聞く側も話す側も超集中! ジグソーリテリングの授業法

最終更新日:2024年2月15日

近年の英語教育現場で注目されているリテリング。“retelling”と書くように「再び話す」ことを意味するもので、英語を聞いたり読んだりした後に、その内容を「自分の言葉(英語)」で再構築して話す活動のことを言います。桐朋女子高等学校音楽科の英語科教諭である三浦大輔先生は、このリテリングにアクティブラーニングの手法としても注目を集めるジグソー法を組み合わせた「ジグソーリテリング」を授業で積極的に展開。学ぶ楽しさを大切にする教科書『All Abroad!』シリーズの編集にも携わる三浦先生に、その狙いと効果についてお伺いしました。

この先、英語の習得はどこまで必要になるのか?

―――桐朋女子高等学校音楽科は教育目標に「自由で豊かな感性を持つ個性ある音楽家の育成」を掲げるなど、専門性の高い学校という印象です。英語教育についてはどうでしょうか?

(三浦)専門性の高い学校ですが、普通に英語や数学の授業もあります。3年間で英語コミュニケーション、論理・表現までを履修します。本校は音楽家の育成を主目的としていますから、英語力には大きなバラつきがあります。英語は苦手な生徒から、音楽に負けず劣らず英語もよくできる生徒までさまざまです。そのような生徒たちを教えるために習熟度別授業を採用しており、特に習熟度の高くないクラスは少人数になるように工夫しています。ちなみにリテリングは英語力がないとできない活動と思われがちですが、習熟度の高くないクラスでもリテリングをしています。

―――ありがとうございます。そのリテリングを授業で重要視されているそうですが、その背景について教えていただけますでしょうか。

(三浦)私が授業で重視しているのは2つのことです。心理学や哲学など授業で扱うトピックが知的好奇心をくすぐるような内容であること。それから、そのような内容を自分で整理して英語で説明すること(リテリング)です。この2つを重視するのは、主に3つの理由があります。1つめは、音楽科で英語を教えるにあたり、“英語という言語について教える”ことが重要だとは考えていません。本校は翻訳者や英語教師を育てているわけではないので、言語学的に英語を教えるのではなく、英語の授業を通じて、彼らの人生にとって意味のある何かを学んでほしいと思っています。そのため題材も、毎回その観点から選んでいます。

また、近年そういう時代になってきたと感じますが、「この先、どこまで英語の学習が必要なのだろうか」という問いがあります。生成AIのChatGPTや、高精度の翻訳ツールDeepLといったサービスが生まれていますし、今後も高度なテクノロジーによって英語を使用したり学習する環境は変化していくと思うのです。もしかしたら将来、今のような英語学習をすべての子供が行う必要はなくなるかもしれません。そうであるならば、英語そのものを学ぶことよりも、授業を通して学ぶ別のことのほうが重要なのかもしれません。

3つめに、本校に限らないと思いますが、学校の授業だけで英語を習得するのはほとんど不可能で、(どのような学問でもそうだと思いますが)授業以外の場で生徒自身が向き合う必要があると思います。音楽高校の生徒は、海外で研鑽を積む場合も多いので、その意味でも自立した学習者になる必要があります。リテリングは自分の発話と元の英語を比べることができるので、生徒一人でもスピーキングの学習ができる優れた学習法だと思います。

リテリングは普段の生活の中で誰もが自然に行っている

―――他にもさまざまな学習法はありますが、その中でもリテリングを重視する理由はありますか?

(三浦)ひとつは、読んだり聞いたりしたことを、自分の言葉で言い直すことは、現実でよく行う行為であるのに、英語で行うのは難しいという点です。また、リテリングは、4技能のうちスピーキング・リーディング・リスニングを向上させるのに非常に効果的な方法であることも、リテリングを活用する理由です。

文科省の「平成29年度英語教育改善のための英語力調査(高校3年生)」でも示されていますが、日本の高校生は読むことはそれなりに得意でも話すのが苦手です。リテリングでは、インプットとアウトプットの力を両方同時に伸ばすことができるため、得意とするリーディングで支えながら、スピーキング力の向上につなげていけると思います。リテリングは、「本文を暗記して話す」ことと「自由な英会話」の間をいくような学習です。重要なフレーズを暗唱すれば、言えることは増えるけれど、外国語を話す楽しさは得られない。一方でただ英語で話すことは、オーセンティックで楽しさはあるものの、新たな学習が進みにくい。暗唱と自由な英会話のいいとこ取りができるのがリテリングの良さだと思います。

実のところ、リテリングは日常の会話の中で誰もが頻繁に行っているものです。インプットした情報を自分の言葉に置き換えてアウトプットするのがリテリングですから、たとえば帰宅して家族に「今日学校でこんなことがあってさ」というのも立派なリテリング。実際に日々行っているリアルな行為なのです。

―――それを英語で行おうというわけですね。具体的な授業内容はどのようなものでしょうか? 

