グローバル教育担当者必見!研修旅行だけじゃない。学校独自の国際教育 トップ校の実践例
最終更新日:2023年9月25日
【サマリー】研修旅行だけじゃない。学校独自の国際教育 トップ校の実践例
学校のグローバル度が重視されるこの時代、皆さんの学校でも海外研修などで生徒が異文化に触れる機会を準備していることと思います。
しかし、通り一遍の語学研修ではなく、より多くの生徒に対して国際的な資産を身に付ける方法はないのでしょうか。
今回は、そんなグローバル教育のお悩みを持つ先生方のために、国際教育トップ校の国際部長3名にお集まりいただきました。
3校の先生方は、時には連携しつつ、それぞれ独自性のある国際教育を実践しておられます。それらを先端事例として、国際教育の本質を考えます。また、クロストークでは、事例の裏事情も大公開いたします!年度初めに新しい視点や手法を知ることで、これからの授業や国際教育をより豊かなものにしていきましょう!
もくじ
【1】実践事例
①巣鴨中学校・巣鴨高等学校(岡田英雅先生)
②鷗友学園女子中学高等学校(村田祐子先生)
③市川中学校・市川高等学校(山本永年先生)
【2】クロストーク
【3】アンケートQ&A
【1】実践事例
①巣鴨中学校・巣鴨高等学校(岡田英雅先生)
国際教育の本質とは?
教育の目的の1つに、家庭から教育を切り離して学校教育を受けさせることにより、どんな家庭環境の子も就きたい職業に就き、社会のさまざまな分野で活躍できる力を付けてあげる、「ソーシャルモビリティの獲得」というのがあります。
世界が身近になってきた今の時代、子供たちに必要なのは、国境を越えて幸せになる力=「グローバルモビリティ」の獲得へと変化してきています。
「グローバルモビリティ」とは、思いやり、気遣い、 教養、忍耐力など、世界のどんな場所でもずっと皆が大事にしてきた力です。そういう力を子供たちにしっかり付けてあげることがグローバルモビリティの獲得につながると考えています。
そのために中高6年間で必要な英語教育とは何か? まずは、英語4技能を高く積み上げたくなる動機付けです。もっとしゃべってみたい、もっと素晴らしい文章を読んでみたい、あの人とやり取りしてみたい、この動機付けができた後、それを可能にする土台作りとして語彙力と文法力が基礎となります。
学校で行う1,000時間程度の語学教育で、ネイティブスピーカーが何万時間もかけて得る能力を達成するのは不可能です。だからこそ、基礎を身に付けてあげて、その基礎をもとに生徒たちが自分で4技能を高めていけるような指導を心がけています。
国際教育と言うと、何か特別な研修をイメージする方もいますが、グローバルモビリティが普段の学校の学びの中にあれば、部活動や生徒会活動をはじめ、全ての活動が国際教育になり得ます。そのことを生徒自身、そして教員自身が理解して生徒たちに伝えていくことが大切です。
【実践例】
イギリスでNo.1と言われているイートンカレッジのサマースクールプログラムに参加しました。
すごくきらびやかな印象で、最初はみんなそこ引かれます。しかし生徒たちが一番感動するのは「人」です。教養があり、面白く優しくて、やるときはやるんです。
こういう人との触れ合いが子供たちをすごく成長させることに気づいたので、日本でも実施すべく、巣鴨のサマースクールを始めました。
人としての魅力を伝えるため「モチベーションカーブレッスン」という授業を行いました。
生徒たちは「先生方は素晴らしい経歴の持ち主だ! スーパーエリートだ! 失敗なんかしない!」と思っています。ところが、この先生方が自分の失敗をことごとく語り、そこからどうやって学んで成長したかを伝えます。
すると生徒たちは、人間の強さ、失敗をどのように人生の糧にするのかを学び、 人としての魅力を感じるようになります。
この授業で生徒がどんな風に変わるのか、昨年のサマースクールに参加した生徒の感想文をご紹介します。実はこの生徒自身はあまり参加したくなかったのですが、母親に言われて参加しました。
実際、彼はイギリスに留学しました。留学時の英検は準2級です。今はオックスフォード、ケンブリッジを目指して本気で勉強していて、英語力はもう少しで追いつきそうです。プログラムによってそのくらい子供たちは変わるということを目撃してきました。
