【第1弾】「映画・洋楽×ICT」この授業って大丈夫?!〜授業目的公衆送信補償金制度から考える〜

最終更新日:2021年10月13日

2018年5月の著作権法改正により、「授業目的公衆送信補償金制度」が創設されました。

近年、授業においてICTの活用が進んでいることに伴い、著作物利用の円滑化を図るためスタートしたこの制度。補償金を支払うことで、権利者の許諾がなくとも端末への送信やサーバーへのアップロードが行えるようになりました。

しかし、「実際これまでと何が変わったのか?」「いま自分がやっている授業は、制度からはずれていないのか?」と疑問に思われる先生方も多いのではないでしょうか。

山脇学園中学校・高等学校国際教育部主任で、今回の協賛団体でもあるESN英語教育総合研究会の副代表・事務局長の高瀬聡伸先生に、「授業目的公衆送信補償金制度」に対し、現役教員を代表して5つの観点から疑問を述べていただきます。

また、ゲストに文化庁著作権課著作物流通推進室室長補佐の木南秀隆さんをお招きし、「授業目的公衆送信補償金制度」について徹底的に解説していただくとともに、パネルディスカッションでは頂いた疑問についても回答していただきます!

※このイベントは2021年9月に開催されたものです。
 

はじめに|「授業目的公衆送信補償金制度」の概要とLMS


 

(越智)まず、この補償金制度について改めて説明します。「授業目的公衆送信補償金制度」は、2020年4月28日に改正著作権法第35条が施行されたことに伴い、開始された補償金制度です。コロナ禍による学校休業に対応するため、2020年度は急遽無償でスタートしましたが、2021年度からは補償金の徴収を開始するという形で本格運用がスタートしております。スタジオ型のリアルタイム配信授業を行ったり、オンデマンド授業で講義映像や資料を送信したりする際、これまでは著作物一つ一つに対して権利者の許諾が必要でしたが、本制度により、学校の設置者が一定の補償金を支払うことで、授業の過程における著作物の利用に際し、無許諾で公衆送信できるようになっております。

 

(越智)先生方と生徒の皆さんがオンラインでやりとりする際にはLMSを使っているかと思いますが、実際、ここに書かれているような教科書や問題集・ドリルなどのコンテンツについても、日常的に送受信したり、共有したりされているのではないかと思います。

LMSの一例として、弊社が提供している音読アプリをご紹介させていただくと、こちらは音読の練習を見える化して管理できるLMSとなっております。先生が課題を指定して、生徒たちが音声を録音し提出して簡単にチェックする、というものです。

例えば、「プラン1、レッスン1のセクション以降をやっておいで」と先生が宿題を出すと、生徒は音声を聞きながら繰り返し練習していきます。単語だけではなくチャンプごとにもできますし、オーバーラッピングも先生の方で設定することができます。

提出していただくと、先生の管理画面では、誰がきちんと提出できたか、発音レベルはどうかということがAIの方で判断され、生徒たちの進捗管理ができるというシステムです。高瀬先生にも実際にご利用いただきましたが、いかがでしたでしょうか。

(高瀬先生)家庭学習も含め、音読を数値で見える化するという点で非常に優れたアプリだと思いました。ただ、やはり問題になるのはそのコンテンツですよね。こういうアプリにこそ学校の教科書を入れて使ってもらいたいという願いがあるものの、やはり先ほどのSARTRAS(一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会)が絡んでくるのかなと思っています。

 (越智)弊社以外のLMSでは、他に何を使用していらっしゃいますか。

 (高瀬先生)現在はGoogle Classroom、それからロイロノート・スクールがメインです。

 (越智)実際にロイロノートなどを使用されており、また学校として補償金制度を取り入れられているという現場の観点から、この5つの疑問について、高瀬先生にお伺いしたいと思っております。

 

◆第1部|どこまでアップロードしていいの?!”現役教員からの5つの疑問”


●【疑問1】教科書

 

(越智)まず、教科書の部分ではどのような疑問がございますでしょうか?

 (高瀬先生)教科書については、今日ぜひともお聞きしたいことが3つございます。まず1点目は、そもそもどこまでをClassroom、ロイロノートあるいはRepeaTalkのようなLMSにアップロードして良いのかという話ですね。2点目は、例えば検定教科書ですと、無料のQRコードやデジタル教科書、CDなど様々な配布形式がありますが、そういった状態のものはどこまでLMSにアップロードしていいのかということ。3点目は、これは教員側が持っているものですが、検定教科書に「自由にコピーしてご利用ください」という問題冊子が付いていることがあります。コピー機にかけて生徒に配布する分にはいいですよ、というものなのですが、例えばこれをPDF化して生徒に送ってもいいのかということをお聞きしたいですね。