(三浦)リテリングの授業でよく見られるのは、教科書など1つの題材をクラス全体で読み、その内容を、教科書の表現と自分で考えた表現を織り交ぜながら英語で説明していくというものです。それをペアやグループで行うのが最も一般的なリテリング活動だと思います。

一方で私の授業では、このリテリングにジグソー法を組み合わせた「ジグソーリテリング」などと呼ばれる方法を使っています。ジグソー法とは、あるテーマについてグループごとに異なる情報を持ち、その情報を別グループの生徒と交換、統合することで、そのテーマについて学習者が主体的に、かつ対話を通じて理解を深めていく手法です。ジグソー法は英語教育に限らず、社会や数学の授業でも用いられています。

実際の授業では、まずクラスを半分に分け、2のグループに別の文章を読んでもらいます。次に同じ文章を読んでいるグループ内で、自分たちの読んだ文章の理解を深める活動をし、その後別のグループの生徒とペアになります。ペアはお互いに相手の知らない話を、本文を見ずに英語で説明していき、聞き手は相手の話を4マ漫画にしていきます。

*ジャコウネコが食べて、消化されなかったコーヒー豆から生まれる高級コーヒー、コピ・ルアクを題材にリテリングをし、聞き手の生徒が自作した4コマ漫画。

―――そのような授業設計にしているのは、なぜでしょうか?

(三浦)このジグソーリテリングの良いところは、相手の話を集中して聞かなくてはいけない点です。高校1年では、全員で1つの話を題材とする一般的なリテリングを行っていますが、生徒たちはペアの相手の英語を聞く必要は、実際のところあまりありません。すでに知っている話だからです。しかし、お互いに知らない話の場合は、集中して聞かなくては4コマ漫画が描けないので、聞く必要性が出てきます。これがジグソー法を使うメリットです。2人の話を統合しないと分からないような質問を用意すると、なお良いと思います。

―――話すほうも情報をしっかり伝達する義務が生まれますね。

(三浦)よく生徒には、「伝わらない場合は双方がもっと歩み寄ろう」と言っています。伝わらなかったときに、話し手はどう言い方を変えれば伝わるかを考える必要がある。聞き手も何がわからないのかをきちんと伝えることが大切になるのです。この点がリテリングにジグソー法を組み合わせることで生まれる相乗効果だと思います。

簡単に読めて、知的好奇心をくすぐる短文が教材にはいい

―――文章は毎回新しいものを渡すのでしょうか?

(三浦)基本的には1回の授業で完結するようにしています。次回に持ち越すとネタバレになってしまいますからね。そのため事前に家で読んできてもらうような予習もしません。授業内の8分程度で生徒が読み切る必要があるので、結果として題材の文章は100語前後と短いものとなります。

―――すでにある作品などから引用するのでしょうか?

(三浦)短くて、わかりやすくて、おもしろい文章を見つけるのは至難の技です。そのため大半は自作になります。本やポッドキャストからおもしろい話を見つけてきて自作していますが、ChatGPTを使うこともあります。ChatGPTに“Can you write a paragraph about … in 100 words using simple English?” 等とお願いすれば、平易な英語でとてもよくまとまった文章を生成してくれます。空欄には教師が気になっている事柄(たとえば、ツァイガルニク効果とか、コピ・ルアク、大谷翔平選手でも)を入れます。ちなみに、私の使っている教材は、インターネット上で公開していますので、活用していただいても構いません(URL:https://scrapbox.io/DaisukeMiuraPublic/)。

市販の教材や教科書の抜粋を使ってもいいと思いますが、平易な文章を選ぶことが重要です。読むのに苦戦する文章だと、口頭で説明することは非常に難しくなるでしょう。読んでいて、受動態であることはわかるけれど、自分で受動態を使って説明できるか? というところがリテリングの要となるので、「読むのは簡単」というレベルが最適なのです。そして題材を選ぶ際に意識しているのは、知的好奇心をくすぐる内容であること。視野が広がるような題材を選ぶようにしています。

―――非常に実践的な授業であることがわかりました。生徒たちも英語力の向上を実感していますか?

(三浦)実は、そこがリテリングのウィークポイントかもしれません。成長の実感が得にくいのです。文法の授業なら、「今週は関係代名詞を学びました。来週は関係副詞を取り上げます」と積み上がっていくので生徒は“学んだ感”を得やすくなります。しかしリテリングは「2週間前に比べてこれだけ成長した」という感覚を抱きにくく、それを伝えるのは非常に難しいんです。そこで最近ではリテリング時に使う文法項目を明示するようにしています。「今日は関係代名詞を使ってリテリングしよう」「今日は受動態をここで使おう」という具合ですね。そうすると、多少は文法に対する気づきが深まるのかなと思います。

*単語リストもChatGPTでまずは作成する。最後には哲学的な問いを掲載することで、“英語学習以上の何か”を考えるきっかけづくりをしている。

振り返りも大切にしています。授業の最後にその日扱った文法のポイントや、英語でうまく言えなかったことを振り返りシートに記入してもらっています。何ができるようになったのかわからないという状況を避けるためにも、文法を明示して意識を向けつつ、リテリング活動を行うのがオススメです。

取材・構成:小林慧子/記事作成:小山内 隆

この記事を書いた人

国際教育ナビ編集部

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