白熱トーク#3「これが観点別評価だ!」~あなたの指導案がクワケンを唸らせる~
最終更新日:2023年3月29日
もくじ
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登壇者紹介
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【第1部】講演「相互文化的能力と英語力」(桑野先生)
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【第2部】講演「相互文化的能力を育成する授業実践」(藤下先生)
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Q&A
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まとめ
(越智)幼稚園から高等学校まで全国で学習指導要領に基づいた授業が行われていますが、学習指導要領は社会のニーズや時代の変化に合わせて約10年ごとに改定されています。2022年度から新学習指導要領が全面的に実施されていますが、1学期を終えて、いかがだったでしょうか。
実際にABC評価をつけてみて、計画通りに評価できた先生もいれば、思うようにできなかった先生もいらっしゃると思います。
今回はお悩み解決のヒントとなるコンテンツを第3回目を迎える白熱トークでご紹介します。
登壇者紹介
・桑野健太郎 先生:福岡英語力向上プロジェクトチームクワケンの代表/文部科学省認証 英語教育推進リーダー/外国語教育推進ネットワーク 副代表/「クワケン先生」の愛称でおなじみ
・藤下美貴 先生:春に続いて夏の甲子園も出場した野球部、福岡県のインターハイに出場したサッカー部、といったスポーツクラスを担当
【第1部】講演「相互文化的能力と英語力」(桑野先生)
1. 英語力とは?
皆さんは「英語力」と聞いてどんなことを思いつくでしょうか。
「英語力とは何か」学習指導要領が示すコミュニケーションを図る資質や能力という視点から見ていきましょう。
キーワードは4つです。
「知識・技能・理解したり、表現したり、伝えあったりする力・文化への理解とコミュケーションをを測ろうとする態度」こういったものが挙げられています。
私は文部科学省が示す英語力を、Michael Byram の Intercultural Communicative Competence (相互文化的コミュニケーション能力)という理論を元に解釈しています。Byramの理論には4つの能力があります。
※学習指導要領が示すコミュニケーションを図る資質や能力と、Byramが説く相互文化的能力にどのような関連があるかをまとめた表、右列が両者の共通点
2. 観点別評価の基本
観点別評価には3つポイントがあります。
※参考文献『指導と評価の一体化』
つまり、定期考査以外の、学習状況も評価するのが観点別評価です。今までは定期考査だけでの評価が大半を占めていたものが、その過程が大切だということを示唆しています。
学習指導要領が示す資質・能力には三つの柱に話があります。
※③学びに向かう力、人間性等(態度)
この三つの柱を「英語力」に当てはめると、
①→言語能力(言語を正しく使う能力)
②→社会言語能力と談話能力(知識技能との被りはあるとは思いますが、思い切ってこの2軸で私は解釈しています)
③→メタ認知能力(自己管理能力)
になると考えています。
この柱に ④相互文化的能力、文化的差異や価値観の違いに関する知識を獲得しようとする姿勢 を当てはめて、それぞれを点数化し評価しています。
3. 観点別評価の実際
評価を行うタイミングと項目別の点数を本校ではこのようにしています。
PTはパフォーマンステストです。単元が終わるごとに実施しており、例えばLesson1が終わったらPT1を実施、先ほどの三つの柱を25点満点で評価します。
このため今まで中間考査を100点満点で評価していましたが、60点に圧縮しております。試験時間は変えていません。期末考査も同様のやり方で点数化し、1学期の総合評価を出します。
【観点】の計算方法は
①1学期中間の知識・技能+思判表+中間考査=100点(期末考査も同様)
②(中間+期末)÷2×0.8+態度(20点満点)=1学期の観点(点数)
ABC評価のつけ方は、①知識・技能②思判表③態度の各項目を校内規定に応じて何%以上の場合はA、というような形で評価を行いました。
パフォーマンステストは先程の3つをさらに5つに分類し、採点者の中で基準を設けて5点、3点、1点で評価します。
ABC評価は、第2回の講師を務めた須本先生が作ってくださったExcelに全部の点数を入力をして決定します。( https://kknavi.jp/feature/3300/ )
※Excelデータについては一度桑野先生へご連絡ください。
評定点を各項目に入力すると、生徒1人につき1枚ずつ個人表が作成されます。レーダーチャートなども記載されとてもわかりやすいです。
手探りで実施しましたが、無事生徒に渡すことができ、チームで挑戦してみて本当によかったと感じました。
観点別評価を体験した生徒にアンケート調査を実施しました。一部原文を抜粋してます。コメントAは比較的良かったと感じている人たち、コメントBは何かしらの改善を求めている生徒たちのコメントです。
【第2部】講演「相互文化的能力を育成する授業実践(藤下先生)
※後日お渡しするデータ等には今日お見せしたものと違う点ががある可能性があります。予めご了承ください。
新学習指導要領で述べられている三つの柱に基づいて計画をした授業実践をご紹介いたします。
授業実践①(2年生S特進クラス 35名)
確認テスト1回目は教科書をもとに作ります。Power Frame 850をもとに、Microsoft Formsの形に桑野先生が作り直してTeamsで課題配信をし、課題のポイントを解説してから授業中にテストを実施します。提出もTeamsです。
