【第二弾】【夏休み緊急会議】探究学習、正直どこまでやりますか?!~山脇学園・高瀬先生編~

最終更新日:2021年9月29日

2020年度にスタートした新学習指導要領。

中でも「探究学習」は、2022年度から本格運用が開始されることもあり、ひときわ先生がたの注目を浴びています。

文部科学省が新学習指導要領のキャッチコピーとしている”生きる力 学びの、その先へ”のとおり、

探究学習では「これからの自分の生き方を自ら考え、切り開いていくための必要な資質や能力の育成」を目標としています。

しかしその一方で、「実際どこまでやったらいいの?」と戸惑いを感じている先生がたもいらっしゃることでしょう。

・そもそも「探究学習」とは何なのか?

・各教育課程によってどのような違いがあるのか?

・他の教科との関わりや評価はどうしたら?

など、先生がたがリアルに直面する疑問や悩みにお応えすべく、緊急企画と題して下記4名の先生方にコトバンク株式会社・代表取締役の小泉がお話を伺いました。

【第1部】聖ヨゼフ学園中学校・高等学校 久保 敦 先生

【第2部】山脇学園中学校・高等学校 高瀬 聡伸 先生、かえつ有明中・高等学校 田中 理沙 先生、東京女子学園中学校・高等学校 難波 俊樹 先生

※このイベントは2021年8月に開催されたものです。

 

 ◆第2部◆探究どこまでやりますか?体験談トーーク!


 

●流れ、山脇学園・高瀬先生のご紹介

 

(小泉)第2部でお話しいただきますのは、3名の先生がたです。山脇学園の高瀬先生、かえつ有明の田中先生、東京女子学園の難波先生にお越しいただきました。実は、高瀬先生はこのイベントを共催しておりますESNの幹事の先生でもあります。

高瀬先生には、最初になんとご自身のしくじり体験を中心にお話しいただきます。高瀬先生の失敗談を通じて、「こういうところが難しい」といったところを認識した後で、続いてお二方には、今進行中の案件がなかなかいい感じであるということで、しくじりと成功の違いを順番に伺っていければと思っております。

(高瀬先生)よろしくお願いします。

 (小泉)先ほどは大変失礼いたしました。しくじり……何と言うのでしょうか、第1打者というか、先頭打者で。

(高瀬先生)そういうテレビ番組もありますよね、「しくじり先生」。それに出させていただいている感覚でお話しできたらと思います。

(小泉)ありがとうございます。ちなみに高瀬先生、元々は英語科の先生でいらっしゃいますよね。

(高瀬先生)そうですね。大学を出てからずっと英語科の教員で、19年目になりますね。都内の私立に主に勤めています。

(小泉)昔は金髪で指導されていたという噂も聞いたことがありますが……。

(高瀬先生)それは真っ赤な嘘でございますね。

(小泉)嘘だったんですか!(笑)

(高瀬先生)中・高とアメリカにいたことがあるのですが、中学校2年生の時にXJAPANに憧れて髪の毛を金髪にして、トサカを立てていた時代がございました。教員ではないですね。

(小泉)なるほど(笑)、今ではすっかり丸くなられて。

(高瀬先生)はい、そうですね。丸くなったのかな、はい(笑)。たまにとんがりたいとは思っています。

(小泉)3名の先生がたには、主にこの3点に関してお伺いできればと思っております。1点目、「探究」導入の意図。どうしてその学校が「探究」を導入しようと思ったのか。そして2点目、実際にそこで何を行ったのか。ご自身の立場と一緒にお話しいただければと思います。そして最後に、その結果と振り返り。この3点に関してお伺いできればと思いますが、今回高瀬先生にお話しいただくしくじり体験は、現任校ではなくて前任校でのお話という認識でよろしいでしょうか?

