CLIL 内容言語統合型学習 第1~3巻
最終更新日:2022年8月25日
- おすすめしたプロフェッショナル
-
白井 龍馬 / 久留米工業高等専門学校
CLIL 内容言語統合型学習 上智大学外国語教育の新たなる挑戦 第1巻 原理と方法
SUP上智大学出版
- おすすめのポイント
-
Q.良かったところ
もともとCLILはヨーロッパの教育方法であるので、そのまま日本の教育に導入する際には多少の工夫が必要である。「では、どのような工夫が必要か」といったところまで、実際にヨーロッパでのCLIL授業を見てこられた著者の先生方が、双方の実情を踏まえた上で、提示された理論や実践例が掲載されている。そのため、表面的な理解に留まらず、CLILの本質理解と日本教育に合わせた実践方法を導き出せるテキストであった。
本書を参考にすると、さまざまな工夫を得ることができ、授業の流れの考案に大変役に立った。生徒たちも、インプット中心の学習に比べ、アウトプット並行型の学習により、スピーキングの伸びが顕著であった。特に、英語で考え、英語で連想できるようになったため、瞬時の判断が必要なスピーキング力が着実についてきているのが実感できた。その成果か、英語検定についてもCLIL実施前実施後で合格率が大きく変わっており、生徒たちの満足度も高い。
Q.困ったところや改善してほしいところ
初めは英語での学習ということで生徒たちは圧倒されているが、適切な学習支援や、学習内容のauthenticityに配慮することでその抵抗感は十分にカバーできる。
Q.導入の経緯や、本教材採用の意図と狙い
-
問題/課題:
CLILとは:英語を通じて、何かのテーマや教科・科目を学習をするという学習形態のこと。
【CLIL授業を始めたきっかけ】
経済学部の一部の科目で、英語で経済を学ぶという経験をしてきて、その楽しさを感じていた。そこで、英語教育に携わる際、「社会につながる英語」、「視野を広げる英語」を意識した教育実践を心がけているというのが、一つCLIL授業に興味を持ったきっかけである。
また、本校では中学校3年生は全員ニュージーランドの姉妹校に行き、授業を体験する。しかし、英語で授業を受けるというのは、生徒たちにとって初体験になり、その機会を十分に活かせていないという実態があった。少しでも「分かった」という手ごたえがあれば、「留学してみたい」「積極的に学びたい」という気持ちにつながるかと感じ、その橋渡しをしたいと思い、CLIL授業の実践に踏み出した。
自分がCLILに興味を持った時に、「どういう風に指導したらよいのか」「評価はどうしたらよいのか」「どのように他の指導法と区別したらよいのか」など、全般的に学びたいと思った。そこで、理論的なことだけでなく、実践面や評価面についても記載されている、実践に活かせる内容が盛り込まれている本書が魅力的であった。
国際教養系の大学や学部が多く設立されている中で、英語で授業を進めるCLIL授業は世の中の流れに合っていると実感している。
-
状況(クラスの人数やレベル):
現在は、中学3年、高校1、2年のクラスでCLIL授業を実践している。CLIL授業は英語をベースに学習するため、中学校1,2年の文法知識内容がある程度定着していると、より充実した学習ができると考えている。
-
他の類似教材ではなくなぜこれか:
実践・理論・教材についても、全てにおいて、多角的に深く書かれている点が魅力的であった。授業実践に関する理論だけではなく、学習評価についても理論的にまとめられており、この点が魅力的であった。
Q.実際の使い方
-
本教材の構成
【第一巻:理論】
第一巻では、「4つのC」(Content=内容、Communication=言語、Cognition=思考、Community=協学)を柱とした、 語学教育を分かりやすく展開している。
【第二巻:実践】
実践と応用に焦点を当て、実際の工夫や苦労が盛り込まれている。
【第三巻:授業と教材】