確認テスト2回目では少し難易度が上がり、選択肢から1つ単語を削除しているので、自分で足さないといけません。これもTeamsで課題配信し、授業中に回答します。
間違いが多いものを中心に取り上げ「この問題は答えがバラけているけど、どうしてみんな迷ったのかな」と、生徒の意見を聞きながら共有します。
パターンプラクティスは、Wordの形式で課題配信をし生徒には直接回答をWordに打ち込んでもらいます。回答は返却しますがコメントをつけることはほとんどないです。
確認テストが2回終わったらTeamsで新たに課題を配信します。
例えば、パフォーマンステストとして5番目の設問で写真を英語で描写させ、録音したものをTeamsの課題機能で提出してもらいます。この単元は【冠詞の使い方】ですので「冠詞を1つでも間違えると5点満点は取れないよ」としっかり評価基準を伝えます。すると生徒たちは、自分なりに冠詞のルールを発見しようとし学ぼうとするんです。ここがパフォーマンステストの面白いところだなと思っています。提出物にはコメントをつけて返却しています。
このクラスの生徒たちは、理解したことをどう使うか、どのように社会と関わっていくかということに対するモチベーションも高いです。ですので生徒自身で知識・技能を取りにいける仕組みを桑野先生が作られています。
授業実践②(3年生私立文系クラス 38名)
3年生に観点別評価はなく、ペーパーテスト90点、平常点10点となっています。この平常点10点の中で、できることはないかと考えて実施している取り組みをご紹介します。
取り上げるのはコミュニケーション英語Ⅲの授業です。教科書はBIG DIPPER English CommunicationⅢ。通常2時間で1レッスン進むのですが、パフォーマンステストを実施する際は計4時間で行います。
Pre-reading Activityは必ず教科書本文に入る前に実施します。内容は私が考えています。このレッスンではオンラインでの口コミサイトを読んでそれを自分で作ってみようという内容なので、そのための動機付けをします。
次はWhile-reading Activity。教科書に沿って新出単語の確認をし、本文の内容を理解して、付属の内容理解アクティビティを実施し、答え合わせまでします。
Post-reading Activityは、教科書の本文にならって私が課題を自作します。Writing, Speaking, Presentationを実施。WritingはTeamsの課題配信に直接入力して提出をしてもらい、コメントをつけて返却しています。
Speakingは3〜4人のグループを作りWritingをもとに発表していきます。
Presentationは、先ほどのグループから代表1人を選出しクラス全員に向けて発表をしてもらいます。発表者は代表者のみになりますので評価の中には入れていません。
発表を聞いてる生徒には発表者が何をおすすめポイントとしていたか、などを日本語で書き取るようにしてます。発表者は英語ですが、聞いている生徒は全部英語で書き取るとなると萎縮してしまい、文章が書けない生徒も出るからです。投票を集計し1〜3位を発表します。
授業実践③(3年生トップアスリートクラス 28名)
本校が誇るトップアスリートたちですが手強いです。
2クラスありますが、今回はサッカー部が主に在籍するクラスの取り組みをご報告します。
使っている教材はDUALSCOPE English Expression Iで、2年生の英語表現 Iの続きを3年生の英語演習の授業で扱います。本来、大学入試の演習問題に重きをおくと思いますが、不定詞の授業に8時間もかけました。
教科書の内容を出版社が作成しているPowerPointを使って説明します。本当に使いやすいです。PowerPointで一緒に発音を確認し、教科書の左ページを説明して右側の問題を一緒に解き解説します。
「問題をいかに解かせるか」がこのクラスの鍵です。そして本当に解いているのかを確認するためにお手製の冊子を作っており、毎度回収してハンコを押します。そしてパフォーマンステストに繋げていきます。
ちなみにこの冊子を活用するのに一番有効だったのは「冊子の表紙をアンパンマンにする」でした。「みんなアンパンマン出して!」これが高校3年生のトップアスリートたちにものすごく有効なんです。これによって冊子を失くす、破れるということがほとんどなくなり、全員きっちり問題に取り組み提出してくれました。
このクラスの生徒たちは、社会と関わりを持つ、より良い人生を築いていく、ということに非常に関心があります。ただ、そこに英語が介在するとは思っていません。
そこで、”I want to”や”My Goal is to”などの表現を使い英語でインタビューに答えるという課題を作ってみました。生徒が将来海外で活躍するようになったときに、英語のインタビューにどう答えるのかイメージしながら取り組むように指示しました。
サッカー、バトミントン、体操など、各競技に合わせた状況を設定し、通訳役を決めコメントを考えてもらいます。まずは手書きで下書きさせ、私が可能な限りこう表現したらいいんじゃないかと赤ペンを入れます。その後Wordに打ち込みTeamsで提出してもらいました。
上記は生徒の回答ですが、”Thank you. We could become champion because we all tried our best. We hope to be top three finalist.”とto不定詞を使ってくれます。
この後ペアで練習をし、レコーディングしたものを提出するよう指示しました。提出者は14人、つまり半数しか提出してないという結果にはなりましたが、実は残り半分は提出者の相方として一生懸命に取り組んでいたから提出ができなかった、ということが後ほどわかりました。全員が取り組んでいたんですね。
