「シリーズ 英検活用 あの学校はどうしてる?!」 “英検全員受験”という環境が生徒と家庭をワンチームとし、生徒の英語力を高めていく。
最終更新日:2023年12月18日
いま、英語外部検定(外検)利用入試が盛んになっています。一般受験では外検の級やスコアが英語試験の得点に換算されたり、学校推薦型選抜と総合型選抜では出願資格に指定されていたりと、今後ますます重要になっていくことが予想されています。ケンブリッジ英検、GTEC、TEAP、TOEFL、TOEICなど数ある外検のなかで、もっとも採用されている英検(実用英語技能検定)。そこで国際教育ナビでは「シリーズ 英検活用 あの学校はどうしてる?!」と題し、積極的に英検に取り組んでいる学校や先生方にご取材を実施。学校内での位置づけや生徒への取り組ませ方、授業との関連づけや教員の関わり方など、各校の具体的なアプローチに迫ります!
#3の今回は、大阪にある樟蔭中学校・高等学校。2016年まで行っていた施策をリスタートさせる形で、2022年度から中学1年生から高校2年生までの英検の全員受験を実施。またネイティブスピーカーの教員が日常的に英語学習をサポートするといった英語学習に積極的な校風によって、国際教養コースの高校3年生は、およそ3分の1が英検2級を取得しています。では、なぜ英検はじめ英語学習の取り組みに熱心なのでしょうか? その背景を樟蔭中学校の廣畑規公美教頭先生に伺いました。
英検は英語力を総合的に伸ばせるテスト
――2022年度の第3回英検一次試験を、中学1年生から高校2年生の生徒全員が受験されています。この取り組みについて教えてください。
(廣畑)実は全員受験は、2022年度から改めて実施したものなのです。過去を振り返ると、2016年までは学校を試験の準会場にし、中学校においては第3回目の試験(1月)の全員受験を実施していました。高校は希望者に対してですが、第1回目(5月)と第3回目(1月)を受験させていたのです。
しかしその後、働き方改革の流れから教職員の職場環境にも変化がありました。学校を準会場にすることによる教職員の負担は大きく、環境改善の観点から生徒個人による受験を希望する声が英語科からあがったのです。
そのような経緯があり、2017年から2021年までの数年間は生徒個人で受験してもらう形にしていました。ただその期間、学校説明会などの機会で保護者の方と触れ合うと、英検の全員受験を要望する声が多く寄せられ、改めて学校として2022年度から全員受験を設定することになったのです。
――全員受験の場合、やはり教員の負担は大きかったのでしょうか?
(廣畑)まず学校が準会場であったことから、教室の割り振りや座席設定などを事前に行う必要がありました。また「中学1年生は何級を受験する」という形ではなく、一つの学年の中にさまざまな級を受験する生徒が混在します。一次試験が免除という生徒もいて、結果としてすべての生徒に個別対応をするような状況となり、普段の授業やその準備とは別に多くの時間を取られていたのです。
しかもこうした業務を当時は英語科の教員だけが行っていました。そこで2022年度に復活させた際には、管理職や教務からも人を割く形で英検検討委員会を設け、学校全体として対応することにしたのです。
――現在、取り入れられている外部試験は英検のみということですが、英検に着地された理由はなんでしょうか?
(廣畑)一つは大学受験に有利に働くことです。特に推薦において、英検の準1級や2級を持っているとプラスに働く大学が少なくありません。ほか、リスニング、面接でのスピーキング、英作でのライティング、文法や読解などの英語力を総合的に試験の準備段階で伸ばせるテストであるということです。
――級ごとに自分の英語レベルが客観的に分かり、次の目標設定がしやすい点も魅力なように感じます。
(廣畑)そう思います。それに頑張っている生徒の姿が、他の生徒に刺激を与えるということもあるようです。今、準1級を持っている高校2年生の生徒がいるのですが、2級合格後、すぐに準1級用の単語帳を手にして毎日のように見ていたんです。すると周りの生徒たちも自分のステージをパスしようと、より一層勉学に励み出すという連鎖が起きていました。
生徒に寄り添いながら英語学習を手厚くバックアップ
――生徒をバックアップする独自の取り組みもされていますね。
(廣畑)英語と韓国語の学力向上を目標とする樟蔭学園運営の樟蔭国際学習センター、SILC(シルク)があります。樟蔭学園の生徒・学生・教職員全員に開かれた施設で、英検やTOEICなどの自主学習用の問題集、リスニング用のDVDなど多くの教材がそろい、インターネット学習のできる個人ブースも備わっています。さらにネイティブの教員が常駐していることも大きな特徴です。生徒は放課後から18時までSILCを利用することができ、教員たちと自由に会話を楽しみ、英検の面接対策も本番さながらの緊張感を漂わせながら行うことができます。
またi-Loungeと呼ぶ、ネイティブスピーカーの教員の職員室があります。そこでは英語によるクイズイベントなどを教員が催したりして、日常的に生徒たちと英語でのコミュニケーションをはかっています。ほかにも、放課後には受講希望者に対して無料講習会を準1級から4級レベルまで5講座用意し、英語科の教員やネイティブスピーカーの教員に加え、非常勤の教員などにも協力を仰ぐ形で行っています。
*SILCに並ぶ英検やTOEICに関連した教材
――非常に手厚い英検対策ですが、そこまで学校が積極的にサポートするのはなぜでしょうか?
