自然と目にすることで単語を覚えられる ~自作プリントで英語嫌いを克服!英単語指導法~

最終更新日:2023年9月28日

1.授業概要: 授業の対象者、人数、目的

 学年のクラス数は平均15クラスで、1クラスにおよそ32~40名程度が在籍。卒業後、就職を目指す生徒から国公立・難関私大を目指す生徒まで幅広く在籍しています。また、本校では「文武両道」を大切にしており、部活動や自主活動(学校行事)もたいへん盛んです。

 しかしその一方で、学習時間の確保や効率的に成績を上げていくことに悩む生徒も少なくありません。英語に関して言えば、中学時代から苦手意識を持ち続けている生徒も多くいます。英語科の教員としては、まず基本的な英語力の柱となる「単語力」を身に付けさせ、少しでも英語学習への自信や達成感を提供してあげたいと考えてきました。

 

2.課題意識: どのような課題を乗り越えたいと思ったか。また、課題解決のポイントがどこにあると考えたか

 英語が苦手な生徒、英語学習に慣れていない生徒にとって、単語を覚えることは簡単ではありません。単語帳を全員に購入させ「覚えてきてね」と伝えても、そのアプローチで実際に何割の生徒が単語帳を使いこなすことができるでしょうか。赴任当初、全く使い込まれていないピカピカの単語帳を持っている生徒が何人もいるのを目にし、「これはいけない」と強く感じました。現在では、ボロボロの単語帳で勉強する生徒の姿もよく見られるようになっています。英語が苦手な生徒に必要なのは、まずは「知っている単語を増やす」というとてもシンプルなことなのではないかと考えます。

 また、「忘却曲線」に則った指導も意識しています。やみくもに暗記をさせるのではなく「生徒に少しでも楽に単語を覚えさせてあげたい」からです。単語は、目にする回数が多いほど定着します。その考えをベースに、1回でも多く複数の単語を目にするような仕掛けを込めた自作プリントを用意しました。詳しくは後ほどの【4】【5】の項目で記載していきます。

 

3.授業設計方法とポイント: 学期における構成、必要に応じて学生等からの取得情報や他教員・教科との連携

 単語帳『ターゲット1900』を高1で全員が購入し、高3まで使用しています。単語1900個を100ずつに分け、考査ごとに100の単語を覚えていけるようなペースで指導しています(特進コースは200~400に設定する場合もあり)。基本的には家庭学習用教材として、「1枚に100の単語が書かれているプリント」を週に1枚生徒へ配っています。

 

4.授業準備とポイント: 準備するテキスト、ITツール等

 単語帳を購入させるだけでは、生徒の単語力を伸ばすことは難しい。そこで、取っ掛かりとして使える家庭学習用のプリントを自作し、生徒たちに配るようになりました。このA3サイズのプリントには100の英単語(動詞、名詞、形容詞のグループ順・ざっくりアルファベット順)と、100個の日本語訳(こちらも動詞、名詞、形容詞のグループ順)がランダムに掲載されています。無意味な丸暗記を防ぐために、少しずつ日本語訳の順番を変化させたvol.1から5までの5パターンを用意しています。

 自作プリントは以下の通りです。

※単語の引用元:旺文社『英単語ターゲット1900』
※こちらはプリントの一部分です。以下のURLより全体をダウンロード可。
 
自作プリント全体(PDF)

 

5.授業実施とポイント: 授業の具体的な進め方、授業中の説明や求めたアウトプット

【自作プリントの活用方法】

プリントの下部、「注目」のところにプリント活用方法を記載しています。

【手順1】
語群(英・日ともに)を見渡して、すでに覚えている単語を「削除」する。
(例)hybrid  shelter  調査する;究明する(動) 知恵;学識(名)

【手順2】
残ったもの(=覚えきれていないもの)の中から、和訳に該当するものを、語群から選んで書き写す。

【手順3】
全部終わったら、『ターゲット1900』を見ながら答え合わせ&正解を書き込む(〇×だけでなく、必ず正解を記入させる)

 上記の全てを行うにあたり、生徒はプリントの内容を目で追いながら何度も何度も確認することになります。先ほど「単語は目にする回数が多いほど定着する」と述べましたが、プリント内に書かれている語群から「覚えたものを探す」、残った語を和訳から「探し、選び、書き写す」、さらに単語帳と言ったり来たりしながら「答え合わせをする」という一連のアクションを通じて、たった1枚のプリントではありますが、必然的にそれなりの回数を目にすることが可能になります。

 

【授業内でのペアワーク活用方法】

 本プリントは家庭学習用ですが、授業の中で頻繁に行うペアワーク(クイズ合戦)との相乗効果も狙っています。次の定期考査に向けて、少しでも時間ができればクイズ合戦を行います。「遊びながらやる」ぐらいのほうが心理的負荷がかかりにくく、よく覚えてくれると感じています。