 (高瀬先生)はい、そうですね。

(小泉)ご転職というか、現任校に移られてからも、「探究」のプロジェクトに携わっていらっしゃるということで、ある意味、前任校での失敗を踏まえながら、現状の枠組みの中でどうしていくかを検討模索されているところかと思います。


●探究導入の意図|高瀬先生のケース

 

(小泉)前任校でなぜしくじりが起きてしまったのか、まずそのエピソードを順番に伺えればと思います。まず、前任校を追ってお伺いしたところ都内の女子高、中高一貫校でお間違いないでしょうか。

(高瀬先生)はい、そうですね。ある都内の私立の学校に約16、17年勤めていたのですが、その最後に勤めた2、3年ですね。新カリキュラムが入る前に、お試しで「探究」を導入しようということになりました。たまたま担任を持っていたので、その係をやってほしいという上からの命令がございまして。特に経験があったわけではないのですが、「探究」係という係長みたいな立場をお預かりしたわけです。

その学年は中1からずっと担任で持ち上がってきていて、高1・高2までいたのですが、その「探究」を始めてほしいという指示が出たのは、高校1年生の段階ですね。なので、高1と高2で、いわゆる総合の時間を「探究」の時間として2年間、週に1回自由に使える時間としてカリキュラムの設計をしました。お試しではあるけれども、何かしらの成果の感触みたいなものをつかんで、いよいよ来年から始まる本格的な探究に備えられたら、というパイロット学年みたいな係に立ったわけですね。

(小泉)最初の意図としては、学校としてはとりあえず始まるから、とりあえずテストフライトで何かやってみましょう、と。結構成り行きで始めることになったような。

(高瀬先生)そうですね。とにかく「探究」をやってほしいという、漠然とした抽象度の高いゴールと、もちろんそれはある程度の自由はあるんですけど、逆に投げられた課題の抽象度が大きいので何から手をつけようね、みたいな。そこがスタートですね。

(小泉)高校1年生からまず始められたということでしょうか?

(高瀬先生)そうですね。週に1回、総合の時間を「探究」という形にしたので、年に数十回ある中で、それぞれの授業をどうやって使っていくか、カリキュラムの設定のところから関わっていきました。

(小泉)ちなみに週1の授業はクラスごとに、例えばA組でやって、B組でやって、みたいなイメージで持たれていたのですか。

(高瀬先生)その辺も任せられていて、一学年240~250名おりましたので、例えば講堂に一斉に集めて何かをやっても構わないし、あるいは学年の担任の先生がたに事前に「こういうふうにやってほしい」という計画を渡して、各クラスの担任の先生に何かをやってもらっても構わないし。アウトソーシングを使って外部の業者の方に講演していただくとか、教材を使っていくとか、その辺も何でもいいので、という感じでした。

(小泉)高瀬先生、普通に英語の授業もされているのですよね。

(高瀬先生)そこなんですよ(笑)。普通に英語、フルコマですね。いわゆる私立では17~18コマを1人の担任、専任が持つのは当たり前だと思うので、その18コマの中の1コマの、2年間の授業計画を立てよという至上命題だったので。何かが私の業務から削られたわけではなく、一言で言えば重くのしかかったわけですね。週1の授業をどうしようか、みたいな。

(小泉)しかも250人ぐらいが対象になるということですよね。

(高瀬先生)そうです。

(小泉)それは、それは。


●何を行ったか|高瀬先生のケース

(小泉)高1と高2で2年間、結局何をされたのでしょうか。どういうゴールを設定して。

(高瀬先生)まず最初に出口の部分、つまり成果物を、何をもってして「探究」とするのかという話が、学年の中では当然出てくるわけです。一つの形を残さないと評価ができないので、探究論文を全員に書かせて、発表させる。それを高2の終わりに実現しよう、という出口の設定が最初に決まるわけです。それは私が決めたというよりは、学年で決めたものを学園が了解して、そこでうちにしようということがまず決まるわけですね。そこから逆算して論文はいつからいつまでに書かせようとか、論文の書き方についてはどの時期に指導しようとか、論文を書く前に各種探究でやったことの中間発表はいつにしようとか、逆算していくとやるべきことは見えてくるという流れですよね。

