日本にいながら世界のスーパーエリートから講義を受けられる―Double Helix(後編)
最終更新日:2024年2月14日
2023年7月に巣鴨中学校・高等学校で開催されたDHのレポートやDHの概要はこちら
学校の垣根を超えて私立中高の先生方が企画しているDouble Helix(ダブル・ヒーリックス)(以下DH)。2023年8月に市川学園にて5日間のプログラムが開催され、首都圏の6校(市川中学校・高等学校、鷗友学園女子中学高等学校、駒場東邦中学校・高等学校、南山高等学校・中学校女子部、巣鴨中学校高等学校、洗足学園中学高等学校)から生徒が参加しました。
国際教育ナビ編集部はプログラムの最終日に伺い、イベントを企画したダイレクターである鷗友学園の村田祐子先生と市川学園の山本永年先生に取材させていただきました。
「授業は受け身でよい」意識を払拭できた
———今回の企画で工夫されたことがあればお伺いできますでしょうか
(村田)いくつかあります。
先日巣鴨中高で開催されたDHは、医療分野に特化したものでしたが、今回は複数の分野の先生方にお越しいただきました。そのため、初日に全員の講師と参加者が会えるようにプログラムを組みました。
2つ目は、動画を撮って配信した点です。今回のプログラムは、構成上半分の講師の授業しか受けられないのです。しかし、他の分野の先生がどのようなことを講義していたか知りたい生徒もいると思い動画配信することにしました。体調不良で休んでしまったり、自分が受けた授業をもう一度振り返りたいときにも使えるよう、授業をすべて撮影し、終わり次第アップロードしました。
3つ目は、最終日にステージで何かを発表する形式ではなく、ポスターセッションにすることで生徒たちが発表する場面を増やしたことです。
———運営上で特にうまくいった部分があれば教えてください
臨機応変に対応できた点ですね。先生方も、授業内容はパッケージで持ってこられているものがあったんです。しかし、1回目のレッスンを終えてやはり2回目のレッスン内容を変えようとか、生徒に接し少し内容を変えようとか、工夫をしてくれました。
———最後に、イベントを通じての狙いが達成できたのか、 現在の所感をお伺いしたいです
(山本)今回のプログラムは、Post-Truth Era [Truth, Discovery, and Methodology]というテーマでした。そのなかで生徒に期待していたことは2つあります。
第一に、学びに関心を持っている6つの学校から集まった生徒たちの化学反応。第二に、世界的に活躍する先生方との出会いによって思考を深めた結果、学校生活に戻った際に同じ授業を受けても「高次の思考」ができるようになっていること。 「高次の思考」をするためには、どのように学ぶべきかを自分で考えながら授業を受けるというマインドセットが不可欠です。
結果としては期待以上でした。生徒たちがたくさん交流し、先生方への質問の量も尋常でなかったからです。プログラムが進むにつれ、質問のクオリティも自身の意見を踏まえたものに変化していきました。これは思考のレベルが一段階上がっているということなんですね。
最終的に、椅子に座ってさあ教えてくださいという「授業は受け身でいい」という意識を払拭できたのかなと思います。アンケート結果や生徒たちと話しているなかで確信したのは、イギリス・スペイン・日本の教員がチームとなって各校の子どもたちを育てる手伝いができたということです。このようなプログラムは日本中どこを探してもないものであり、この輪が広がっていくことを願うばかりです。
講師感想
今回のDHには、以下の講師陣が招かれました。
Mr. Charlie Jenkinson 教育学
Mr. Tristan Macleod 歴史学
Dr. Elisa Carrasco 生物学
Dr. Roshan Sreekumar BMBCh BA 医学
Dr. Samuel Jackson 統計学
Mr. Seb Cooley 物理学
5日間の感想を伺いました。
———今日が最終日ですが、初日と比べて生徒たちはどのように変わりましたか
(Mr. Macleod)生徒たちはこの5日間でとても自信がついたと感じます。初日は数人の生徒からしか質問がありませんでしたが、3日目、4日目になるとどんどん量が増えて休憩時間がなくなるほどでした。この5日間でいかに好奇心と自信を深めたかに気づき驚きました。