そのプログラムを、今度は日本の学校の先生全体で作っていこう! と始まったのが「Double Helix」です。
本当に素晴らしい経歴をお持ちのイギリスの先生方が、理念に共感して参加してくださっています。
オンラインで実施してうまく行ったので、今度は対面で、医師を目指す生徒たちのプログラムを作りました。このプログラムは、村田先生、山本先生にも、イギリスの先生方にアドバイスをしたり、次に向けてどうしたら良いかを反省会で共有したりと、いろいろな形で手伝っていただいています。
②鷗友学園女子中学高等学校(村田祐子先生)
本校は1935年の創立当初から英語教育を重視しており、英語科教員は時代にあった英語教育を試行錯誤してきました。2004年にはオールイングリッシュの授業を開始しました。英語を使ってコミュニケーションできる力を身に付けさせるため、多読と組み合わせて、英語を使うことを怖がらないよう意識して、現在まで授業を展開しています。
この英語の授業が土台となって本校の国際理解教育プログラムが考えられています。
国際教育プログラムとは?
英語を学び直すのではなく、英語を使って何かに取り組み、自分の成長を促したり、自分の世界を広げたり、刺激したりするプログラムにしています。
私は英語科ではなく世界史の教員なので、英語教育も国際理解教育もド素人です。「英語、どうしよう…」と思っている生徒の気持ちが分かるので、きっとこれならワクワクするな、と思うプログラムに片っ端から飛び付いている感じです。それは普段の授業でも同じで、昨年、「推しの海外アーティストのSNSに英語で絶対書き込むんだ」という意識を持って1年間英語を頑張った生徒がいて、すごく伸びました。英語学習の前に、まず英語を使って何がしたいか、自分の興味のあることは何か、を見つけることが重要だと思います。
【実践例】
海外での研修は4種類を実施しています。まずアメリカのプレップスクール(*大学進学のための準備校)チョート校が行っている「チョートサマープログラム」に参加しています。
またイエール大学研修では、いろいろなセッションを行います。非英語圏の学生と共に英語の授業に参加しつつ、本校独自のセッションを加えて、現地の大学生と少人数のディスカッションを行います。2023年度はフォーダム大学で実施しました。
チェルトナムレディースカレッジのサマースクールでは、その日1日あったことを振り返るリフレクションの時間を大事にしており、生徒たちの評判はとても良いです。
さらに、韓国のハナ高校主催の国際シンポジウムにも参加しています。
コロナ禍でも、ハナ高校のシンポジウム、チョート校のサマープログラムはオンラインで継続できました。
そしてイエール大学でやっていたようなプログラムもオンラインで行えないかと始めたのが「Kプロジェクト」です。鷗友学園の「鷗」から、カモメの「K」を取りました。
アメリカの大学生と、現在抱えている問題について解決策を提案していく形式で、ネイティブの先生からディベートの手法を学ぶディベートワークショップも行いました。
これに加え、岡田先生のお話にあった「Double Helix」に誘っていただきました。
このプログラムは、生徒たちの先生方に対する尊敬の念と成長度がものすごく、私自身も刺激を受けています。
参加した1人の生徒は、かなり慎重派の子でしたが、モチベーションカーブレッスンに大変刺激を受け、その後は英語の授業での発言がとても増えました。いろいろな先生方の人間性に触れて、自分もチャレンジしないともったいないという気持ちになったそうです。
本校では、とにかく生徒の何かを刺激するようなプログラムを用意したいと思っています。それが教員にも刺激となります。
プログラムに参加した生徒について、英語科の先生から「この前のプログラムで、この子、何か変わりましたか」と聞かれることがあります。明らかに授業への取り組み方が変わるそうです。それに教員も刺激され、もっと面白い授業にしようとします。すると学校全体もそれに刺激を受けます。昨年2022年度は中学2年の歴史の授業で英語とコラボした授業も行いました。学校全体でこのプログラムを支えてくれていることも、私が取り組みやすい環境だったと思います。
