リテリング活動を牽引! 佐々木啓成先生に聞く、ご著書作成秘話と英語教員としての哲学

最終更新日:2025年1月28日

現在、多くの授業で取り入れられている「リテリング活動」。今回、ご取材をさせていただいたのは、「リテリングを活用した英語指導—理解した内容を自分の言葉で発信する」(大修館書店)のご著者・京都府立鳥羽高等学校の佐々木啓成先生です。大学院時代に取り組まれていたリテリング研究をまとめたご著書では、具体的な指導法が細かなステップごとにまとめられています。活動の参考にされた先生方も多いのではないでしょうか。

リテリングは「掛け算」。掛け合わせ次第でオリジナリティあふれる活動ができる―――。

今回の記事では、ご著書の概要や制作秘話についてうかがいました。さらには、教員一人ひとりの考え方によって大きく指導方法の変わる「英語」という教科の特殊性について、先生のお考えもお聞かせいただきました。

制作秘話 なぜリテリングだったのか?

―――2020年に上梓されたご著書「リテリングを活用した英語指導—理解した内容を自分の言葉で発信する」(大修館書店)は、先生の大学院でのご研究内容をまとめられたものだそうですね。

そうですね。京都外国語大学大学院で研究を行い、卒論のテーマをリテリングにしました。その内容を1冊の本にしたい、と思ったのが始まりです。

―――なぜリテリングをテーマに選ばれたのでしょうか?

私が研究を行っていた当時、リテリング自体は中高での英語教育において今ほど認知されていませんでした。「リテリング」という言葉自体は存在していたと思いますが、音読やリーディング、リスニングなどのように指導法が体系化されておらず、関連書籍や先行研究などもほとんど見当たりませんでした。

現在の学習指導要領では「発表とやり取り」が入り、アウトプット重視になってきています。しかし当時は本文の音読を授業のゴールにしていたり、教科書のトピックとは関係のないテーマでディベートを行うなど、アウトプット活動が教科書の内容をベースにしたものではないことが多かったように思います。

当時、リテリングは研究テーマとしてブルーオーシャンだった点、そして教科書の内容をベースにアウトプット活動ができる点に大きなメリットがあると感じました。

―――ご著書ではどのような点を工夫されましたか?

「リテリングのすべてがわかる1冊にする」という点でしょうか。たとえばリテリング活動を行いたいけれど音読指導で終わっている状況を打破したいと考えている先生方や、初めてリテリングに取り組む先生でも「この通りに進めばうまく指導できますよ」という点は意識しましたね。

競合書籍がなかったので、意識する必要もなく、第1章では「リテリングとは何か」というテーマにして、リテリングとリプロダクションの違い、リテリングの有益性、種類、手順などベーシックな内容から始めました。第2章以降では「内容理解」「音読による内在化」「発話情報の選定」「英語への変換」「発話」「評価」など、細かなステップを解説しています。

近年ではリテリングに造詣が深い先生方も多くおられます。当時はたとえばリテリングとリプロダクションの定義や違いも曖昧で、それぞれの言葉が混同して使われていました。実践では明確にそれらの言葉の境界線を引いた方がわかりやすいと思い、リテリングは「少しでもいいので学習者が自分の言葉に変えたアウトプット」、リプロダクションは「教科書の言葉をそのまま使ったアウトプット」と定義づけを行いました。

最終章ではリテリング研究から得られた実証データをまとめています。

教科書ベースのアウトプット活動である利点

―――リテリングにはどのようなメリットがあるのでしょうか?

1つ目は、教科書を使ったアウトプット活動ができるという点です。たとえばいきなり「地球温暖化について話しなさい」と言っても、生徒はそのトピックについての英単語や言語材料を持っていないですよね。一方、教科書をベースにするリテリングであれば、その単元で学んできた内容、単語や表現などの言語材料は教科書に載っています。学習したことをアウトプットにつなげることができます。

2つ目は、リテリングを授業構成に入れることで4技能統合型の授業実践が行いやすい点も挙げられます。厳密に言えば、リテリングは “re-telling” 、つまり「話す」ことなのですが、私はライティングも含むと広義にとらえています。教科書を進める過程で「読む」「聞く」はカバーされるでしょうが、リテリングを授業構成に入れることで「話す」「書く」もカバーすることができます。

その他にもたくさんのメリットがあります。

―――最近よく耳にするラウンド制は5ラウンド目でリテリング活動を入れますが、親和性が高いのでしょうか?

親和性はあるでしょうが、「特定の授業法だから」親和性が高い、ということはありません教科書に軸足を置いた上での活動なのでどのような方法でも「掛け算」すれば良いだけです。

たとえば「ジグソー法」×「リテリング」であれば、生徒Aをパート1、生徒Bをパート2の担当にして、生徒AとBでリテリングし合う形ができますよね。全員が同じパートを行うリテリングとはまったく異なる活動になります。

その先生が目の前の生徒に何を学ばせたいのか、どのような力を身に付けてほしいのかによって、いろいろ掛け合わせてみて、「こんなリテリングの掛け算があるのか!」と発見してもらえたらと思います。

―――リテリングに対して教員の先生方や生徒の印象はどのようなものだとお考えですか?