(Mr. Jenkinson)最初は当たり障りない質問で、具体的な知識を得るための質問でした。プログラムが終わりに近づくにつれ、私に意見を求めてきました。自分はこう思うがどう思うか?と。その質問自体もより洗練されたものになっていたと思います。
(Mr. Cooley)私たちが目の当たりにした彼らの明らかな変化は、自分が何を学ぶべきかを誰かに教えてもらわなくてよくなったことです。つまり、興味のあることを自分でいろいろ調べ考える力が身についたと思います。
(Mr. Jenkinson)私もそう思います。このプログラムは彼らが自分の目的を考えるのに役立ったのではないでしょうか。興味のあることを見つけて、一度その目的を持てば、それに基づいて行動する能力も身についたと思います。
(Dr.Sreekumar)生徒たちは、ひとつのことに興味を持ち始めると、他のことを学ぶための時間とリソースが明らかに減少するという重大なことに気づいたと思います。そこで、他の人と協力する必要性があることと、お互いから学ばなければならないことに気づいたはずです。生徒たちは、各々がそれぞれ一人で学習しているわけではありません。 彼らは自分自身の考えを個々に持つ必要はありますが、お互いに協力しなくてはいけないのです。
生徒感想
———今回なぜこのプログラムに参加しようと思ったのでしょうか
(Aさん)日本語でも英語でも、会話の能力を上げたいと思って参加しました。僕は男子校にいるのですが、とにかく男子校って閉鎖的で、知らない人と話す機会が欲しかったんです。いろいろな人と会話する、知らない人と会話するというのを目標にして来ました。
———この5日間プログラムを受けた感想を教えてください。
(Bさん)最初は他校の生徒は多いし英語もわからなくて緊張してしまって、先生に何も話しかけられませんでした。でも、英語ができなくてもいろいろやっていかないとこのプログラムに参加した意味がなくなると思ったんです。3日目あたりからは積極的にジェスチャーを使って発言するようにしました。そうすると自分の力でもある程度言いたいことが英語で伝わるんだなと実感できました。わからないなりにも、積極的に行動を起こせばなんとかなると知ることができてよかったなと思います。
(Cさん)2日目のチャーリー先生のモチベーションカーブレッスンが個人的には印象に残っています。「小さなことを積み重ねていく」という話と「あなたにできるベストをその日に尽くしなさい」という話です。その日から、自分のベストってなんだろうというものを考え始めたんです。毎日目標を立ててそれをこなすようにしました。1日15回くらい、先生からの質問に答えようという目標を立てたのですが、やはり難しかったですね。でも、自分が変わっていくのを感じられ、チャレンジしていること自体が楽しくなりました。
(Dさん)今回、僕は英語で自分の言いたいことを伝えられるようになるという目標で参加しました。初日は先生の言っていることを聞き取るだけで精一杯で、自分の意見を伝えるなんて夢のまた夢みたいな感じだったんです。でも、2日目以降は先生の話を聞き取るのもだいぶ慣れて、自分の意見も伝えられるようになって成長できたかなと思っています。
———初日と最終日とで自分が変わったなと思うところはありますか
(Aさん)自分の意見を話すときに、初日は絶対自分の意見が間違いないと思って言っていたのですが、最終日が近づくにつれていろいろな意見があるということに気づきました。みんなで話し合って結論を出すときも、 自分の意見を押し通すより、相手の意見を聞いた上で自分はこう思うんだよねという言い方に変わりました。
(Bさん)初対面の人でも積極的に話しかけるという姿勢が少しは身についたかなと思います。
(Cさん)失敗してもいいやと思って行動をおこせる勇気が身につきました。
(Dさん)僕は、今までの勉強では一方的にインプットするだけのタイプでした。でも、今回のDHを通して学んだ知識を使って会話をして、相手とさらに知識を深めることができるようになってよかったなと思いました。インプットだけじゃなくアウトプットもできるようになったと思います。
記事作成:大久保さやか/取材:浜田・松山