③市川中学校・市川高等学校(山本永年先生)
本校は80年以上前に、イギリスのパブリックスクールを見た創立者が、こういう学校を作りたいと思い、小さな校舎から始まった学校です。そういう意味で、本校と国際教育とは切っても切り離せない深いつながりがあります。
本校は国際教育を実施するにあたって、 3つのことを意識しています。
①参加者の安全を何よりも優先すること。場合によっては一部内容を変更したり、中止したりすることも生徒の安全のためには辞さない覚悟です。
②英語を学ぶ のではなく、英語で学ぶこと。あくまで英語が道具なわけで、プログラムの中身の方が重要なのです。
③プログラムのサポートをしてくれる企業や団体に任せきりにしないこと。生徒のことを知っているのはやはりその学校の教員なので、プログラム内容について、私たち教員が担うべきです。ただパッケージを渡すだけでは、 国際教育ではなく、海外旅行と言われても仕方がないと思います。
【実践例】
今年度はアメリカのボストン・ダートマスでの研修や、ニュージーランド、シンガポール、そしてSSH校としての活動でタイの生徒との交流などがあります。また「トビタテ!留学JAPAN」という文科省のプログラムのサポートのもと、40名以上がこれまでに海外で学ぶ機会を得ています。そういうプログラムを紹介することも私たちにできるサポートの1つだと思います。
国内では、Global Studies Program、そして高大連携プログラムに参加しています。
そして、先程から出ている「Double Helix」は、オンライン、医療に加え、この夏、鷗友学園の村田先生とタッグを組んでチャレンジします。そういう「やってみたい」という思いをサポートしてくれるのが岡田先生、という面白い関係が成り立っています。
<市川中学校市川高等学校×鴎友学園 Double Helix>
2023年8月、計画していたプログラムが実現しました!
【2】クロストーク
①海外・国内研修、事前事後にやることは?
(村田)事前指導は、基本的には行先のところを生徒自身にとにかく調べてもらいます。事後は、主に学園祭で発表してもらっています。向こうでどんなことを学んだのか、自分がどういう風に成長したのかということをプレゼンする生徒と、紙レポートにまとめる生徒に分担してもらっています。
(松山)山本先生はいかがでしょうか。
(山本)国内であれ海外であれ、どのプログラムも、その研修で始まって研修で終わるわけではないと思います。村田先生が仰ったように、研修期間だけでなく、年間を通してのプログラムにすることがやはり意味があることだと思います。事前に関しては、そこに訪れた時に何を見てきたいのか、自分の課題をしっかり持って行くようにしています。事後は、リフレクションをすることです。行ってみてどうだったのか、記憶の新しいうちに集まってこのプログラムで学んだことは何か、自分はどんな成長をしたのか、次にどんなことをしていきたいのかと考えると、2週間の海外プログラムでも、実はそれは一生続くものになります。
(松山)岡田先生、いかがでしょうか。
(岡田)うちが事後にすごく気にしているのは、生徒の実際の生活がどれくらい変わったのかというところです。感想文は、大人を喜ばせようとしたり、自分で経験を美化しようとしたりする部分もあると思います。一方、行動はうそをつけないので、子供たちがどう変わっていくのかをしばらく見ていると、プログラムの良し悪しが分かってくるかなと思います。
(松山)ではお時間の関係で③授業・生活内で行う国際教育に移りたいと思います。
研修に参加して広い世界を見てきた生徒には行動の変化が起きると思いますが、参加できなかった生徒をどうインスパイアしていくのか、岡田先生、いかがでしょうか。
(岡田)言うのは簡単ですが、やはり実践するのは難しいです。例えば、去年の巣鴨のサマースクールでイギリスの先生方と話した話題(憲法9条、少子化問題、台湾有事、ウクライナ戦争、安倍首相の暗殺など)をまず日本語でちゃんと考えたり答えたりできなければ、英語がどんなに流ちょうでもダメだと話します。そうすると生徒は、社会の問題や他のいろいろな授業が理解できなければダメなんだと気付いてくれます。それを他の教員と共有することがすごく大事だと思うんですが、実際はすごく難しいです。