逆算していった結果、結局中学で「探究」とは何ぞやということを全く生徒たちも先生がたもやってこなかったので、高1でまずやらなければいけないのは、「探究」とは何だろうかというのを学年全体、先生も生徒も一緒に学ばなければいけない、というのが出発地点になります。もちろん私も書籍等に目を通したり、研究会の先生がたに情報収集はするのですが、何せ英語科の教科書等を使って授業を組んでいくこととは全く違うので、助け舟が必要だなと思いまして、アウトソーシングを考えるわけです。

「探究」を探していてこの業者に、という話ではなかったのですが、別のお話から「探究」の教材をこれから作ろうとしている業者さんとの出会いがあったり、あとは課題解決型の体験学習を売りにしているNPO法人さんにアドバイスをもらったり、「教材を作る上で生徒の反応を直に見たいので一緒に作っていきませんか」と提案をしてくださった業者さんもいて。そういった方々と手を組んで、毎週のように、オンラインの対話だったり直接会ったりして、「こういうふうに組み立てていこうか、ああいうふうに組み立てていこうか」と話し合いから始まりました。

(小泉)それはすごく良さそうですよね。

(高瀬先生)そうですね、そこまでは。自分1人でとか学校の中だけで完結させるのは到底無理で、少なくとも社会に出て課題解決するときに、自分が所属する会社の中だけで何か課題解決ができることはないわけです。得意なものを持っている人や団体の力を借りながら最適解を見つけていくのが、社会に出てからのビジネススキルになっていくと思ったので、まず外とつながることを第一に考えましたね。

 

●結果と振り返り|高瀬先生のケース

 

(小泉)ヒアリングの時点で衝撃的なキーワードが飛びだしたのですが……「死屍累々」みたいなキーワードはお伺いしたと思います。

(高瀬先生)はい。最初の打ち合わせや、こういうふうに2年間作っていけばカリキュラムや授業に沿ってある程度の成果が出るだろう、という見立てのもとに2年間の計画を作るわけですよね。で、一つ結論から言えば、計画通りいくわけがないという状況になっていくわけです。

リスナーの皆様もご覧いただいたことがあるかと思いますが、「探究」をしたときにPDCAのサイクルがだんだん上に上がって深まっていくという図があります。一言で言うと、生徒たちが「探究」テーマを決めて、そして仮説を立てて、と上っているはずが、ずっと下をぐるぐるぐるぐるするわけですよね。

結局、「自分の興味関心があることを考えてみよう」「テーマを決めてみました」「それを調べてみよう」「どうやってオリジナルにするか、フィールドワークをやってみよう」「アポを取って話しに行ってみよう」「数百人のデータとしてアンケートを取ろう」とか、そういう汗水垂らしていくようなところまでいければ良いですが、生徒もそこまでする勇気はないし、本当にそれをやった結果どうなるかも不安だということで、何が起こったかというと、ネットのコピペ現象が起こったのです。

手っ取り早い情報収集といえばインターネットじゃないですか。しかも、自分が設定したテーマは大抵もう誰かが先行研究をやっているか、上手にまとめてくれていて、ほぼ結論が出ている。あるいは、自分の考えていたテーマが見つからないから、誰かが出したテーマに自分のテーマを寄せていく。要は、先生が喜びそうなものを調べて取ってくるとか、あたかも自分でやりました的なものをコピペしていって、ですますも、だである調も、ごっちゃになった中間発表が出てくるわけです。これNAVERのまとめで見たことがあるな、みたいな。