本書の最終章に入れていますが、リテリングにおける実証データを収集するために生徒アンケートを行いました。結果として、リテリングに悪い印象を抱いている生徒はほぼいませんでした。最近ではリテリング活動が入っている教科書も増えていますし、リテリング活動に取り組む先生方も増えてきています。教員・生徒双方において、マイナスイメージはないと感じています。

ただ、授業構成の中にリテリングを入れるということは、その時間に行っていた他の活動ができないことになります。生徒に身に付けさせたい力や生徒の状況によって活動の取捨選択が必要になります。

「スピーキング力は数値化できない。だから力を入れない」ではない

―――英語力向上という点でリテリングの有効性はいかがでしょうか?

大学入試において、スピーキング力を測る試験はほとんどありません。リーディング、リスニング、ライティングで点数が取れれば合格できるわけです。つまり、大学受験においてスピーキングはほとんど必要ないわけです。

それでも、スピーキング活動中心の授業を行うとき、生徒から「先生、大学受験で意味がないから、やらないでいいじゃないですか」とは言われないです。それはやはり、生徒はこのグローバル化された世の中に生きていて、昔よりも海外の情報を得やすくなっています。「英語が喋れたらかっこいい」とか「英語を喋れたらいいな」という思いを、生徒は入試に必要か否かに関係なく持っています。そこは英語のスピーキングの特殊な立ち位置ですし、リテリング活動の価値もあると思っています。

―――大学入試という観点で言うと、コミュニカティブな英語授業と大学受験対策のバランスは多くの先生方が悩まれている点かと思います。先生はいかがお考えですか?

どこに重心を置くかは、英語教師のフィロソフィー次第だと思いますね。ここではわかりやすく、受験英語とコミュニケーション英語を二項対立として考えてみます。先ほどお伝えしたように、「大学受験においてスピーキングの重要性は低い」という前提に立ち、教員それぞれが自身のフィロソフィーに従って、割合を8:2とする人もいれば、5:5の人もいるでしょう。個々の教員によってこんなにフィロソフィーに揺れのある教科は、他にないと思います。あまり議論されることはありませんが、これは英語という科目の特異性だと思っています。同じ学校内でも教員によって異なる考え方を持っていますし、適切な指導バランスについて各校で考える必要があると思います。

―――先生の場合はいかがでしょうか?

私はこれまで、大学受験を目指す生徒の多い学校で勤務してきました。受験指導に主軸を置いたときに、文科省がアウトプット重視を打ち出していても、受験英語を9割・コミュニケーション英語を1割で指導した方が数値の面では伸びるかもしれません。

ただ、今、私が思っているのは、やはり受験英語も大事ですが、コミュニケーション英語も追求をしたいということです。

教員として年齢や経験を重ねてきて、たとえば若い教員が同僚となったときに、自分自身の引き出しに受験英語の指導方法しかない、というのは避けたいと思っています。受験英語だけでなく、リテリングなどのコミュニケーション指導の引き出しも持っておきたいです。

―――先生が英語教育に携わる中で、大切にされているのはどのようなことでしょうか?

生徒が授業を通して「英語を学ぶことは楽しい」と思えることが大切だと思います。日本で生活をしていて、英語に触れる機会と言えば英語の授業だけという場合がほとんどです。しかし、授業だけでは英語を話せるようになることは難しい。英語力を向上させたければ、授業外で英語に触れる機会を積極的に増やしていく必要があります。しかし授業で英語が好きだと思えなければ、授業以外で英語に接触をしないと思います。

だから、日常生活で唯一英語と接触する機会である授業で、「好きだな」とか「楽しいな」と思ってもらう。さらに授業中でも英語の接触量を増やしていく。

そのための工夫の1つが、生徒の発話量をなるべく最大化して喋らせてあげること私にとってのその答えの1つが「リテリング」ということです。

生徒が英語を好きになるための単なる1つの方法論であって、リテリングがBESTと言うつもりもありません。リテリングに特化せずとも生徒が「授業が楽しいな」と思ってくれたらよいと思います。

リテリングは先ほどもお伝えしたように掛け算です。そこに工夫のしどころがあります。ぜひ多くの先生方に「リテリング」×「?」を考え、オリジナルのリテリングを追及していただければと思いますね。

―――今後の気になる掛け算について教えてください。

「リテリング」×「AI」です。たとえば生徒同士をペアにして話させた場合、40人のクラスであれば20ペアができます。その1ペアずつに教員がフィードバックするのは難しいです。個別最適化が求められていますが、教員1人に対して生徒40人の状況で個別最適化は非常に難しい。しかし、AIを掛け算することで可能性が見えてくるかもしれません。

取材・構成・記事作成:小林慧子

 

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