観点別評価は、上記のような配点にしています。10点満点で平常点に加算しました。
奇声を発していたり、原稿と違うことを話していたり、不定詞を使っていないこともありましたが、本当に楽しそうにやってくれていたのでやってよかったと思います。
Q&A
Q. 課題提出後、英単語・文法の修正はしていますか?
A. (藤下先生)S特進のクラスは、課題提出前に「ここはAとTheどちらですか」といった質問・確認をしに来ることが多いです。フェアじゃないような気もしますけど、応じてます。ですので提出時にはほぼ完璧な形で出してくる生徒が多いです。
私立コースは、ほとんど事前に質問には来ないです。実際に提出された英文を見ると、かなりミスが多かったので全部プリントアウトして赤を入れて返却します。また、生徒に使い方を覚えてもらうためにTeamsの課題ページでも訂正を入れて返却をしています。ですのでとても時間がかかるのが現状です。
トップアスリートクラスは、提出されたものを紙で訂正して返却をしますが、もう一度提出されるとなぜか全然違う回答が書かれてたり。それはもう訂正せず返却もしません。
A.(桑野先生)私はWordで提出してきたものをそのままWordでコメントを書いて返却する、というスタイルをとっています。
Q. スポーツクラスで不定詞の授業に8時間かけたとのことですが、1単元に対しとても時間をかけていらっしゃるという印象です。そのペースで目的とされている年間プログラムは終わる想定でしょうか。
A. (藤下先生)ちょっと頑張らないといけないですね。正直不定詞に時間をかけすぎたなと思っています。ですが【先生の説明を聞く→一緒に発音する→問題を解く→先生が褒めてくれたから書く→「なんかtoの後に動詞置いておけばいいみたい。」と覚えていく】この流れを6時間繰り返した後の2時間のパフォーマンス(インタビュー課題)の輝きはすごかったです。原稿を作るのも楽しそうだし、その原稿に私が修正を入れる際も行列ができてました。
不定詞の知識・技能を身につけたかどうかは、正直なんとも言えませんが「英語を使って人生をより良くしていく」という目標には沿った授業ができたと思っています。
まとめ
(桑野先生)今回の唸りポイントは、学習者として:英語を使用する楽しみを体験した印象でした。
指導者として:学習指導要領が示す資質の三つの柱を軸に授業を展開する上で、特徴に合わせて比重を調整しながら実施することで、生徒にどうなって欲しいのかを認識し、生徒が何に興味を持っているかに注目した授業の実践を知ることができました。
研究者として:相互文化的能力もしっかりと授業に組み込んでいただき、実際に私が理論を紹介し始めたのがここ2、3年ですので、それを踏まえた意見も聞けたと思います。
私たちは「世界平和のために世界市民としての土台を作りたい。」この一心で英語教育に臨んでいます。中央教育審議会の答申では、卒業直後の進路状況の結果は、外的な要因に影響を受けやすいとして、キャリア教育の活動の成果を測る指標としては不十分であると既に言われています。
また世界市民として、自分の姿勢に関して批判的でありながらも、他者と責任を持ってやりとりをし、理解しようとする対話的で複合的な理解を常に持つ人であってほしいです。
Byramは目的、教育的それぞれの理由によって、言語教育は言語能力と文化的能力の両方を授業の中で指導していかないといけないと述べています。リンガフランカ(共通語)のように英語を話せたとしても、お互いに100%正確な意味を交換することはできないのです。
3回にわたって英語力向上プロジェクト、第26回研究会も含めて今回のオンラインセミナーを開催しました。これがきっかけで今までにはなかった繋がり、縁ができております。福岡にいなくても大丈夫ですので、本プロジェクトにご興味のある方は、こちらまでご連絡いただけると嬉しいです。
ありがとうございました。