普段やっていることが、国際教育で何よりも大事なんだよというメッセージを発し続けて、それができる先生が多いほど、本当の意味で「国際」と名がつくような学校になっていくのではないかと思います。
(山本)普段の授業は、教員がそれぞれの専門分野でアンテナを張って世界に目を向けていれば、それ自体が国際教育になっていると思います。
あと例えば、自分が読んだ面白い洋書を「これ読んだけど面白かったよ」と授業の時に持って行ったら、何人かの子が次の日に「先生、買ったよ」と言って持って来たんです。教科書よりはるかに難しくても、読むに値するとなればやはりチャレンジしたいと思うので、1つの仕掛けとしてありだなと感じました。
今はICTが普及してるのでオンラインを活用するのも手だと思います。例えば、何年か前からいろいろな大学がオンラインのコースを出すようになりました。無料のものもたくさんあります。プラットフォームもいろいろあって、レベル感もさまざまなので、 こういうところで下地を作っておくのも、1つ前向きな考え方だと思います。
確かに全ての中高生が海外に行けるわけではないですが、できることを考えれば、意外と方法はあります。
その子が自分で選んで自分でやりたいとエンジンが掛かれば、そこからの馬力はすごいものがあるので、私立に限らず公立でも、英語を学びたい子が何をやろうかとなったときに、こういうのを紹介してあげるだけで、もしかしたらチャレンジして将来につなげていく子がいるかもしれません。学校種の枠を超えて、何を子供たちにできるだろうか、将来子供たちが自分たちで仲間を作って、チームを作って走っていけるためのものは何だろうかというのを考えるために、やはり私たち教員のチームは不可欠なんだと思います。
【3】アンケートQ&A
Q.海外研修や国際理解教育を充実させたいが、他の教員から負担が増えると反対されることもある。同僚との合意形成をする上で大切なこと、注意するべきことを聞きたい。また、どのようにコンセンサスを取ってきたか。
(山本)確かに働き方は大事ですが、チャレンジしないと学校として進歩もないですし、そういう文化の中で生徒を育てるのは危険なことだと思います。全員がやりたいわけではないかもしれないけど、興味を持っている先生もきっといると思うので、そういう人を巻き込んで、自分たちにできる範囲でまずやってみる、そして間接的にそれを見る先生方が「やっぱりやってみようかな」となるように。時間がかかることですが、まずは自分が中心となってやる! という気持ちで、仲間を見つけてやっていくことが大事かなと思います。
Q.先生方をイギリスから連れてくる場合の予算はすんなり学校から出ましたか
(岡田)まず最初にイギリス人講師の報酬を妥当な金額で設定します。この講師の方々はお金ではなく、まず理念ありきです。「こういうプログラムになるべく多くの生徒を参加させたくて、頭割りで考えると講師の報酬はこのぐらいしか払えないけど良いですか」と話し合います。それで互いに合意して費用合計が出たら、その金額を頭割りして生徒の参加費にします。
航空券代などを送るために最初は学校から出しますが、結局は生徒の参加費で全部回収できるので、学校負担はゼロです。
Q.英語が苦手な生徒が多いが、学校での国際交流活動にはどのようなものがありますか
(村田)うちは帰国子女入試をしていないので、本当に全く英語ができない子や、小学校の時に英語が大嫌いだったという子が来ます。その子たちが中1で英語が大好きに変わるんです。オールイングリッシュの授業ですが、先生方が絵本を使ったり、身ぶり手ぶりで楽しそうにやっている姿が魅力的で、生徒も楽しいようです。しゃべれない生徒に対しても、先生たちが本当に一生懸命に向き合って、笑顔で励ますので、「怖くないんだ。とりあえず何か言ってみよう」となります。そこから、もっとやりたい、もっとしゃべりたいと頑張るように、後押しをしていく感じです。
構成:松山まりな/記事作成:渡邉由佳理