 (越智)音声の部分ですと、現状は生徒の皆様がCDなどを一人ひとりお持ちなのですか。

 (高瀬先生)本校の場合はデジタル教科書をアプリで契約しておりますので、生徒は音声が自動で利用できる状態になっています。ただそこも難しいところで、デジタル教科書から音声の一部分を切り出して、MP3化したものをロイロのカードに貼り付けたり、そこに自分の声を録音させたり、そういった使い方は問題ないのかというところはお聞きしたいポイントです。

(越智)「音声としてどこまで手を加えていいのかな?」とか、教科書会社の方からも自由に使っていいとは言われているけれども、「その自由ってどこのこと?」「範囲でどれぐらい?」というところが気になっていらっしゃるのですね。

 (高瀬先生)はい。そうですね。

 

● 【疑問2】問題集・ドリル

 

(越智)次は問題集・ドリルの方に行きたいと思います。こちらはいかがですか。

(高瀬先生)実は、問題集・ドリルのほうが教科書以上に悩みの多いところです。生徒には1人1冊問題集を買わせているのですが、本校も今月はリモート授業をずっとやっておりまして、紙ではなくロイロの画面の中だけで問題集を解いて提出まで完結させています。そういったときに、生徒が紙で持っている問題集をPDF化してキャッチボールしても問題ないのか、あるいはそれも一部だけを取り出さなければいけないのか、紙教材の業者と契約を取り交わした範囲内でやらなければいけないのかというのは、やはり気になるポイントです。

(越智)教科書会社とも契約されているのですか。

(高瀬先生)はい。本校の場合、SARTRASに入る前に新学期がスタートしていましたので、ある業者とは、プラス1人数百円ずつ支払えば英語の問題集をロイロなどオンラインでも自由に使えるように変えられるという契約をしています。ただ、これがSARTRASを契約するとなると、いわゆる二重払いが発生してしまう。次年度もSARTRASに継続して入る場合、紙教材は業者で買うけれども、オンライン利用はSARTRASに請求してくださいということができるのか、ということは現場の具体的な課題の一つだと思います。

(越智)確かに、他の先生方も同じようなことで悩まれているでしょうね。ということで、「問題集・ドリルってどうなの?」というお話も後ほどお伺いしたいと思います。

 

●【疑問3】洋楽・音楽

 
 

(越智)洋楽・音楽は実際に使われてる先生もいらっしゃると思いますが、高瀬先生はいかがでしょうか?

(高瀬先生)私も洋楽や音楽を取り入れる授業は結構好きでやっています。YouTubeやApple Musicなどサブスクリプション契約しているもの、あるいは既に教科として購入しているものをMP3ファイル化して生徒に配信し、それを一部ディクテーションさせたり、あるいはアテレコさせたりして戻してもらうのですが、教科書や問題集ではなく、ごく一般にネットから引っ張ってこられる著作物については、どこまで教育利用として許されるのかというところをお聞きしたいと思っています。

(越智)私自身も、生徒・学生だった頃は音楽があるとやる気が出たので、教科書だけじゃない効果もあると思っています。そういった意味でも、ぜひ聞いてみたいお話です。

 

●【疑問4】映画・動画

 

(越智)同じような効果が期待される映画・動画はいかがでしょうか。先ほどの質問と重複する部分もあると思いますが。

 (高瀬先生)これは私のみならず多くの先生方から聞くのですが、音楽と同様に、教科書の内容に関連する映画や動画は、教科書付属以外にもネットにたくさんあるわけです。「この一部分を使って生徒に見せたいな」と思うこともありますし、あるいは、ある学校の先生は映画のワンシーンを使って生徒にペアでアテレコをさせるそうです。録音したものをみんなでシェアして、誰が一番上手か聞き合うという授業の話も伺っています。そういった利用の仕方や、またこういうものをLMS上でキャッチボールしていいのかという点はお聞きしたいところです。

 (越智)本物のコンテンツにアテレコすることは生徒たちのモチベーションにもなると思いますし、実際使われている先生がいらっしゃるという点でも具体的な質問ですね。

 

 ●【疑問5】生徒の成果物

 

(越智)最後に、生徒の成果物という点でお伺いしたいと思います。

 (高瀬先生)生徒に何か課題を課したときに、例えばプレゼン資料の中に生徒が好きな画像を貼り付けたいという場合、もちろん著作権がしっかりと管理されているもの、あるいはお金を払って使えるものであれば問題ないと思うのですが、生徒の多くは画像検索などでジャニーズなりディズニーなり自分の好きな画像をダウンロードして作品の一部に活用することが非常に多いです。学校というクローズドな空間の中であれば利用していいものなのか、あるいはその時点でアウトで、常に許可を取らなければいけないのか。このあたりがSARTRASでどこまでカバーされるのかをぜひお聞きしたいなと思っています。

 (越智)確かに、ディズニーやジャニーズといった、生徒たちが興味関心のあるものを使用したプレゼンテーションを成果物として提出する機会は十分にあり得ますね。具体的な質問を高瀬先生からいろいろ頂きまして、参加された先生方にも「わかる」「そうそう」と共感いただいてるのではないかと思います。

 
 

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