法的には間違っているブロークンイングリッシュであっても、伝わったほうがいい」と必ず毎回伝えています。
その結果、生徒たちは英語で発言をしてくれるようになってきました。
———友達に伝えられることそのものを楽しむんですね。英語を嫌いにならない授業として、先生の活動は実を結んでいると思います。
カフェやバーなどで実際に会話してみる
———先生は社会人向けの英語コーチングもなさっています。社会人の方では、どうやって英語をしゃべる楽しさを実感できるでしょうか。
(野田)例えば、都心のカフェでは英語話者の方が結構いらっしゃるんです。
スタッフやお客さん同士で、英語を使って会話ができる場所で日常会話を楽しめる「英会話カフェ」もあるんですよ。
あとは、お酒が好きなら、新宿のゴールデン街などのバーでは英語話者の方と会話が始まることも多いんです。
コーチングでは、そういう場所に行ってみるイベントを企画しています。
本業でも副業でも、英語の面白さを伝えていく
———今後の活動についてお聞かせください。
(野田)英語学習に対するハードルを下げるために、今後もさまざまな取り組みをしていけたらと思っています。
そのためにも、TikTokやInstagramを通じて、今後も勉強や研究を続けていきたいです。特に、ストレスなく、楽しみながら英語を学べるエンタメ性の強い動画をつくることは目下の目標です。
英語を身につけることで、人生の可能性はグンと広がります。
そのためにも、英語で自分の気持ちを伝えることの楽しさを広めていきたいです。