(廣畑)もちろん本校もタブレットを導入し、スタディサプリの英語学習用アプリ、スタディサプリENGLISH(*来年度からは国際教養コースのみ採用)を活用した英検対策を生徒たちに促しています。ただ、それだけでは自習という形となり、多くを生徒の自主性に委ねることになってしまいます。どうしてもオンライン講座ですから、録画された講義をもとに個々の生徒が学習するという一方通行の方法では、補いきれないところもあると思うのです。
一方、アプリにはどこでも何度でも見聞きできるメリットがありますから、その優位性を活用しつつ、SILCやi-Loungeで足りないところを補完していければと考えています。そこでは教員の生の声による説明を聞くことができますし、分からなければその場で質問ができます。本題から外れて教員から単語などの覚え方や、勉強の仕方そのものについてアドバイスをもらえる機会も生まれます。対面環境は集中力やモチベーションを高めやすいようにも感じますし、ダイレクトなコミュニケーションに面白さを感じてか、毎日のように足を運びネイティブスピーカーの教員と会話をするような、熱心な生徒も見受けられています。
――スタディサプリにプラスアルファで英語学習をサポートしているのですね。
(廣畑)そうですね。それに自宅にプリンターがないという生徒も多いですから。スタディサプリもプリントアウトをした方が勉強しやすいと思うんです。学校の施設を利用すればプリントアウトができ、それを教材として学習するのが、より良い形なのではないかと思っています。
――生徒たちに寄り添う学校の姿勢が感じられますね。
(廣畑)おっしゃるとおり、現在の校長は生徒に向き合う、寄り添うことを大切にしています。それには私学の女子校が大阪には多いという現状もあります。進学先として魅力を感じてもらううえでも手厚いサポートは大切にしていきたいと考えています。
学校と家庭がワンチームとなり、生徒の英語力を高めていく
――改めて全員受験の流れとなって、良い影響を感じられますか?
(廣畑)生徒に関しては難しいところも感じています。自主的に受験を考える生徒は英検の問題集や単語集を見ていて、頭のどこかに英検があるようにうかがえます。また大学の指定校推薦を狙おうと考えている生徒は、高校3年生までに準1級を取ろうといった高い意識が見られます。一方、そうでない生徒もいまして。彼女たちにとって全員受験がどう影響しているのかというのは、分からないのが正直なところです。
また学校に関しては、実は英検から受験率伸長差部門で優秀団体賞をいただきました。確かに2022年から全員受験としましたから、前年から比べ、中学・高校を合わせて700名以上が受験したことになるので受験者数は伸びますよね(笑)。
とはいえ受験料の高さについては全員受験をこのまま推進して良いものかと思わせるものがあり、もう少し安くなればと思っています。たとえば二次試験で不合格となり、次回の一次試験が免除となった場合でも同額の受験料を支払う必要があるんです。試験の機会は年3回。3級ならつど6400円、準2級なら7900円、2級なら8400円が必要となりますから、費用の負担は小さくありません。それでも1回でその級を合格したらPTAからお祝いとして図書券が贈られるので、マイナスの印象を受けることはないのですが。
――1発合格だと級に応じた額の図書券がPTAから贈られるというのはユニークな支援策ですね。原資は保護者からの入学金や授業料、寄付金などからかと思いますが、関係者の皆さんの間できちんとコンセンサスが取れているところが素晴らしいですね。
(廣畑)英検だけでなく漢字検定などでも合格したら図書券が贈られるのですが、本当に、保護者の方々の理解があってこその施策となります。それはとてもありがたいことです。
また、英検への当事者意識を高めるという点において、春の試験の前には「何月何日に生徒全員が受験をします」というお知らせを保護者の方にいたしました。第2回目、第3回目もその前に同様の案内をしたいと考えていますが、そうすることで保護者の方にも試験や受験勉強への意識を高めていただき、生徒と共有し、関係者全員で検定試験にのぞめればと考えています。
そうして学校と家庭がワンチームとなって英検に向かっていく過程で英語学習を日常的なものとし、引いては英語を好きになってもらう。その状況を生み出すことが、私たちの目標とするところなのです。
取材・構成:小林慧子/記事作成:小山内 隆
「シリーズ英検活用 あの学校はどうしてる?!」
#01:あえて通常授業に組み込まない 1800人のエネルギーを英検に集中させる手法とは
#02:英検の全員受験で英語力を強化!学校一丸となって取り組む『英検まつり』の仕組みとは?
#03:“英検全員受験”という環境が生徒と家庭をワンチームとし、生徒の英語力を高めていく。
#04:国公立志望でも英検は有用! / 和歌山信愛中学校・高等学校
#05:張り巡らされた戦略が切り拓く英検合格への道