「シリーズ 英検活用 あの学校はどうしてる?!」張り巡らされた戦略が切り拓く英検合格への道
最終更新日:2024年2月2日
いま、英語外部検定(外検)利用入試が盛んになっています。一般受験では外検の級やスコアが英語試験の得点に換算されたり、学校推薦型選抜と総合型選抜では出願資格に指定されていたりと、今後ますます重要になっていくことが予想されています。ケンブリッジ英検、GTEC、TEAP、TOEFL、TOEICなど数ある外検のなかで、もっとも採用されている英検(実用英語技能検定)。そこで国際教育ナビでは「シリーズ 英検活用 あの学校はどうしてる?!」と題し、積極的に英検に取り組んでいる学校や先生方に取材を実施。学校内での位置づけや生徒への取り組ませ方、授業との関連づけや教員の関わり方など、各校の具体的なアプローチに迫ります!
#5の今回は、東京都の和洋九段女子中学校高等学校。創立120年以上の伝統校でありながら、近年、世界で活躍できる人材育成を目指し積極的な学校改革も進んでいます。改革序盤にグローバルクラスを開設、常勤のネイティブ教員も多い同校。英検対策は、放課後ではなく時間割に組み込んで実施されているそうです。「T.S(Test Strategies)」と名付けられた英検対策授業の詳細や教員間の連携について、英語科主任の王惠萍先生に伺いました。
世界を見据えた教育
―――まず、貴校のコース編成について教えていただけますか?
(王)「本科クラス」と「グローバルクラス」があります。本科クラスでは、生徒自ら考える問題提起(PBL)型の授業を徹底して、表現力・コミュニケーション力・思考力を高めます。
グローバルクラスは、英語力を上達させたい生徒に入学して貰い、一緒に高い目標を目指して頑張るクラスです。海外の大学進学も視野に入れ、段階を踏んで生活全般を英語にしていきます。
―――「グローバルクラス」は、学校改革の一環で開設されたそうですね。改革の概要を伺えますか?
(王)学校改革には、創立120周年を迎えた2017年から取り組んでいます。世界標準の教育を見据え、「21世紀の読み書きそろばん」ともいえる5項目「自分の頭で考える能力」「情報社会を生きるリテラシー」「実際に使える英語」「コミュニケーション能力」「科学的な視点のリテラシー」の力を育むことが目標です。PBL型のアクティブ・ラーニング(双方向対話型授業)を全教科で実践し、グローバルクラスでは徹底して英語に触れ合える環境をととのえています。
―――どのような英語環境なのですか?
(王)日常的にネイティブ教員や英語と接する毎日になります。アメリカ・オーストラリア・イングランド出身の計6名のネイティブ教員が常勤しています。担任は日本人、副担任はネイティブのペアです。ホームルームでは、まず日本人教員が日本語で連絡事項を伝え、ネイティブ教員が音声多重放送のように英語でもう1回伝えます。希望して部活動に参加し、生徒と一緒にテニスやミュージカルをしているネイティブ教員もいるほどで、とても身近な存在です。
英語の授業は、生徒の英語力によってアドバンストとインタ―ミディエイトに分かれて受けます。帰国子女やインターナショナルスクール卒など「英語で授業が受けられる生徒」はアドバンストになり、授業は All English です。インタ―ミディエイトでは、リーディングはネイティブ教員のみ、文法はネイティブ教員と日本人教員でのチームティーチングなので日本語でのフォローもあります。
―――学校全体のグローバル教育としてはどのようなものがございますか?
(王)グローバルクラスの生徒に限らず、希望者全員参加できる語学研修があり、毎年夏休みの16日間、オーストラリアの友好姉妹校へホームステイ語学研修に行きます。コロナ禍ではストップしていましたが、2023年度より再開しています。先方の生徒と教員も、2年ごとに本校へ訪問します。
国内外の大学入試に役立つ外部試験対策も手厚いです。私が英語科主任に就任した2017年、校長にお願いして大々的な英検対策を始めました。英検対策は放課後実施する学校も多いのですが、放課後は、正直教員も生徒も疲れ切っています。しっかり実績を出すためにも、全部署に協力を仰ぎ、すべての学年で時間割のなかに1コマ、英検対策授業を入れてもらいました。
英検準1級に合格すると入れる、TOEFLクラスもあります。英検は、中高生に向いていて、海外の大学入試で使えるところも増加傾向にあります。海外大学ではいままでTOEFLが主流でした。英検とTOEFLの2つがあると、国内外どちらでも対応できるので、TOEFLクラスを開設しています。
英検対策は基本も押さえつつ戦略的に
―――英検対策授業は、どのようにクラス分けされるのですか?
(王)英検クラスは、学年ごと・級ごとに設置します。入学前にプリントで取得級を調査して、まずは取得済みの級の上位級のクラスに入ります。中1での設置は基本的に、5級・4級・3級・準2級・2級・準1級の計6クラスです。級ごとの該当者が少数の場合は、準1級と2級クラスのように隣接する級と合併して対応します。
―――英検受験やクラスの進級はどのようなスケジュールで進むのですか?