「CLIL活用の新コンセプトと新ツール」「CLIL授業の教案作成と授業運び」「CLIL教材の作成例」「上智大学のCLILプログラム」「CLILにおける学習評価の理論と実践」の5章で構成されており、実際に使用できるワークシートも掲載されている。掲載されているワークシートを、実態に合わせて加工などして利用している。
-
授業の進め方
本書自体はテキストではないため、この本をつかって各教員がCLIL授業の展開を考えていくことになる。一つのテーマの授業は、それぞれ2~3か月で完了するものにもできるし、2~3時間で完了できる授業にすることもできる。
本校ではCLILの授業と通常の英語の授業は分けて実施しているが、相乗効果があるため、授業の中に組み込むことも可能である。
CLIL授業は、ある特定のトピックを英語を用いて学習するスタイルの授業である。
CLIL授業は、「学習内容のauthenticity」(=「え、意外!」「知らなかった!」という思いを引き出し、学習内容に対して意欲を高めるような内容など)を重要視する。
例えば、「リサイクルについて」であれば、「リサイクル」自体は生徒みんな知っているため、authenticityの確保は難しいが、「アップサイクル*」という「リサイクル」の上位概念を軸にして授業を作り上げてみる。
(*「リサイクル」はペットボトルを再利用してペットボトルを作るが、「アップサイクル」はペットボトルを再利用して高付加価値のものを作り上げるもののこと)
本書を参考に「読んで、聞いて、書いて、考えて話す」といった4技能は必ず入れ込み、その中にauthenticな学習内容を組み込む工夫を凝らした授業計画を作り上げることができる。一旦本書で理論を咀嚼したら、授業構成も大変しやすくなった。
Q.使ってみた結果
生徒たち自身に修学旅行をより充実してほしい、と思って実践してきたが、実際ニュージーランドで学んできたことを発表して、質問してもらい、答えることができるようになった生徒もおり、いい学習経験ができていたことが、嬉しかった。
生徒たちもこれだけいろいろな活動をしているため、スピ―キングの伸びが顕著であった。英語検定ではスピーキングで不合格になってしまう生徒が多かったが、それがあまり見られなくなった。CLIL授業を始める1年前から英語検定2級の合格率が20%伸びたことが客観的に分かる成長として挙げられる。
これは英語で学ぶことで「スキーマ(構造化された知識の集合体)」が活性化したからだと考えられる。
例えば、食べ物に対する社会問題といったら、大人は「フードロス」・「フードマイレッジ」などを連想できるのだが、それをCLIL授業をする以前の生徒はすぐに連想することができない。そこで、英語で学び考えることで、連想できるようになる。即座に連想できるということは特にスピーキングの成長を促したのだと実感している。
Q.利用が向いているクラスや生徒
小学校から大学までいろいろな実践例が載っており、、それぞれの実態に合わせて利用できるような内容となっているので、幅広い層に利用できる。
Q.あまり合わないと思うクラスや生徒
現行の大学入試(一般入試)目前の生徒たちには、導入の頻度を考えたほうがよいかもしれない。
当然英語学習という意味では最終的には通じるものがあるが、大学入試に直接的に効率よくつながるものではないため、利用方法やタイミングも実態に合わせたほうがよい。
現行の検定教科書の中でも中学1年生でもCLILが最後のほうに出てくるため、中学1年生の初めには、まだ英語自体の学習が初期段階すぎて、難しいと思われる。検定教科書においても中学2年生以降はたくさんのCLILのタスクが掲載されているため、中学1年生以降であれば十分取り組める内容の実践例が掲載されている。
-
CLIL 内容言語統合型学習 上智大学外国語教育の新たなる挑戦 第2巻 実践と応用
SUP上智大学出版
CLIL 内容言語統合型学習 上智大学外国語教育の新たなる挑戦 第3巻 授業と教材
SUP上智大学出版
- 白井 龍馬
- 久留米工業高等専門学校