コーパスを授業で活用!ネイティブが使った言葉の実例に触れ、生徒自身で気付きを得て主体的に、リアルな言語知識を学べる
最終更新日:2023年4月25日
- おすすめしたプロフェッショナル
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中原 涼介 / 山手学院中学校・高等学校
COCA(Corpus of Contemporary American English)
Corpus of Contemporary American English
- おすすめのポイント
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近年日本全体でコミュニケーションを重視した授業が重視されているが、知らない表現は使えないので、決まり切った言語のパターンをたくさん知ることがとても大事だと感じていた。そのためには実際にネイティブが使った言葉の実例に触れるのが1つの解決策だと考え、コーパスを取り入れたところ、よく使われる自然な表現をデータに基づいて示すことができた。また、生徒自身で気付きを得るなど主体的に、楽しんで授業に参加する生徒が増えた。
Q. 対象としたクラスの特徴(学年、人数、授業目標等)
学年と人数:
主に高2、1クラス40人
英語能力のレベル感、動機付けの強さ:
志望校のボリュームゾーンはMARCHくらい。上の方には東大志望者や帰国子女、英検準1級合格者も若干いるレベル。テストなどで追い込まなくても自分で頑張るタイプの真面目な生徒が多い。
授業目標:
本校1年目で正直模索中。生徒と接する中で決めていこうと思っている。
個人的に達成したいこと・こだわりたいこと:
英語を使ってコミュニケーションができることも大事だが、それで得られる楽しさや言語そのものがもつ面白味、それを習得する人の能力の面白さを感じてもらえると嬉しい。授業でも、主題と逸れても言語に関することを楽しそうに話すことで面白さを伝えたい。
Q. 課題意識、導入の経緯
大学院で研究していたテーマが『データ駆動型学習』といって、元々コーパスを教育目的で使うことに興味があった。
それとは別に、近年日本全体でコミュニケーションを重視した授業が重視されているが、大学院の指導教員の言葉「知らない表現は使えない」がとても心に残っていて、当たり前といえば当たり前だが真理だと思う。最近『英語は決まり文句が8割』という本が流行っているがまさにその通りで、決まり切った言語のパターンをたくさん知ることがとても大事だと考えている。
では何をすればそれができるかと考えたときに、実際にネイティブが使った書き言葉や話し言葉を集めた実例の標本であるコーパスを使って、実例に触れてもらうのが1つの解決策ではないかと思ったことが、本教材を導入しようと思った経緯。
いくつかあるコーパスのなかでも『COCA(Corpus of Contemporary American English)』は、アメリカの現代英語を集めた大規模なコーパスで、会員登録をすれば誰でも無料で使用でき、インターフェースも使いやすい。
Q. 実際の使い方
授業における展開:
体系的に毎回授業に取り入れるわけではなく、授業準備で使う、コーパスの検索結果を見せて一緒に考える、など要所要所で使う道具として活用している。
例えば、教科書本文に”in the dead of winter”というフレーズが出てきたときに「winter以外に使われるフレーズあるのかな?」と生徒に課題を投げかけた。授業準備として”in the dead of 名詞”でコーパスで検索した結果のスクリーンショットを、配布プリントの裏に印刷しておく。それを見て生徒が”winter”以外にも”night”が使われていることに自分で気付く。その共通点を問うと、真冬や真夜中のようなシーンとした”dead”なイメージがより深く印象に残る。
・検索入力画面
・検索結果画面
先日は、期末テストで”have a sleep”と答えてほしい部分があったが、”take a sleep”と答えた生徒が数名いた。「では、それぞれの出現頻度をコーパスで調べてみよう」と調べてみると、”have a sleep”は検索結果として70パターンほど出てきた(70回位使われている)が、”take a sleep”は7回しか使われていなかった。7回の文脈をよく見ると、”take a nap”に言い換えられるなどおそらく言い間違いか、すぐに直されてしまうような、少なくともあまり典型的ではない使い方だということが見えてくる。
このように『より自然な表現をデータに基づいて』きちんと示せるところがとても便利。
・検索入力画面(”have a sleep”)
・検索結果画面(”have a sleep”)
・検索結果画面(”take a sleep”)
Q.工夫したポイント
授業準備で工夫していること:
プリントにコーパスの検索結果を載せることが多いが、オーセンティックな実例なので高校生にとっては難しい語彙が使われていることもよくある。そのため高校生でも分かる例文を選んだり、挿入部分を少し切って簡略化したりする時もある。
基本的に、教科書の指導をする際は各セクションごとにプリントを用意している。そのプリントは基本的に以下の流れで作っており、最後におまけのようにコーパスの結果を付けている。
・新出単語→本文→問い(本文を読みながら答える)
・チャンクごとに区切った本文(音読練習用)
・正誤問題(音声を流してディクテーションで書き取る)
・触れてほしい表現についてコーパスの検索結果を数個(見て考えさせる)Q. 実施した結果
生徒の成績の変化等:
最終的に教員が答えを言うこともあるが、コーパスの結果から考えてみてと問いかけるようにしているので、一方的に教えるよりも授業に主体的に参加し、生徒自身で気付きを得る経験ができている。分かった生徒が周囲に教えるなども楽しく取り組める。
授業目標や工夫の意図との対比:
始めたばかりの頃は、一部の生徒だけではあるが「データより入試に出ることを教えて欲しい」という雰囲気があった。進学校なので致し方ないとは思うが、徐々に「こんな授業のスタンスもあるのね」と生徒が馴染んできて、「アカデミックな雰囲気を感じられて楽しい」という生徒もいる。
Q. 今後に向けて
コーパスの検索の仕方は、自分自身が練習しないと難しいのでその勉強がまず大事。自分もまだ全機能は使いこなせていないので、勉強してより活用したい。
※コーパスについては以下で学ぶことができる。
・使い方紹介ページ https://www.english-corpora.org/coca/help/tour.asp
・研究社 リレー連載 実践で学ぶコーパス活用術
・『英語教師のためのコーパス活用ガイド』大修館書店
・『ベーシックコーパス言語学』ひつじ書房(コーパスとは?を学ぶ場合)現状やっていることは、教員自身が検索した結果をプリントに載せたり、生徒の前で検索して見せたりだが、徐々に生徒自身がプチ言語学者のように、自分たちでコーパスと向き合って知りたいことを探求していくことができれば、より主体的な学びが生まれてくるだろうと思う。
それをやるためには、生徒が発見したことを正しく評価やフィードバックできるだけの言語知識が教員に必要。知識が足りないと、生徒が見つけたことがたまたま見た範囲の中での話なのか、本当に正しい言語の話なのかが判断できない。自分自身も含め教員側も学び続けることが求められるだろう。
最終目的としては生徒が自分で検索して調べてというところに到達出来たらいいなとは思っているが、コーパスの使い方を指導している時間はなかなか取れない。どこかでやりたいとは思っている。
- 中原 涼介
- 山手学院中学校・高等学校
プロフィール
本校の専任教諭。大学卒業後、岐阜県公立高校の教諭を2年経験。その後、名古屋大学大学院に入学・修了し、本校に着任。大学院では主にデータ駆動型学習について研究した。 受験生の頃、代々木ゼミナールの佐々木和彦先生による、読解原則に基づいたシステマチックな英文読解指導…