結局、生徒たちは大学受験につながる勉強へとだんだん気持ちがシフトしていくわけですね。受験と関係ないことはやりたくないし、面倒くさいというマインドになっていく中で、週1の「探究」の時間に何をしたら先生がたが求めるものなのか、とりあえず評価してもらえるものは何なのか。いかに力をかけずに、本業の各科目勉強に集中できるのか、みたいな、だんだん「本腰を入れてやるのも苦しいしだるいしどうしよう」という感覚になってきてしまうのです。

それは、先生方のマインドセットにも非常に似ている部分があります。先生方もどこかで「探究」をやらせた方がいいとは思っている反面、でも受験で結果を出さないと私学って生き残りかかっているよね、と。受験に直接関係ないものを生徒にやらせても、変な話、意味があるのか?という、本音と建前の部分があるわけですよね。

「論文を読むときに生徒たちとこういう対話をしてほしい」と私が熱意を持って説明すればするほど、先生がたは「私はそのテーマの専門的知識がないので指導できません」とか、「自分が常に生徒よりも経験や知識で上に立っていなければ指導はできない」という不安感も先立って、後ろ向きになる。だから「高瀬、頑張るのはいいけどほどほどにな」というテンションになってしまうわけです。

自分だけ、あるいは一緒にタッグを組んだ業者さんとだけ盛り上がって「一生懸命やろう」となる一方で、先生がたも生徒たちも「ほどほどに、メインの勉強を頑張ろうぜ」というのが出てきてしまうと、結局空回りみたいな状況が多くなってしまいます。

研究会の先生がたに聞いても、あるいは他のイベントに参加しても、全く同じことが起こっています。他校の先生、特に「探究」係みたいな先生とイベントで話をしたときも、しくじりの話をすると「そうなんだよ!」とみんな大きくうなずきました。受験の邪魔をするわけではないけれども、やりすぎると先生からも生徒からもそっぽを向かれるし、本当難しいですよね。

その中で、ごくごく一部の生徒では「探究」が回り出しています。成功事例も出てきて、ビジネスコンテストに出て賞を取るとか、課題解決のために外部のイベントに出て、ボランティアでこんな活動をして帰ってきましたという嬉しい事例も出てくるわけですね。ただ、それが250分の何人かという話で、10名前後の子たちの「探究」の成功を下支えするために、残りの約9割の人たちが「結局これをやって何の意味があったんだろう?」というのは絶対にあってはいけないと思っています。

ではどうするか、やはり評価の部分が最も大切だと思うのです。最近はルーブリックとかいろいろ言われていますけれども、評価軸をまずきっちり作って、先生がたが同じ尺度で見ないと、いかに良い「探究」をやらせても「みんな頑張ったね、よかったね」、指導要録には「こんなこと頑張りました」みたいな結果になる。結論ありきというか、みんなでよく頑張ったと拍手しておしまい、みたいな「探究」になってしまいます。

そうではなくて、生徒がビフォーアフターでどのように変わったのか、そして誰が見ても公平な尺度で評価するルーブリックというものを学校として作っておかないと、結局どんな活動をさせても「結果、何が伸びたの?」みたいなことになっていくわけですよね。

(小泉)ありがとうございます。今、ポイントを課題として3つ伺ったと思います。1つは受験とのバランスの取り方。これをうまく考えないと生徒の心が離れてしまう。そして指導者の指導力ですね。「探究」という新しいものをどうやって教えていったらいいのか分からない中、担当の先生だけではなく組織としてどう対応していくのか、指導力を強化していくのか。あともう1つが、評価の部分。しっかりしていかなければならないという改善点を、前任校で思われたというところでお間違いないでしょうか。

(高瀬先生)はい、その通りでございます。

(小泉)今この課題を解決すべく、山脇学園さんではプロジェクト進行中ということですね。

(高瀬先生)そうですね。こうやるとうまくいかないよ、という経験をもとに、そのステップを踏まずにうまく回っていくように、今、着任校の方で日々研究してチームで頑張っているところです。

(小泉)今はしくじりではなく奮闘中、ということで。短い時間でしたが、高瀬先生にお話を伺いいたしました。

 

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