①ペアを作らせる。対戦相手は誰でもOKだが、「同じ血液型の人」とか「同じマンガを好きな人」とか、適当なしばりをつけてやると盛り上がります。

②出題/解答は交互に1問ずつチェンジ。出題者は「和訳」を言い、解答者は「英単語」を言うように設定。

③最終的に多く正解できた者が勝ち。同点の場合はジャンケン。勝った方に平常点の「スタンプ」を1個進呈することがほとんどだが、あまり差が付き過ぎないようにほどほどにしている。

④よくあるパターンは「3分x3ラウンド」で、所要時間は15分弱。このパターンだと、3連敗した者に最後に「参加賞」という名目でスタンプ1個を進呈するのが定番。時間がないときは1ラウンドのみの場合もあるし、テストが近く習熟度が上がっている場合は、5分x3ラウンドにすることもある。

 このペアワークで気に入っているのは、生徒が「問題を出す側」になることで、素材を出題者目線で見ることができるところ。出題をするときに「この単語は難しいから、答えられないだろ~」という意識で素材を見ることで、「いつのまにか出題側の自分が覚えてしまった」という状況を狙っています。受け身ではなく、能動的に考える時間になることは大きなメリットですし、自然と難易度の高い単語の習得率も上がってくると考えています。

 

6.評価とポイント: 授業内外での評価方法、フィードバック方法

 単語学習を推進する上でよく行われる「小テスト」ですが、本意ではない「5分前に覚えて、5分後には忘れてしまう」ということがどうしても頻発してしまうことから、個人的には実施していません。

 単語の定着に関しての評価は、年に5回ある定期考査で実施します。定期考査100点のテストのうち、単語セクションの配点は30点。20点分は英単語の和訳に答える選択問題、そして残りの10点分は『ターゲット 1900』に掲載されている例文の空欄補充をする形式で出題しています。こちらは語形の変化の知識も問うため、応用問題になるかと思います。

 生徒には、(プリント学習においても定期考査においても)前回よりも少しでも良い点数が取れるように、すなわち「前回の自分越えを目標にしよう!」という声掛けをよくしています。

【スタンプ数での評価】
 先ほど述べた単語のペアワークで獲得したポイントや、ノート提出の際にノートに「スタンプ」を押す指導をしています。ノートは定期考査ごとに提出させており、最終的にいくつスタンプが押されているか集計し、授業の平常点として計上します。

 校内ではTeamsが導入され、授業後に「板書の配信」ができるようになりました。生徒たちは授業中に慌てて板書を写さなくても良くなり、より授業や説明に集中できるようになっています。私も、板書は授業中にはあえて書かせず、帰宅後にノートに写させるようにしています。家庭学習および復習になること、時間を気にせず自分のペースで書けるため、自分なりのアレンジをしやすくなることがメリットだと考えています(能動的な行動は記憶に残りやすいため)。後日の授業でノートチェックをする際に、自分なりのアレンジをした者は自己申告させ、その場合にはスタンプを2個押しています。

 

7.授業を実施した上での成果と課題: 想定通りに進んだか。また、得られた成果や判明した課題

 現在では、定期考査の範囲に単語100語を入れることが定着しました。英単語の和訳を問う問題(基本問題)と、語形変化をさせ例文補充をする問題(応用問題)の出題方法も生徒に浸透しています。また、英単語学習の取っ掛かりとして「自作プリント」を使うことで、必ず単語帳でも確認するという習慣がつき、「あのプリントがないと覚えられない(から欲しいです)」と生徒から言われるようにもなりました。赴任当初、ピカピカな単語帳を持つ多くの生徒に危機感を感じていましたが、今は答え合わせやテスト前に生徒がよく単語帳を手に取るようになり、単語帳はボロボロに使い込まれています。

 「記憶のメカニズムにそった覚え方をする」「小テストを実施しない」というこの一連のアプローチによって、生徒への変な負担感をなくすことができたと自負しているため、今後もこのアプローチを有効活用していきたいと考えています。

 

8.授業を参考にする先生へのメッセージ: 上記を参考にして自分で実施をする先生へのアドバイスや期待すること

「先生は生徒の立場に、生徒は先生の立場に」

 生徒も教員も、それぞれの立場を意識しながら授業に参加できると、とても風通しが良くなって雰囲気も良くなると思います。単語のペアワーク(クイズ合戦)のように、生徒が先生の立場、つまり「出題者」の立場になって考えられるようになると、通常の学習にさらに能動的に取り組めるはずですし、教員側も、改めて生徒の立場で自分の授業や課題を振り返ってみると、新しい発見や修正点が見つかるはずです。(本校では教員同士の自主的な勉強会も盛んに行われており、以前「生徒になろうキャンペーン」と題して、担当ではない科目の生徒役を体験し合ったりしたこともありました。)

 自分でも失敗したなーと思うことや、生徒から挙がってきたさまざまな声(不満や文句も含む)を、「のびしろ」として捉え、前向きにずうずうしく活用していくことが、いちばんシンプルかつ有益なスキルアップの方法だと思います。飲食店の「お客様アンケート」に金言がゴロゴロ埋まっているように、私は「授業アンケート」も宝の山だという感覚でいるので、頻繁にとるようにしています。(「なるべく不平や不満を書け!」と言いながら・笑)

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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