(王)英検の従来型試験は、年に3回、大体学期ごとの開催です。本校では、1学期(第1回受験)の結果で2学期からのクラスを変更します。1次試験に合格したら次のクラスに進級する形です。進級は、本人にも周囲にも良い刺激になるようです。
第1回と第2回の受験は希望制、第3回は全員受験です。また、第1回と第3回は校内で実施しています。第1回は年度の初めに受験することで「この1年、英検を頑張っていくぞ」という動機づけを行い、第3回は「1年間、頑張ってきた集大成」となるようにしています。生徒のモチベーション向上の仕掛けにもなっています。
―――英検対策授業の具体的な内容を教えてください。
(王)教材は、単語帳に『キクタン英検シリーズ』(アルク)、『英検でる順パス単 シリーズ』(旺文社)、問題集に『英検パスコース』(文理)を使用しています。
授業は、毎回最初の10分間は、単語の小テストです。その後、前回授業時に宿題として渡しておいた問題集の内容について、一緒に答え合わせをします。
この単語テストのデータは、英検対策を始めた当初に事前準備として、ネイティブの教員も含め、英語科のメンバーで分担して作りました。
―――授業名「T.S(Test Strategies)」が印象的です。戦略的な授業なのでしょうか。
(王)英検対策授業の名称は、中学では「英検対策授業」、高校では「T.S(Test Strategies)」です。どのテストでも、実力があれば合格できるとは限らず、テクニックやコツも必要です。英検にも得点を上げるコツがありますが、単純に模範解答を配布するだけでは生徒たちは気付けません。
例えば、準1級の面接で出題される4コマ漫画のストーリー説明では、コマを進む際や状況を説明するために、ある程度定型化された「つなぎの言葉」が必要となります。そして述べる時はすべて、過去形か過去進行形を使うのです。そのようなコツをテンプレート化して指導しています。
ベースは、私自身が英検1級を受験して合格した時に使った自作のテンプレートです。1級のテンプレートを段々レベルダウンして、準1級用と2級用のテンプレートを作りました。こうして大きな枠組み(骨)は教員から提示しているので、生徒はそのなかに内容(肉)を入れるだけです。要領が良い生徒は、例えばエッセイライティングでは、何も考えずに “Some people insist that” で始めて、自分の観点と逆の観点を書きます。その後、“However” として自分の意見を書くことができます。先日のテスト結果を見ると、16点中の13点も得点することができて、全体的にエッセイライティングのスコアが高かったんです、とても嬉しいですね。
随時連携し合える教員関係
―――英検導入準備を分担されていて、多国籍の教員間でも連携がスムーズなのですね。
(王)週1回の教科会の場で、日ごろから各自ノウハウの共有や相談をしていて、とても風通しの良い雰囲気です。英検対策授業を作る時も、英語科で何度も打合せて知恵を出し合って、最初から良いシステムができたんです。
オンラインでの共有の場もあります。Zoomで英語科のメンバー全員のチャットグループを作っていて、何か良い情報を貰った時はそこでシェアしています。例えば外部の研修会に参加した教員がいたら、PDF化された資料を全員に共有します。私が作ったテンプレートもそのグループに送信するので、生徒は自分の担当教員からそれを受け取れます。
担当教科を越えた連携もスムーズです。コロナ禍の2020年、すぐにZoomの使い方研修が行われ、1回目の緊急事態宣言が発出された4月7日直後の4月13日からZoom授業が開始されました。とても印象に残っています。
数字には現れない魅力がある学校
―――教員がICT活用できていると、効率化がどんどん進みそうですね!
和洋九段は「意外と」良い学校なのですよ(笑)。いままで非常勤として何校も経験し、本校に定着した教員が先日話していました。本校は、教科書も英語科の教員間のやり取りも、何でも英語なところが良い、と。国際資格のTESOLも持っていて、教員の英語のレベルが高いと驚いていました。
また、全力で生徒を応援をする校風です。例えば、高3で英検1級、難関大学合格確実! といった生徒が美大を志望していれば、本校の教員は応援します。生徒募集という観点から見れば、難関大学の合格者数増加は望ましいのでしょうが、彼女の人生は彼女のものです。生徒が幸せに生きるための選択を尊重したいと考えています。もしかしたら進学実績という面で受験生には魅力的に映らないかもしれませんが、でも本校の魅力はそこではありません。それは職員や生徒は分かっていると思います。毎年の文化祭などの機会には大勢の卒業生が遊びに来て「和洋九段は良い学校でした」と言ってくれることにも表れていると思います。
―――創設者、堀越千代さんの「自立して生きていける人材育成」という精神が引き継がれているような校風ですね。先生は生徒の育成についてどのようにお考えでしょうか?
(王)「新しい学びを始めると、新しい世界があなたの目の前に広がってくる」ことを伝えたいです。
私はいまでは3か国語を話せますが、日本語を学び始めた頃、教員に言われたこの言葉をいまでも覚えています。英語というツールがないと、何かやろうとした時に困ることがあるのです。世界中の有名な論文はすべて英語で発表されます。当分英語は必要です。
英語の仕事はしないから学ぶ必要はないと思っていても、仕事のなかで急に英語の必要に迫られることもあります。国際化を進めた当時の教頭は、手続きに英語が必要になりましたが、まったく想定外だったと話していました。
英語ができれば、将来自分の子どもの未来を広げることにもなります。例えば先日留学の資料配布をしましたが、英語の手続き書類があります。生徒1人ではまだ難しいので、保護者の補助が必要です。その時、「英語が分からないから」と手続きしないわけにはいきませんよね。
―――学校改革も先生のお考えも、貴校の校訓の「先を見てととのえる」に通じる気がしますね。伝統が未来を見据えた改革や教員の考え方にも繫がっていて、進学実績や表面的な評価だけでは分からなかった魅力を感じました。ありがとうございました。
取材・構成:小林慧子/記事作成:松本亜紀
「シリーズ英検活用 あの学校はどうしてる?!」
#01:あえて通常授業に組み込まない 1800人のエネルギーを英検に集中させる手法とは
#02:英検の全員受験で英語力を強化!学校一丸となって取り組む『英検まつり』の仕組みとは?
#03:“英検全員受験”という環境が生徒と家庭をワンチームとし、生徒の英語力を高めていく。
#04:国公立志望でも英検は有用! / 和歌山信愛中学校・高等学校
#05:張り巡らされた戦略が切り拓く英検合格への道